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捻くれ子爵の不本意な結婚

◎37.5

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 トリスタンはシャノンの隣に腰を下ろすと、ベッドに片手をつき、寛いだ姿勢でシャノンを見下ろした。シャノンは起き上がってもう少し彼の身体を眺めたかったけれど、黙って彼を見上げ、彼の言葉に耳を傾けた。
「まず、これは……」ちらりと自分の股を一瞥して、彼は言った。「普段はきみの叔母様の言うとおりなんだけど、男は性的に興奮すると、こういう状態になるんだ。つまり、今ぼくは本能的にきみと愛を交わしたいと思っていて、身体がそれを示すことを制御できない状態にある。まあ、感情が伴っていなくても直接刺激を与えればこの状態になるわけだけど……」
「待って、今の説明ではおかしいわ。だって私、まだあなたに触れていないもの」
 シャノンが説明を遮ると、彼は微かに眉を顰めた。
「触れることだけが刺激ではないんだよ、ダーリン。目で見たり匂いを嗅いだりするだけでも充分な刺激になる。きみのことになると、ぼくは異常なまでに敏感だからね」それから、彼はシャノンの横髪を指で優しく梳いて、困ったように首を傾げた。「つまり、きみのそばにいるだけでも、ぼくは簡単にこの状態になってしまう。抑えるのに苦労するくらいにね」
 そう言うと、トリスタンは苦々しい笑みを浮かべ、シャノンのうえに身を屈めた。
「これからすることは……」ぎしりとベッドが軋み、彼の顔が、鼻先が触れる距離まで近付いた。「まず、ぼくはきみにキスをする」
 彼はシャノンの鼻の頭に軽く口付けて、唇を啄ばんだ。
「いつものように唇を奪って、それから……」
 あまく囁く唇がシャノンの輪郭を辿り、彼が耳殻に歯を立てた。シャノンは熱い溜め息を漏らし、彼の挙動のひとつひとつに全神経を集中させた。
「耳に、うなじに、喉に……この可愛らしいくぼみにキスをして……」吐息混じりに囁きながら、彼の唇が下へ下へと降っていく。彼はシャノンの喉の下——鎖骨の中心に唇を押し付けて、それから開かれた胸元に点々と口付けた。
 彼の吐息が肌の上をすべるたびに、シャノンの肌は燃えるように熱くなった。彼はナイトドレスの薄布越しにシャノンの胸に指先を滑らせて、控えめな乳房を手のひらに納めた。
「それから、この慎ましい乳房を愛撫するんだ」
 繊細な動きで胸の輪郭をなぞられて、シャノンは喘ぐように息を吐いた。乳房の先端が手のひらに捏ねられて、痛いほどに張り詰めている。そこは硬く突き出して、ドレスの薄布越しに存在を主張していた。
 彼はシャノンの素直な反応を愉しんでいるようだった。シャノンの胸のあいだから手のひらを滑らせて、円を描くように下腹部を撫でて、そこで彼は手を止めた。妖しく陰った珈琲色の瞳が、シャノンの目を覗き込む。
「ここから先は、実際にやってみたほうが説明しやすい。おいで、そのナイトドレスを脱いでしまおう」
 トリスタンに手を引かれ、シャノンは身を起こした。心臓が痛いほどに暴れていた。神経が昂って、軽く触れられただけでも震えてしまう。
 ナイトドレスの胸元に結ばれたリボンを解くときも、彼の指の動きは繊細だった。彼の手のひらがドレスの裾から忍び込み、シャノンの脇腹を撫であげる。シャノンが身を捩って腕をあげると、そのままドレスを引き抜かれた。
 トリスタンの珈琲色の瞳が艶やかにきらめいた。彼はドレスを床に放り投げると、両腕でシャノンを抱き寄せて、シャノンの唇を啄ばみはじめた。鼻先を擦り合わせるように何度も顔の角度を変えて、唇の隅々まであまく食まれる。シャノンは夢中になってキスに応え、彼の広い肩を、逞しい首筋を撫で、艶のある髪を指で梳いた。唇が離れ、彼が頬を、耳殻を唇で辿る。彼の吐息は炎のように、敏感になったシャノンの肌を灼いていった。湿った熱が首筋まで降りてきて、薄い皮膚を刺激する。大きな手のひらに背中を、脇腹を撫でられて、シャノンは身を善がらせた。
「愛してるわ、トリスタン……」
 吐息混じりの囁きが漏れる。彼は一瞬動きを止めると、唸るような声をあげ、シャノンをベッドに押し倒した。
