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14. 再びの目覚め
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「ハルカ様」
優しい声で呼ばれた。低すぎない耳触りの良い甘さの声だ。
「ハルカ様」
僕はゆっくりと目を開けた。ベッド脇にいるのは、やっぱりハノークさんだ。
「ハ……ノークさん」
まだ掠れた声だったけど、寝落ちする前よりずっと気分は良くなっていた。僕はぼんやりとハノークさんの顔を見ながら、色んな事を思い出していた。
「ハルカ様、もう少し水分を摂りましょう。身体を起こせますか?」
薄っすらと甘いレモン水。あの味ってスポーツ飲料に似ていた。もしかして、ギドさんと一緒に作ってくれたのってこの世界のスポーツドリンクだったのかな?
そう言えば、去年の夏に留美が部活に持って来てくれた『手作りスポーツドリンク』に似ていた。確か、レモン果汁と砂糖、少しの塩と水で簡単に作れるって言っていたと思う。
ふうん。こっちにもそう言うモノが存在するんだ……ん!?
「ハルカ様、聞こえますか?」
ハノークさんが、寝ている僕の上に覆いかぶさるようにして聞いて来た。ああ、なんかこの近くで見るハノークさんの顔に覚えがある……綺麗な碧い目に、薄赤い唇……くちびる?
「っあっ!?」
「ハルカ様?」
思い出した! そうだった。僕はハノークさんに口移しで飲み物を貰っていた!
「起きられそうですね? 失礼致しますね」
一人であたふた? している間に、優しく微笑むと僕の身体を抱き込む様にして起こして、ふんわりした大きな枕とクッションに寄り掛かれるようにしてくれた。
「あ、ありがとう、ございます」
「いいえ」
もぞもぞと少し動いて、僕は姿勢を真っ直ぐにした。やっぱり寝落ちする前と同じ真っ白でドアの無い部屋にいた。大きな扉になる壁は、そこが扉だとは思えない程ぴったりと閉じられている。
そして、今この部屋にいるのは、
「どうぞ、お飲みください」
差し出してくれたのはギドさんだった。そう、ココには僕とハノークさんとギドさんの3人しかいない。
差し出されたグラスを受け取ると、僕はそれをじっと見つめた。透明でレモンの香りが爽やかな飲み物が入っている。少し冷たく感じるのは、冷やし過ぎない様に気を使われているのかもしれない。
「ハルカ様、もう少しお飲みください。それをお飲みになってから、何か腹に入れる物をご用意しますから」
グラスを持ったまま動かない僕にハノークさんはそう言い、ギドさんは直立不動で立ったまま、じっと僕を見ている。
「あの、ハルカ様。貴方様は、この水を既にお飲みになっております」
「……」
「水分が不足すれば、命に関わります。それは覚えていらっしゃいますか?」
ゆっくりと話し掛けるハノークさん。判っている。判っているよ。僕はこの水が欲しかった。渇きを押える事が出来なかったんだ。
「……はい」
僕は小さく答えた。そうだよ。黄泉戸喫が本当の事なら、もう帰れない。還れないって事だ。僕はこの世界の食べ物を口にして、この身体の中に入れてしまったのだから。
二度とあっちに還れないか、こっちで脱水症で死ぬか。究極の選択で二度と還れない方を選んだのかな。もしも、黄泉戸喫が事実ならばだけどさ。
「……」
「それとも、まだお独りでは飲めませんか? お手伝いが必要でしたら---」
うおっ! それってどういう意味だ? いやいや! まさかまた口移しなんてされたら別な意味で死ねるぞ!
ぐっとグラスを握り締めて二人の顔を見た。心配そうなハノークさんと、無表情のギドさん。
ゴクリ。
僕は自分でレモン水を飲んだ。
優しい声で呼ばれた。低すぎない耳触りの良い甘さの声だ。
「ハルカ様」
僕はゆっくりと目を開けた。ベッド脇にいるのは、やっぱりハノークさんだ。
「ハ……ノークさん」
まだ掠れた声だったけど、寝落ちする前よりずっと気分は良くなっていた。僕はぼんやりとハノークさんの顔を見ながら、色んな事を思い出していた。
「ハルカ様、もう少し水分を摂りましょう。身体を起こせますか?」
薄っすらと甘いレモン水。あの味ってスポーツ飲料に似ていた。もしかして、ギドさんと一緒に作ってくれたのってこの世界のスポーツドリンクだったのかな?
そう言えば、去年の夏に留美が部活に持って来てくれた『手作りスポーツドリンク』に似ていた。確か、レモン果汁と砂糖、少しの塩と水で簡単に作れるって言っていたと思う。
ふうん。こっちにもそう言うモノが存在するんだ……ん!?
「ハルカ様、聞こえますか?」
ハノークさんが、寝ている僕の上に覆いかぶさるようにして聞いて来た。ああ、なんかこの近くで見るハノークさんの顔に覚えがある……綺麗な碧い目に、薄赤い唇……くちびる?
「っあっ!?」
「ハルカ様?」
思い出した! そうだった。僕はハノークさんに口移しで飲み物を貰っていた!
「起きられそうですね? 失礼致しますね」
一人であたふた? している間に、優しく微笑むと僕の身体を抱き込む様にして起こして、ふんわりした大きな枕とクッションに寄り掛かれるようにしてくれた。
「あ、ありがとう、ございます」
「いいえ」
もぞもぞと少し動いて、僕は姿勢を真っ直ぐにした。やっぱり寝落ちする前と同じ真っ白でドアの無い部屋にいた。大きな扉になる壁は、そこが扉だとは思えない程ぴったりと閉じられている。
そして、今この部屋にいるのは、
「どうぞ、お飲みください」
差し出してくれたのはギドさんだった。そう、ココには僕とハノークさんとギドさんの3人しかいない。
差し出されたグラスを受け取ると、僕はそれをじっと見つめた。透明でレモンの香りが爽やかな飲み物が入っている。少し冷たく感じるのは、冷やし過ぎない様に気を使われているのかもしれない。
「ハルカ様、もう少しお飲みください。それをお飲みになってから、何か腹に入れる物をご用意しますから」
グラスを持ったまま動かない僕にハノークさんはそう言い、ギドさんは直立不動で立ったまま、じっと僕を見ている。
「あの、ハルカ様。貴方様は、この水を既にお飲みになっております」
「……」
「水分が不足すれば、命に関わります。それは覚えていらっしゃいますか?」
ゆっくりと話し掛けるハノークさん。判っている。判っているよ。僕はこの水が欲しかった。渇きを押える事が出来なかったんだ。
「……はい」
僕は小さく答えた。そうだよ。黄泉戸喫が本当の事なら、もう帰れない。還れないって事だ。僕はこの世界の食べ物を口にして、この身体の中に入れてしまったのだから。
二度とあっちに還れないか、こっちで脱水症で死ぬか。究極の選択で二度と還れない方を選んだのかな。もしも、黄泉戸喫が事実ならばだけどさ。
「……」
「それとも、まだお独りでは飲めませんか? お手伝いが必要でしたら---」
うおっ! それってどういう意味だ? いやいや! まさかまた口移しなんてされたら別な意味で死ねるぞ!
ぐっとグラスを握り締めて二人の顔を見た。心配そうなハノークさんと、無表情のギドさん。
ゴクリ。
僕は自分でレモン水を飲んだ。
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