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第二章

ティアラ様を見守り隊

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 それからは本当に目まぐるしい日々だった。

 聖マドレーナ王国は王制を廃止し、名前も聖マドレーナ“王”国から、聖マドレーナ国と改められた。
 政治は国民院と貴族院で話し合われたものが、国議院で国民代表と貴族代表、王族に代わる国の代表で議論されるという仕組みにがらりと変わった。
 そしてなんと、国民のたくさんの支持により、聖女がその国の代表になることとなったのだ。
 へー聖女かぁ……大変ねぇ……。
 そんな人ごとのように考えていた私に「ティアラさんのことだよ」とあきれながらアユムさんが言った音は、ついこの間のこと。

 かくして私は、この聖マドレーナ国の代表となってしまった。
 いや、まさかすぎる。
 ただの脳筋伯爵令嬢だった私が。

 ずいぶん断ったのだけれど、国民の中で私の株は予想以上に高く、貴族たちもこれ以上国民を刺激しては今度は自分たちが追放されるとでも思ったのだろう、国民の意見に賛成が固まってしまったのだ。

 女子高生から転生して伯爵令嬢に。
 伯爵令嬢から聖女に。
 聖女から代表に。
 ずいぶんな出世だ。

 国王一家は離宮での幽閉が決定され、各主要大臣の辞職も相次いだ。
 もともと絶対的な王という存在により、何も言えなかった人たちも多く、責任を感じる人間も多かったみたいで、今は後任の選定で大忙しだ。
 何も言えずにいた己を恥じ辞職を願い出ていた宰相を引き留めなければならないほどに、今城は人手不足だ。

 まだまだ国内がバタバタとしている故に代表就任挨拶や儀式も簡易的に済ませて、今は新たな法整備や各町のインフラ整備、国内政治の安定に注力している。

「ティアラ様」
「カナンさん。どうですか? 投票の方は」
「気合入ってますよ!! 投票率も高くなりそうだし」

 私が代表になってすぐ、国民投票制を導入した。
 国民の目で見て、良いと思う制度の採用検討をしたり、良いと思う人を大臣や各院の議員に起用したほうが、より国民の声に直結するのではないかと考えたからだ。
 まぁ要するに、あちらの世界のパクリ制度ではあるのだけれど。
 前は絶対君主制が強すぎたから、自分たちで自分たちの未来を決めていくという第一歩に、国民の期待も高い。

「それはいいことですね。開票日が楽しみです」
「へへっ。って……それはそうとティアラ様!! 連日町に足を運んで視察したり城で執務したりしてるみたいですけど、自分のことは大丈夫なんですか!?」
「自分のこと?」

 はて、いったい何の話だろう。
 私のことで何かあったかしら?
 首をかしげる私に、あきれたようにカナンさんは大きくため息をついた。

「アユムとのことですよ!! 婚約もまだっていうじゃないですか!!」
「あー……」

 そう。
 あの日思いを確かめ合った、であろう私とアユムさんだが、その仲は驚くほどに進展していない。
 というか、会えていない。

 宰相の計らいにより、魔王を倒し私とともにダンジョン“ヨミ”のボスを倒した勇者アユムさんは、貴族街に屋敷を与えられ、公爵位を賜った。
 これからは立場上、貴族や他国の王と接する機会もあるだろうと、今必死に貴族マナーやこの世界についての基礎知識を勉強しているところだ。

「で、でも、まだアユムさんとはどうなるかわかってな──」
「そんな悠長なこと言ってたら結婚できなくなりますよ!?」
「うっ……」

 ごもっとも。
 だけどこういうことを私が勝手に進めていいものなのか、決めかねている部分はある。
 普通ならば親同士が婚約の日取りを決め、婚約式を執り行ったのちに結婚の日取りを決め、結婚となる。

 そう、普通ならば。
 だけれど、本来話し合うべきアユムさんのご両親はここにはいない。
 いなければ本人が、となるが、お互いに忙しくて会えていない今の状況で、私の中で自分が決めてもいいのだろうかという不安が渦巻き始めたのだ。

 あれから二人きりで会ったりもないし、ましてデートとかそういう思いあう男女がするようなことだってしていない。
 もしかしたらあれは夢だったんじゃないかとすら思い始めている。

「アユムとそういう話してないんですか?」
「……むしろ会えてません」
「……」
「……」
「……はぁぁぁぁあああ!?」

 私の言葉に笑顔を固まらせ、そして発狂したカナンさん。

「デートは!? 夜に二人だけの語らいをする時間は!?」
「夜はアユムさんも疲れているでしょうし、伺うことはないです。デートも、アユムさんは忙しいのだからって考えたら、無理は言えず……」
「ヘタレか!! 二人そろってヘタレか!!」
「仕方ないじゃないですか恋愛初心者なんですからぁぁああ!!」

 アユムさんはどうだか知らないけれど、私は前世から恋愛経験0な恋愛初心者だ。
 駆け引きなんてわからないし、相手がこういう時どう出るかなんて想像もつかないし、何を考えているかすらもわからない。
 ヘタレと言われても否定できないところがまたつらいところだ。

「ティアラさん、とりあえず、二人で話をすべきです!! 早急に!!」
「早急に……?」

 だけど、ゆっくりできる時間を邪魔したくはない。
 毎日毎日頑張っているのだもの。

「ま、また折を見て……」
 私の言葉にカナンさんが、ダンジョンボスもびっくりの禍々しいオーラを発し始めた。

「折を見てって……何十年後!? あーもー!! わかった!! あたしにまかせてください!! この『ティアラ様を見守り隊』隊長のあたしに任せとけば、何も心配いらないからぁぁぁぁああああ!!!!」

「は!? え、ちょ、カナンさん!?」

 何やら叫びながら、カナンさんはどこかへ走り去ってしまった。

「……『ティアラ様を見守り隊』って……何?」





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