「愛しい人、そんなにぼくを攻め立てないでくれ。抑制が効かなくなってしまう」
 囁いた唇が鎖骨をなぞり、その中心のくぼみに押し付けられた。彼はそのまま舌先でシャノンの身体の中心をなぞり、下腹部へと降りていった。両方の手のひらがシャノンの乳房を包み込み、長い指が輪郭を探る。優しく寄せるように乳房を揉まれ、シャノンは喉を喘がせた。張り詰めた胸の頂きが、痛いほどに刺激を求めている。太腿を擦り合わせて、彼女は必死に身を捩った。
 彼の舌がへそのくぼみを嬲る。ざらついた顎が下腹部に擦れて、シャノンをさらに興奮させた。親密だなんて、そんな上品な言葉では言い表せない。もっと純粋でがむしゃらな欲望を曝け出したくて堪らなかった。
 熟れた胸の頂きを指の腹で撫でられて、痺れるような刺激が全身を駆け抜ける。シャノンはびくりと腰を浮かせ、小さく悲鳴をあげた。トリスタンが顔をあげ、くすりと笑う。
「きみは敏感なんだな」
 囁きとともに吐息が腹を撫で、敏感な肌が粟立った。掠めるように口付けを落としながら、彼の唇がシャノンの身体を這い上がる。やがて彼は、手のひらに包まれた胸の頂きへと辿りついた。一方の頂きを親指で捏ねながら、彼はもう一方の頂きを口に含んだ。硬くなったそれを軽く吸われて、あまやかな刺激に、シャノンはまた身を震わせた。
 彼の舌はまるで生きているように、シャノンの乳首を締め付け、吸いあげて、ときには転がすようにして弄んだ。シャノンは淫らに喘ぎながら、彼の頭を胸に抱いた。今まで感じたことのない感覚が、痺れるほどの快感が全身を駆け巡り、もっと彼に触れて欲しいと悲鳴をあげているようだった。
 必死に身悶えるシャノンを余所に、彼は入念にシャノンの白い肌と桃色に色付いた境目を舌でなぞっていた。焦らすようなその刺激が、いっそうシャノンを高めていく。シャノンはついに、すすり泣きながら彼に乞うた。
「おねがいトリスタン、たすけて……私、もう……」
 彼は薄く笑い、シャノンの乳首をもう一度口に含むと、ちゅぱっと音をたてて吸いあげた。それからシャノンの耳元で、吐息混じりに囁いた。
「まだだよダーリン。もっと気持ちよくしてあげるからね」
 同時に彼の手がシャノンの腹をすべり降り、指先が柔らかな茂みに分け入った。最も秘めやかな箇所を彼の指に探られて、その初めての感覚に、シャノンは目を見開いた。咄嗟に手を伸ばし、彼の腕を強く掴んだ。
「だめっ、だめよトリスタン! そこは恥ずべきところだわ!」
「伯母様にそう教わったのかい?」
 吐息混じりに彼が訊ねた。シャノンはこくこくとうなずいた。結婚式が差し迫った頃、伯母は言っていた。そこはとても恥ずべきところで、洗い清めるときでもなければ、触れてはいけない箇所なのだと。
「そう……」彼はうなずいて、言った。「大丈夫、他の誰かが触れるのは許されないけど、ぼくはきみの夫だからね。ぼくにはきみのすべてを知る権利がある。伯母様も言っていただろう? 床入りの際は、夫にすべてを委ねるものだと」
 宥めるようにみつめられて、シャノンはうなずいて瞼を閉じた。
 ——大丈夫。私は彼を信じてる。彼を愛してる。彼は私を裏切らないわ。
 シャノンの手からちからが抜けると、彼はふたたびゆっくりと彼女の茂みを探索しはじめた。強張っていた太腿から徐々にちからが抜けていく。恥ずかしさを訴える代わりに、彼女はシーツを握り締めた。
 やがて彼の指先は、円を描くように一点をなぞりはじめた。単調な動きが続いているだけなのに、そこはじわじわと痺れるような快感に侵されていく。その刺激は次第に大きな波となって、シャノンへと押し寄せた。
 快感の波が身体じゅうで渦巻いて、下腹部が締め付けられる。シャノンは必死に彼の腕を掴んだけれど、彼は待ってはくれなかった。太腿が、ふくらはぎが、足先まで強張って、爪先がシーツに皺を刻む。鋭い刺激が身体の中心を突き抜けて、シャノンの思考は真っ白に弾けた。

 瞼を開くと、トリスタンの優しい瞳が目に映った。彼は前髪を梳くようにシャノンを撫でて、それから額にキスをした。
「大丈夫かい?」
 労わるように訊ねられて、シャノンはこくりとうなずいた。手足はまだぐったりとしていて、呼吸も乱れたままだった。シャノンは横たわったまま彼を見上げ、訊ねた。
「私、どうなったの……?」
