上 下
44 / 63
第一章

囚われたティアラ

しおりを挟む

「やった……やったぞ……!! 聖女が魔物を倒した……!!」

 誰かが興奮したようにそう叫んで、それからはその場にいた全員が大きく歓声を挙げ、魔物の討伐を喜んだ。

「さすが聖女様だ!!」
「あぁ私は信じていたよ、ティアラ嬢が本物の聖女様だとね!!」
「こんな素晴らしい聖女様を輩出した我が国はこれからも安泰だ!!」

 おーおー、好き勝手言ってくれる。
 人間とはなんと調子の良いものか。
 力があるとわかった瞬間のこの手のひら返し。
 何だか気持ちが悪い。

「おぉ……何ということだ……。ティアラ嬢、本当にありがとう……!! そして息子の数々の無礼、本当に申し訳なかった」
「そのことに関しては、陛下が謝ることではありませんわ」

 謝るならばそこでブスッとしてるウェルシュナ殿下だ。
 もっとも、謝られたところで許すわけがないのだが。

「こんなに素晴らしい聖女を生み出したのだ。プレスセント伯爵にはこれをやらねばならんな」
 国王陛下はそう言って懐から黒い石で作られた腕輪を取り出すと父の方へと歩み寄り、そして戸惑う父の腕にそれをはめた。

「伯爵は宮廷魔術師としていつもよく国を支えてくれているからな。これは元々伯爵にと作らせた特注品だ。勇者が討伐した魔王の持っていた魔石で作らせた、国宝級の品でな、授与式をする前になってしまったが、受け取ってくれたまえ。ティアラ嬢、君も」
 言いながら陛下は、今度は小さな指輪を取り出し、それを私の右手の薬指へとはめた。

「お父上のものを作る際に材料が余ってな。同じものを小さくして指輪として作ってもらっていたのだ。まさか役に立つことになるとは」
 気持ち悪いほどに笑みを浮かべながら玉座へと戻る陛下に、私は眉を顰めた。
ふと隣を見ると、父も同じように何か考えているように見える。
 今魔王の魔石で作ったと言っていたけれど、まさか何かしら効果のある魔石……?

「ウェルシュナ」
「はい、父上」
 陛下に促されてウェルシュナ殿下が私の目の前へと歩み寄る。
 久しぶりに間近に見る、王子様然りといった煌びやかな男に、思わず一歩後ずさってしまう。
 黙っていれば王子なのだ。黙っていれば。

「ティアラ、本当にすまなかった」
「いえ」
 出てきたのは謝罪の言葉。
 気持ち悪い。
 そんな言葉一つで、あの日の屈辱が癒えることはない。

「私がお前を信じてやれなかったばかりに、辛い思いをさせてきたんだ。これからはお前を労り、お前を信じ、理解できる人間になろう」
「いえ結構です」
 
 しまった。
 心の声が漏れてしまった。盛大に。
 そしてその漏れた言葉によってウェルシュナ殿下の頬が引きつって固まってしまった。

 ただ本当に、もうそんな言葉はいらないのよ。
 今更もう遅い。
 今更労り、信じ、理解されたところで、私の人生は大きく変わってしまった。
 もう関わりたくも、関わるつもりもない人なのだから、あとは放っておいてほしい。
 それが一番、私にとってありがたい贖罪の仕方だ。

「陛下、先程の二つの約束は守ってくださいましね。魔法で保護しているので、破ってしまうと陛下のお命も危ないことになりますから」
「無論。国民の減税についてはすぐにでも対応しよう」

 よかった。
 これで今まで重税で苦しんでいた国民の生活が、少しは豊かになれば……。
 カナンさん達の笑顔が浮かび、自然と笑みが溢れる。
 だがそんな笑みは、次の瞬間、一瞬にして凍りつくことになる。

「急いで私達の結婚式の準備をさせねばな、ティアラ」
「──は?」

 今この野郎何つった?
 あまりの衝撃につい心の中の口が悪くなってしまったが仕方がない。
 私の空耳だろうか?
 今、私たちの結婚式の準備、とか聞こえたんだけれど。

「あの、結婚式、というのは……メイリア嬢との?」
「いや、私と、お前の、だ」
「……」
「……」
「はぁぁぁあああ!?」

 どういうこと!?
 脳みそ大丈夫!?
 私この人に婚約破棄されて、実質処刑の追放されてるのよ!?
 何がどうしてそんな相手と結婚しなきゃならないわけ!?

 そんなジタバタした自分を一旦落ち着かせ、至って冷静を装い、再び口を開く。
「殿下、私は婚約を破棄されておりますし、あなたにはあなた好みの愛らしいメイリア嬢がいらっしゃるではないですか。私は実家に戻り、ゆくゆくは町に降りて暮らすつもりです」

 何より私を射殺さんばかりに睨んでいるメイリアに気付いて!!

「あぁもちろんメイリアとも結婚はするさ。メイリアは私の可愛い恋人だからな。だが、聖女の血を残すのは大切な義務。お前を正妻として、メイリアを側室とするつもりだ。不服はなかろう?」
「ドヤ顔で言われても納得できませんからね!?」

 何で自分を殺そうとした男と結婚しなきゃならないのよ!!
 何よりウェルシュナ殿下と子を成すとか絶対嫌!!

「とにかく、もうあなたと会うつもりはありません。私は父とプレスセント伯爵家へ帰りますので、これにて失礼!! 行きましょう、お父様!! ……お父様?」
 腹にすえかねた私が出て行こうと父を促すも、父は動こうとしない。
 見れば、愕然とした表情で自身の両手を見つめているではないか。

「お父様? どうしたの?」
「魔法が……魔法が、使えない……!!」
「はぁ!?」

 魔法が使えない?
 宮廷魔術師が!?
 私が声を上げると、今度は黙って見ていた陛下が薄気味悪く微笑んだ。

「あぁ、効いてきたか。魔力封じが」
「魔力封じ!?」
「うむ。伯爵の進言はどうもワシには耳障りなことが多くてな。それでも余計な力がある分、聞かねば厄介。そこで、魔力を封じるアイテムを作らせたのだよ」
「魔力を封じるアイテム……。っ、まさか……!!」
「捕らえろ」

 気づいた時にはもう遅い。
 陛下の命令により、騎士達が一斉に動き出し、私とお父様は数人の騎士によって鎖で拘束されてしまった。
 そう、先程付けられた腕輪と指輪こそが、魔封じのアイテムだったのだ。

「ティアラ嬢のものはついでだったが、作っておいてよかった」
「ティアラ。君と私の結婚式の準備が整うその日まで、君には君専用の特別な部屋で待機していてもらおう。連れて行け」
「っ、何を……!? お父様……!! お父様ぁぁぁああ!!」

 ウェルシュナ殿下が言うと、私は騎士たちに厳重に囲まれ、無理矢理に部屋から連れ出されてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん
恋愛
鳥飼 音芽(とりかいおとめ)は隣に住む幼なじみの霧島 温和(きりしまはるまさ)が大好き。 でも温和は小さい頃からとても意地悪でつれなくて。 どんなに冷たくあしらっても懲りない音芽に温和は…? 表紙絵は雪様に依頼しました。(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) 雪様;  (エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755  (ポイピク)https://poipiku.com/202968/ ※エブリスタでもお読みいただけます。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...