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第一章
通信石
しおりを挟むさて、魔物の気配は──うん、もうこの層は安全みたいね。
「ティアラさん、あそこ……」
アユムさんが指差す先を見ると、広いフロアの一角に木が三本。
ダンジョン内でも自生する数少ない植物であるダレンの木だ。
この木の葉は食べることができるのだけれど、前世でいうミントのような味で、それ単体でたくさん食べるというのはお勧めしない。
そして三本の木のその間には、崩れかけた大きめのテントが……。
「あれは……野営施設……!?」
おそらくここを訪れた冒険者か、探索作業担当の管理役員のものだろう。
薄汚れ、ところどころ破れているけれど、ちゃんとしたテントだ。
「行ってみましょう……!!」
「はい!!」
私たちはすぐにテントに駆け寄ると、そっと中の様子を伺い、細心の注意を払いながら、その中へ足を踏み入れた。
「お邪魔しまーす……」
うわぁ……。
ごちゃごちゃと散らかった物品達。
魔物が襲ってきたのかしら?
四人から五人が入れそうなほどのテントの中は、備蓄品が散乱して足の踏み場もないほどに荒れ果てていた。
奥の方にも2箇所カーテンで仕切られて2部屋ほどあるみたいだから、整理すれば快適に過ごせそうね。
散乱した紙やペン、本、コップと皿などの食器、カトラリー、それに布団にしていたであろう大判の布。
うん、洗ったら使えそうだわ。
放置されたリュックの中には……大小それぞれのタオルが複数枚。
泉で服を洗って、その間これを身体に巻きつけておけば良いわね。
ちょうど血に濡れて気持ち悪かったところだから、ラッキーだわ。
「ティアラさん、見てください」
「なんですか?」
アユムさんに呼ばれて見てみると、そこには一体の白骨遺体。
そして──。
「!! 通信石!!」
白骨化した手に収められているのは、金で魔法陣が描かれた小さなクリスタル。
通信の魔石だ。
これに魔力を流すことで思い浮かんだ相手と通信を行うことができるのだ。
ただし、相手が通信石を持っていること前提で、通信拒否をされると繋げられないのだけれど。
言ってみればメール機能も写真機能もウェブ機能もない、前世の携帯のようなものだ。
これがあればプレスセント伯爵家に連絡して、皆を安心させてあげられる……!!
あ、でも私、魔力が流せないんだったわ……。
私はチラリと隣でクリスタルをもの珍しげに覗き込むアユムさんに視線を向けてから、口を開いた。
「アユムさん、お願いします。プレスセント伯爵と思い浮かべながら、この通信石に魔力を流してください。きっと通信石を持っているお父様につながるはずです」
光の魔力を持っている勇者であるアユムさんなら、魔石を発動させることができる。彼だけが頼りだ。
「わかりました」
アユムさんは細く冷たくなった指からそっと魔石を貰い受けると、自身の魔力を流し始めた。
流し始めてすぐに魔石は青く色付き、応答承諾が降りた。
「!! そのまま相手の魔力と繋がるイメージで、通信を繋げてください!!」
通信石は応答拒否の場合は赤くなって通信が遮断されるが、応答承諾が降りると青くなり、通信準備が整うのだ。
あとは相手の魔力と自分の魔力を繋げるだけだ。
まぁ、私は知識だけで、できた試しはないのだけれど。
アユムさんが眉間に皺を寄せさらに魔力を流し繋げた刹那、私たちの目の前に大きな画面が現れ、銀髪に青い瞳の、渋めのイケおじが映し出された。
「お父様!!」
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