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第一章
Side歩~帰還~
しおりを挟む「ティアァァァアアアアアアア!!」
白い光に包めれて、俺たちは“扉”の向こうへと吸い込まれていった。
そして眩い光がおさまり、次に目を開けると──
「なっ、なんだお前達!!」
「どうして“扉”が……って……おい待て、この男……“贄”だ……!! それも勇者に選ばれた特別な……。この女も……。後ろの男は……確か前に消されたここの職員じゃないか……!!」
ざわめきの中心に、俺とれいなちゃんと守さんは立っていた。
呆然と。
スーツ姿の男達に囲まれて
顔立ち、言語、それにこの白一色の無機質な部屋。
間違いない。
ここは──日本側の“扉”を管理する部屋だ。
「俺たちは向こうの聖女に助けられて、こちら側に返還されました」
守さんが俺とれいなちゃんの前へと進み出て、スーツの男達の中でも一番偉そうな年配の男性に報告した。
「っ、そうだ、手紙!!」
ティアラさんのことを考えてぼーっとしていた頭を無理矢理に働かせて、俺はマントの内側に入れていた彼女から託された手紙を差し出した。
「あちらの世界の聖女から、これを責任者の方へ、と預かってきました」
俺が手紙を男へ差し出すと中を確認した男は次第に顔面を蒼白とさせ、俺たちは急遽そのまま総理大臣の元へと通されたのだった。
そして手紙を読んだ総理大臣は、同じように顔の色を無くしてから、俺たちへ頭を下げて謝罪した。
その後は早急に、事は目まぐるしく動いた。
俺たちは家族の元へ返され、すぐに【贄制度】の廃止と“扉”の封印についてが発表された。
迎えにきた俺の家族も、れいなちゃんの家族も、守さんの家族も、皆同じように泣きながら、俺たちの無事の帰りを喜んでくれた。
そして今、俺は久しぶりの自宅のリビングで、れいなさんと守さんにメモへと書いてもらった電話番号を携帯へ登録している。
外では未だマスコミが騒いでいるようだけれど、出る必要は無いと父が俺を守ってくれて、今はそれに甘えさせてもらっている。
「歩? お風呂沸いたわよ、先入っちゃいなさい」
「ん、あぁ、わかったよ。ありがとう」
なんだか変な感じだ。
その会話は、俺とティアラさんの会話のようだったから。
あれ、もしかして俺、ティアラさんに母親として見られたりして……ない、よな?
………………あやしいな……。
「ティアラさんは天然で鈍いからなぁ……」
絶対伝わってない。俺の好意。
そんな愛しい女性のことを思いながら、脱衣所で服を脱ぐと、ズボンの中の石に気がついた。
「やば……ティアラさんに渡すの忘れてたな」
ボスの魔石。
一体何の効果がある魔石だったんだろうか?
俺の魔力なら発動できるんだろうけれど、流石にこの世界でいきなり水やら火やら出現させたら大問題だから、わからないことには手を出さないでおこう。
風呂に入っている間も無意識に思い出すのはティアラさんの顔。
無事だろうか?
一人で無茶してないだろうか?
心配すぎる……。
こんなに心配になるのも、俺が母親のように過保護になるのも、ティアラさんだけ……なんだよな。
風呂から出るとダイニングにはおいしそうなご馳走がたくさん並べられていた。
寿司、味噌汁、黄色く輝くたくあん。
それにきな粉の団子に羊羹。
あぁ、俺の好きなものばかりだ。
久しぶりの脂っ気の少ない食事を、久しぶりの家族と楽しんで、俺はお腹いっぱいに食べた。
そして食後にリビングでのんびりと過ごす。
いつもは食後はすぐに自分の部屋に行ってしまう兄と弟も、帰るはずのなかったであろう俺との久しぶりの会話を楽しもうと、リビングに集まった。
「──お前、本当に無事でよかったよ」
「ほんとだよ。歩兄ちゃんがあっちに行ってから、父さんも母さんも笑顔をなくして……。大学もさ、皆、生気を失ってるって聞いたよ」
「大学で?」
嘘だろう?
自分たちで“贄”に選んでおいて?
「自分の一票で人一人の人生を奪ってしまったっていう罪悪感だろ。ま、当然だよな。今更わかっても遅いっての」
兄のその言葉からは確かな憤りを感じて、俺のために怒ってくれる存在というものに胸が熱くなった。
一人の命を奪うことの重み。
それは一生彼らの中に残り続けるのだろう。
どのみち、俺の知ったこっちゃない。
「歩ー? あんたのマントから手紙が出てきたんだけど……」
「!!」
脱衣所から母さんが手紙を持って現れ、すっかりと忘れていたものを思い出す。
「なぁに? これ。責任者へ、って……。政府の方に渡さなきゃいけないものなんじゃ……」
「大丈夫。もう見せた後だから」
ティアラさんが書いたあの手紙。
総理大臣は一通り読んで、最初に見せた男と同等かそれ以上に顔を青くさせ、すぐに俺たちに関しての指示を出していった。
そして謝罪とともにこれを俺に持っていろと手渡した。
日本語で“日本の責任者の方へ”と書かれた可愛らしい字。
読んでみよう。そう思い食後のきなこ団子を口に運んだ、その時──ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
「はいはーい。──あらまぁいらっしゃい!! どうぞ入ってくださいな」
すぐに玄関へ迎え出た母さんのどこかウキウキとした声が聞こえる。
招き入れた、って言うことは、知っている人だったのか?
そしてリビングに入ってきた人物に、俺は驚き食後に食べていた団子の串を口からぽろりと落とした。
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