37 / 42
旅立ち
目指すもの
しおりを挟む
少し考えるようにしてから、ハーゲンが言う。
「水の王。あなたがリヒトさまの母親について調査せよとおっしゃったのは、彼女がリヒトさまにとって害悪にしかならない存在だからですか?」
「そうだ。普通ならば、人間の子どもにとって母親というのは、憎もうと思っても憎むのが難しい存在のはずだが……」
イシュケルが、小さく息を吐く。
「リヒトはどうやら、母親に対して憎いという感情すら抱いていないようだ。関心がない。興味がない。我が子にそこまで切り捨てられるような女でも、あいつと最も血の縁が濃い人間なのは間違いないからな。今後の状況次第では、帝室の連中に利用されることも充分考えられる」
「……はい。我々が懸念したのも、その点です」
うなずき、ハーゲンは興味深そうな目でイシュケルを見た。
「失礼ながら、少々意外でした。こういった人間同士の駆け引きについて、精霊のみなさまというのはもっと無関心なのかと思っていましたので」
「無関心でいたばかりに、オレたちは最初の契約者を喪った」
淡々と返され、ハーゲンは息を呑む。なんの感情も透けない瞳で、そんな彼を見返したイシュケルが、すいと持ち上げた人差し指で相手の心臓を指さす。
「森の王を介してとはいえ、今のオレの肉体はリヒトの魔力でできている。そしてオレは、ロゼの復讐を果たすまで、この世界から消滅するつもりはない。――意味は、わかるな? ハーゲン・カレンベルク」
「……もちろんです。水の王」
高位精霊であるイシュケルが名を呼ぶたび、ハーゲンがリヒトと交わした『約束』に対する拘束力は強くなっていく。心臓に絡みついてくる冷たい魔力が増してくるのを感じながら、ハーゲンはまっすぐに相手を見返した。
「我が生涯において、リヒトさまは最後の主。今後何があろうと、私があの方以外に忠誠を捧げることはございません」
「それでいい。人間の子どものまっとうな成長に、教え導く年長者の存在は不可欠だからな。おまえは今後、リヒトにとって『ちょっと頼れる近所のおじさん』になれるよう努力しろ」
束の間、沈黙が落ちる。
ものすごく微妙な顔をしたハーゲンが、おそるおそるイシュケルに問う。
「ちょっと頼れる近所のおじさん……ですか」
「なんだ、お兄さんのほうがよかったか?」
真顔で返され、一瞬口ごもったものの、ハーゲンはがんばって言い返す。
「いえ、そういうわけでは。ただその、私としては、僭越ながらあの方の一の部下を目指そうと考えておりましたもので……」
だから、とイシュケルが眉根を寄せる。
「今は、そういうのはいいんだと言ったばかりだろうが。人間の魔力の安定は、精神と肉体の安定に直結している。常人には理解不能な天才に育てられた子どもが、いつどんなきっかけで心身の安定を失うものか、おまえには想定できるのか?」
ものすごくいやそうに言われ、ハーゲンは再び絶句した。
「オレの復讐もおまえの未来も、あのガキひとりに掛かっている。すべてを失いたくなければ、十五の子どもに過度の期待をかけるな。ただでさえ、壊れていないのが不思議なくらいなんだ。下手を打てば、あいつは簡単に潰れるぞ」
「……了解、しました。配下としての節度は守った上で、リヒトさまに少しでも親しみを持っていただけるよう、努力いたします」
そうして、今や帝国に対する反乱分子の巣窟となった東の砦を預かるハーゲン・カレンベルクは、主に選んだ少年にとって『ちょっと頼れる近所のおじさん』を目指すことになったのである。ずっと殺伐とした軍隊暮らしだった彼には、なかなか難度の高いミッションになりそうだった。
***
「スバルトゥルは! わたくしの召喚獣は、まだ見つからないのですか!!」
アンビシオン帝国の中央、帝都ラトカ。大陸で最も華やかな都市と謳われるその郊外に、小規模ながら一際美しく壮麗な城がある。代々の皇族女性が、夏の避暑地として利用しているエウリーナ離宮だ。
数日前から、この帝国で聖女と呼ばれる第一皇女エリーザベトが滞在していることを知っているのは、ごく限られた者たちだけである。
まるでそれ以外の言葉を知らないかのように、美しい獣の姿をしていた召喚獣の名を呼び続ける姿は、日に日に狂気じみていく。
「わたくしの……彼は、わたくしのものなのに! どうして、わたくしのそばにいないの!」