 彼は穏やかに目を細めて囁いた。
「気をやった、と言うそうだ。オーガズムに達したんだよ。大抵の場合は快感を伴うものだけど、どうだった? 気持ちよくはなかったかい?」
「わからないわ……でも怖かった。頭がどうにかなってしまいそうだったの」
 シャノンが正直に打ち明けると、彼はまた、優しく髪を撫でた。
「まだ続けられそうかな。これからきみは何度も今の怖い思いをすることになるんだけど」
 シャノンは唇を噛んだ。確かに怖かったけれど、同時に言い表せないほどの衝撃が——快感があった。なぜだかわからないけれど、シャノンはまたあの感覚を味わいたいと思っていた。
「続けるわ。でもお願いがあるの。次は、私を抱き締めていて……?」
「仰せのままに、お姫様」
 そう言うと、彼はシャノンと唇を重ね、ふたたび茂みに分け入った。
 シャノンは不可思議な感覚に陥っていた。密やかなあの箇所が、お腹の奥が切なく疼き、何かに満たされたいと訴えているのだ。やがてシャノンの思考は唐突に、彼女の身体が求めているものが何なのか、その答えに辿り着いた。彼の指が、シャノンのなかに埋められたことで。
 ——ああ、だめ……だめよ。そんな、はしたないわ。
 シャノンはふるふると首を振り、彼に向かって手を伸ばした。彼はすぐさま身を屈め、シャノンの要求に応えてくれた。逞しい身体が、シャノンの身体を包み込む。
「大丈夫、きっとすぐに良くなるよ」
 彼は耳元で囁いて、彼女のなかをゆっくりと探った。くちゅり、くちゅりと水音がする。それはとても淫靡な音で、シャノンを酷く淫らにさせた。緩慢な動きがもどかしくて、彼女は自ら腰を揺らした。切なく疼くその場所を、はやくみつけて欲しかった。彼女の動きに気が付いたのか、彼は身をもたげ、彼女のなかを探りながら、さきほど成熟した彼女の蕾をもう一方の手で攻めはじめた。
 シャノンは彼の首に腕を伸ばし、縋るようにキスを求めた。すぐさま彼の唇がシャノンの唇を覆う。ふたりは我を忘れ、互いの唇を、舌を貪った。
「……スタン、怖い……怖いの……」
 喘ぎながら訴えても、彼は攻めるのをやめなかった。彼はシャノンの耳元で熱い溜め息を吐き、囁いた。
「大丈夫、イッて。ぼくはここにいるから」
 シャノンはうなずいて、己のすべてを受け入れた。快感の波がふたたび押し寄せる。背中を弓なりに反らして、彼女は解放のときを迎えた。強張った筋肉が痙攣し、動くこともままならない。彼が優しく背中を撫でた。
 やがて熱くて硬いものが押し付けられて、シャノンはハッと目を見開いた。彼女を見下ろす彼の頬は紅潮しており、呼吸は荒く、乱れていた。わずかに細められた瞳には、並々ならぬ情欲の火種が燻っており、それは今にも炎となって燃え盛ろうとしているようだった。
「シャノン、ぼくを受け入れてくれ……」
 哀願するように囁いて、彼はゆっくりとシャノンに腰を埋めていった。少しずつ少しずつ、彼はシャノンを満たしていった。途中、鋭い痛みがあったけれど、シャノンは逃げようとは思わなかった。
 もっと彼に近付きたい。もっと彼を感じたい。
 切なる想いを秘めながら、彼女は彼の背中に腕を回し、自ずと股を開いた。
 彼のそれは素晴らしかった。彼は彼女を最奥まで満たしてくれた。彼は緩慢な動きで優しく彼女を揺さぶった。すでに二度も達していた彼女の身体は感覚が研ぎ澄まされて、快感を覚えるのもはやかった。お腹の奥がきゅうきゅうと伸縮し、彼を逃すまいと締め付けているのが彼女にもわかった。
 またあの瞬間が近付いていた。意識が飛ばされてしまう前に、シャノンは彼を抱き締めて、止め処なくあふれる想いを彼に告げた。
「すき……好きよ、トリスタン。愛しているわ……」
 激しく吐息が奪われた。彼は吠えるように唸りをあげると、さきほどよりも鋭く、激しくシャノンを突いた。瞬く間に快感がうねり、それは激流となってシャノンを飲み込んだ。シャノンは逞しい背中に爪を立て、引き締まった彼の腰を両脚で挟み込んでしがみついた。
 やがてそのときは訪れた。彼は呻き、煮え滾るような情熱を彼女のなかに解き放った。シャノンは身を震わせて、彼の欲望と底知れぬ愛の証を、最後の一滴まで受け止めた。

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