平凡くんと【特別】だらけの王道学園

鬼ごっこと不良の王様

6

「園宮」

声を掛けられた方へ振り向くと、そこには雪先輩がいた。

………先輩、案外着痩せするんだろうか。
もっと華奢で筋肉なんて申し訳程度にしか付いてないと思ってた。

あの驚異的な羽交い絞めの源はその筋肉ですか。

付けるべき所に付いている感じだな……こういうの何て言うんだったか、細マッチョ？

「おはようございます、先輩」

とりあえず、声を掛けられたので挨拶を返す。

雪先輩の腕にも俺と同じバングルが付いていた。
どうやら先輩も逃走者らしい。

「うん、おはよう。園宮も逃走者なんだね」

「はい。すぐに捕まるつもりですが」

「園宮には指名したい人はいないの？」

「いませんね。入学してから2ヶ月ぐらいしか経ってないので、ほとんどの人の事知らないですから」

そもそも、全校生徒の前で『貴方と1日出掛けたいです』なんて言う度胸は俺にはない。

それが出来てしまうほど、想える相手がいるのは幸せな事なのかもしれないな。

男子校だから矛先は全て男なんだけど


「先輩は会長を指名するんですか？」

「まさか。僕はあの人を敬愛はしているけれど、そういう対象・・・・・・としては見てないんだ。だから一緒に出掛けてどうこうしたいって言う気持ちはないかな」

「そうなんですね」

何だか納得だ。
雪先輩は親衛隊隊長なのだが、余り熱狂的に会長を慕っているようには見えない。

崇拝とか恋慕ではなく敬愛ならこれまで見てきた言動も解る気がする。

「そうなの。それにね……」

雪先輩が徐ろに俺の手を取って、俺の指にその長い指を絡めてきた。

指の股が擦れて擽ったい。

それに何より人目がある場所で過度なスキンシップは控えて欲しい……ほらまた…近い！！

「ゆきせんぱっ……んっ…」

「他人から与えて貰わなくても、僕は欲しくなったら自分で取りに行くから」

「……？はぁ…凄いですね…？」

つまり

『褒美なんてまどろっこしい事しないで、出掛けたいなら自分で誘うわ』

と言う事だろうか。

それが出来る人ならそれでいいのだろう。
そして、雪先輩はそれが出来る…【選ぶ側】の人間だ。

大半は出来ないからこそ、みんな必死で鬼ごっこを頑張るんだろう。
そりゃあ、生徒会役員なんて【特別】な人と堂々と出掛けられるんだもんな……その人の親衛隊隊長にだって早々出来る事じゃないはずだ。


誰だってチャンスは物にしたい


分かるんだけど、気合が凄過ぎて殺気立ってるんだよなぁ。