癇癪を起こしたエリーザベトが、優雅な猫足の丸テーブルに置かれていたティーセットをなぎ払う。かぐわしい紅茶が毛足の長い絨毯を汚し、彼女のためにと作られた可愛らしい菓子が潰れて散らばる。
以前ならば、聖女である彼女のそばには、常に多くの人々が侍っていた。気の利く侍女、貴族階級の友人たち、そして機嫌伺いにくる貴族たち。
けれど今は、誰もいない。長兄である皇太子の命令で選び抜かれた使用人たちは、彼女と必要以上に接触することはなかった。
そんなことを不満に思っていられたのは、ほんの少しの時間だけ。日を追うごとに、彼女の意識を占めるのは美しい青年の姿をした召喚獣だけになっていく。
エリーザベトが、はじめて人の姿をとったスバルトゥルを見たのは、八年前。彼女が十五歳のときだった。
――それまでに挨拶を交わしたどんな男性よりも魅惑的な容姿と、自信と威厳に満ちあふれた態度。一目でのぼせ上がった彼女は、すぐさま父親である皇帝に『あの方を婿に欲しい』と訴えた。遅くに生まれたはじめての娘に、ひたすら甘いばかりの父親ならば、すぐに願いを叶えてくれると思っていたのだ。
しかし、そんな彼女に与えられたのは、生まれてはじめての否定の言葉。愛娘のどんなわがままも叶えてきた、この大陸でも比類なき権力を誇る皇帝が、エリーザベトのささやかな願いを拒絶したのが信じられなかった。
どうして、なぜと泣きわめく彼女は、そこでようやくスバルトゥルが自分と同じ人間ではないのことを教えられたのである。
エリーザベトの心を奪った青年は、すでにほかの人間のものだった。召喚獣が、主以外の人間に興味を抱くことはない。たとえスバルトゥルの主である召喚士を排除したところで、彼がエリーザベトに目を向けることはないのだ。彼女に、高位精霊であるスバルトゥルを召喚できるほどの魔力がない以上、どれほど願っても彼がエリーザベトを主と認めることは叶わない。
悔しくて、憤ろしくて、たまらなかった。
エリーザベトは、この帝国で最も愛されるべき第一皇女だ。誰もが彼女の愛らしさを称え、その気品と知性の高さを褒めちぎる。なのに、本当に欲しい相手は賞賛の言葉どころか、彼女の存在を認識すらしてくれない。スバルトゥルが愛しげにその目を向けるのは、気味の悪い白髪の契約者だけなのだ。
理不尽だ、と思った。
遠目にしか姿を見たことはないけれど、スバルトゥルの契約者は平民出の男だと聞いたときから、エリーザベトにとって彼は蔑むべき対象でしかない。いつもみすぼらしい格好をして、ろくにとかしてもいないような白髪を適当に括っただけの、貧相な男。そんなものが、輝くばかりに魅力的なスバルトゥルの選んだ主だなんて、信じたくなかった。
ジルバ・タンホイザー。
彼のことを尋ねれば、誰もが『あの男は天才です』と口をそろえる。
高位召喚獣の契約者は、みな膨大な魔力保有量を誇る才能豊かな者たちだ。人の心を高揚させ、あるいは鎮める歌を歌う者。触れるだけで生き物の傷を癒やす者。ただそこにいるだけで魔力の流れが清められる者。他者の心を惹きつける圧倒的なカリスマを持つ者。そして、その天才的な頭脳により、たった数年で魔術研究を一世代進めたと賞賛される者。
彼らが帝国に忠誠を誓っている限り、この大陸における栄華は約束されたようなものだと口にする者までいた。
許せなかった。
このアンビシオン帝国において、ありとあらゆる賞賛は皇族の上にあるべきものだ。たとえ戯れ口にであろうと、たかが平民に与えられていいものではない。人々からの賞賛も――美しく気高い召喚獣も。
そんな彼女の心に寄り添ってくれたのは、年の離れた兄の、オスカー・フォルテス・アンビシオンだった。皇太子の地位にある彼と過ごした時間は、そう多くない。けれど、まるで話しの通じない皇帝よりも、ずっとエリーザベトの気持ちを理解してくれたのだ。
泣かなくていい、とオスカーは彼女に言った。
――おまえは正しいよ、エリーザベト。
――間違っているのは、世界のほうだ。
――だから、力を貸しておくれ。この帝国を、正しき未来へ導くために。
そしてオスカーは、エリーザベトの願いを叶えた。
彼女が心奪われた美しい青年の姿ではなく、なぜか本性である獣の姿ではあったものの、聖女としてスバルトゥルの主となることができたのだ。
彼に命じるために必要な腕輪は、はめているだけで大量の魔力を必要とする。本来ならば、エリーザベトの魔力保有量で耐えられるようなものではなかったが、それを補助するために必要な魔導石程度、帝室の宝物館にいくらでも保管されている。
スバルトゥルが人間の姿になってくれないことだけが不満だったけれど、彼のすべてを支配できる快感の前では些細なことだ。人々はエリーザベトを聖女として崇め、以前よりもずっと心地よい賞賛の言葉を捧げてくる。
これが、正しい帝国のあるべき姿。それを作り上げたオスカーを、エリーザベトは心から尊敬していた。彼がこの帝国の後継者であることが誇らしい。
そう、信じていたのに――
「スバルトゥル……スバルトゥル、スバルトゥル! 返事をなさい! あなたは、わたくしのものでしょう!」
――エリーザベトの呼び声に応える者は、誰もいない。
調子外れの叫び声が、豪奢な離宮の空気を虚しく震わせるばかりだった。
「水の王。あなたがリヒトさまの母親について調査せよとおっしゃったのは、彼女がリヒトさまにとって害悪にしかならない存在だからですか?」
「そうだ。普通ならば、人間の子どもにとって母親というのは、憎もうと思っても憎むのが難しい存在のはずだが……」
イシュケルが、小さく息を吐く。
「リヒトはどうやら、母親に対して憎いという感情すら抱いていないようだ。関心がない。興味がない。我が子にそこまで切り捨てられるような女でも、あいつと最も血の縁が濃い人間なのは間違いないからな。今後の状況次第では、帝室の連中に利用されることも充分考えられる」
「……はい。我々が懸念したのも、その点です」
うなずき、ハーゲンは興味深そうな目でイシュケルを見た。
「失礼ながら、少々意外でした。こういった人間同士の駆け引きについて、精霊のみなさまというのはもっと無関心なのかと思っていましたので」
「無関心でいたばかりに、オレたちは最初の契約者を喪った」
淡々と返され、ハーゲンは息を呑む。なんの感情も透けない瞳で、そんな彼を見返したイシュケルが、すいと持ち上げた人差し指で相手の心臓を指さす。
「森の王を介してとはいえ、今のオレの肉体はリヒトの魔力でできている。そしてオレは、ロゼの復讐を果たすまで、この世界から消滅するつもりはない。――意味は、わかるな? ハーゲン・カレンベルク」
「……もちろんです。水の王」
高位精霊であるイシュケルが名を呼ぶたび、ハーゲンがリヒトと交わした『約束』に対する拘束力は強くなっていく。心臓に絡みついてくる冷たい魔力が増してくるのを感じながら、ハーゲンはまっすぐに相手を見返した。
「我が生涯において、リヒトさまは最後の主。今後何があろうと、私があの方以外に忠誠を捧げることはございません」
「それでいい。人間の子どものまっとうな成長に、教え導く年長者の存在は不可欠だからな。おまえは今後、リヒトにとって『ちょっと頼れる近所のおじさん』になれるよう努力しろ」
束の間、沈黙が落ちる。
ものすごく微妙な顔をしたハーゲンが、おそるおそるイシュケルに問う。
「ちょっと頼れる近所のおじさん……ですか」
「なんだ、お兄さんのほうがよかったか?」
真顔で返され、一瞬口ごもったものの、ハーゲンはがんばって言い返す。
「いえ、そういうわけでは。ただその、私としては、僭越ながらあの方の一の部下を目指そうと考えておりましたもので……」
だから、とイシュケルが眉根を寄せる。
「今は、そういうのはいいんだと言ったばかりだろうが。人間の魔力の安定は、精神と肉体の安定に直結している。常人には理解不能な天才に育てられた子どもが、いつどんなきっかけで心身の安定を失うものか、おまえには想定できるのか?」
ものすごくいやそうに言われ、ハーゲンは再び絶句した。
「オレの復讐もおまえの未来も、あのガキひとりに掛かっている。すべてを失いたくなければ、十五の子どもに過度の期待をかけるな。ただでさえ、壊れていないのが不思議なくらいなんだ。下手を打てば、あいつは簡単に潰れるぞ」
「……了解、しました。配下としての節度は守った上で、リヒトさまに少しでも親しみを持っていただけるよう、努力いたします」
そうして、今や帝国に対する反乱分子の巣窟となった東の砦を預かるハーゲン・カレンベルクは、主に選んだ少年にとって『ちょっと頼れる近所のおじさん』を目指すことになったのである。ずっと殺伐とした軍隊暮らしだった彼には、なかなか難度の高いミッションになりそうだった。
***
「スバルトゥルは! わたくしの召喚獣は、まだ見つからないのですか!!」
アンビシオン帝国の中央、帝都ラトカ。大陸で最も華やかな都市と謳われるその郊外に、小規模ながら一際美しく壮麗な城がある。代々の皇族女性が、夏の避暑地として利用しているエウリーナ離宮だ。
数日前から、この帝国で聖女と呼ばれる第一皇女エリーザベトが滞在していることを知っているのは、ごく限られた者たちだけである。
まるでそれ以外の言葉を知らないかのように、美しい獣の姿をしていた召喚獣の名を呼び続ける姿は、日に日に狂気じみていく。
「わたくしの……彼は、わたくしのものなのに! どうして、わたくしのそばにいないの!」
癇癪を起こしたエリーザベトが、優雅な猫足の丸テーブルに置かれていたティーセットをなぎ払う。かぐわしい紅茶が毛足の長い絨毯を汚し、彼女のためにと作られた可愛らしい菓子が潰れて散らばる。
以前ならば、聖女である彼女のそばには、常に多くの人々が侍っていた。気の利く侍女、貴族階級の友人たち、そして機嫌伺いにくる貴族たち。
けれど今は、誰もいない。長兄である皇太子の命令で選び抜かれた使用人たちは、彼女と必要以上に接触することはなかった。
そんなことを不満に思っていられたのは、ほんの少しの時間だけ。日を追うごとに、彼女の意識を占めるのは美しい青年の姿をした召喚獣だけになっていく。
エリーザベトが、はじめて人の姿をとったスバルトゥルを見たのは、八年前。彼女が十五歳のときだった。
――それまでに挨拶を交わしたどんな男性よりも魅惑的な容姿と、自信と威厳に満ちあふれた態度。一目でのぼせ上がった彼女は、すぐさま父親である皇帝に『あの方を婿に欲しい』と訴えた。遅くに生まれたはじめての娘に、ひたすら甘いばかりの父親ならば、すぐに願いを叶えてくれると思っていたのだ。
しかし、そんな彼女に与えられたのは、生まれてはじめての否定の言葉。愛娘のどんなわがままも叶えてきた、この大陸でも比類なき権力を誇る皇帝が、エリーザベトのささやかな願いを拒絶したのが信じられなかった。
どうして、なぜと泣きわめく彼女は、そこでようやくスバルトゥルが自分と同じ人間ではないのことを教えられたのである。
エリーザベトの心を奪った青年は、すでにほかの人間のものだった。召喚獣が、主以外の人間に興味を抱くことはない。たとえスバルトゥルの主である召喚士を排除したところで、彼がエリーザベトに目を向けることはないのだ。彼女に、高位精霊であるスバルトゥルを召喚できるほどの魔力がない以上、どれほど願っても彼がエリーザベトを主と認めることは叶わない。
悔しくて、憤ろしくて、たまらなかった。
エリーザベトは、この帝国で最も愛されるべき第一皇女だ。誰もが彼女の愛らしさを称え、その気品と知性の高さを褒めちぎる。なのに、本当に欲しい相手は賞賛の言葉どころか、彼女の存在を認識すらしてくれない。スバルトゥルが愛しげにその目を向けるのは、気味の悪い白髪の契約者だけなのだ。
理不尽だ、と思った。
遠目にしか姿を見たことはないけれど、スバルトゥルの契約者は平民出の男だと聞いたときから、エリーザベトにとって彼は蔑むべき対象でしかない。いつもみすぼらしい格好をして、ろくにとかしてもいないような白髪を適当に括っただけの、貧相な男。そんなものが、輝くばかりに魅力的なスバルトゥルの選んだ主だなんて、信じたくなかった。
ジルバ・タンホイザー。
彼のことを尋ねれば、誰もが『あの男は天才です』と口をそろえる。
高位召喚獣の契約者は、みな膨大な魔力保有量を誇る才能豊かな者たちだ。人の心を高揚させ、あるいは鎮める歌を歌う者。触れるだけで生き物の傷を癒やす者。ただそこにいるだけで魔力の流れが清められる者。他者の心を惹きつける圧倒的なカリスマを持つ者。そして、その天才的な頭脳により、たった数年で魔術研究を一世代進めたと賞賛される者。
彼らが帝国に忠誠を誓っている限り、この大陸における栄華は約束されたようなものだと口にする者までいた。
許せなかった。
このアンビシオン帝国において、ありとあらゆる賞賛は皇族の上にあるべきものだ。たとえ戯れ口にであろうと、たかが平民に与えられていいものではない。人々からの賞賛も――美しく気高い召喚獣も。
そんな彼女の心に寄り添ってくれたのは、年の離れた兄の、オスカー・フォルテス・アンビシオンだった。皇太子の地位にある彼と過ごした時間は、そう多くない。けれど、まるで話しの通じない皇帝よりも、ずっとエリーザベトの気持ちを理解してくれたのだ。
泣かなくていい、とオスカーは彼女に言った。
――おまえは正しいよ、エリーザベト。
――間違っているのは、世界のほうだ。
――だから、力を貸しておくれ。この帝国を、正しき未来へ導くために。
そしてオスカーは、エリーザベトの願いを叶えた。
彼女が心奪われた美しい青年の姿ではなく、なぜか本性である獣の姿ではあったものの、聖女としてスバルトゥルの主となることができたのだ。
彼に命じるために必要な腕輪は、はめているだけで大量の魔力を必要とする。本来ならば、エリーザベトの魔力保有量で耐えられるようなものではなかったが、それを補助するために必要な魔導石程度、帝室の宝物館にいくらでも保管されている。
スバルトゥルが人間の姿になってくれないことだけが不満だったけれど、彼のすべてを支配できる快感の前では些細なことだ。人々はエリーザベトを聖女として崇め、以前よりもずっと心地よい賞賛の言葉を捧げてくる。
これが、正しい帝国のあるべき姿。それを作り上げたオスカーを、エリーザベトは心から尊敬していた。彼がこの帝国の後継者であることが誇らしい。
そう、信じていたのに――
「スバルトゥル……スバルトゥル、スバルトゥル! 返事をなさい! あなたは、わたくしのものでしょう!」
――エリーザベトの呼び声に応える者は、誰もいない。
調子外れの叫び声が、豪奢な離宮の空気を虚しく震わせるばかりだった。
1
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー
さん
ファンタジー
アレンは5才、母親と二人で叔父夫婦の牧場に居候している。父親はいない。いわゆる私生児だ。
虐げられた生活をしている。
そんな中、アレンは貴族にしか手に入れる事のできない召喚獣ー『守護魔獣』を手に入れる。
そして、アレンの運命は大きく変わっていく・・
グランハイルド大陸は4つの地域にほぼ分かれそれぞれの環境に合った種族が暮らしている。
大陸の北は高い山々が聳え立ちドラゴン等の魔獣や大型獣の生息地であり、人族が住むには非常に厳しい環境だ。
西も灼熱の砂漠が大きく広がり、砂漠にはワームが蔓延り地底人(サンドマン)と呼ばれる種族やドワーフ、コボルトがそれぞれに棲み分けている。
東から南東にかけて大きな森林地帯や樹海が広がり、エルフやリザードマン等、亜人と呼ばれる種族達が住んでいて大型獣も跋扈している。
大陸のほぼ中央から南には温暖な気候に恵まれ人族がそれぞれの4つの国家を形成している。しかしながら、種族的には一番劣る人族が一番温暖で豊かな大地を支配しているには訳が有る。
それは彼らが守護魔獣と呼ばれる大型魔獣を使役し、守護魔獣を使役した貴族がそれぞれの領地や民を守っているのである。
2頭の守護魔獣である獅子を使役し、その獅子の紋章を持つエイランド王家がライデン王国として、長年に渡って統治して来た。
そのライデン王国の東方地域を領地に持つフォートランド伯爵領に生を受けたアレンと言うの名前の少年の物語である。
私が悪役令嬢? 喜んで!!
星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。
神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。
だったら悪女を演じてやろうではありませんか!
世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。
ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。
しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。
その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる