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シント編
外伝1/3 撤退戦
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「状況は?」
救援に駆け付けた建物の中。
自分と同じ格好、鈍い銀色の仮面にフードの相手に聞く。
「姐御、ここはもうだめだ。じきに英傑の奴らが来る。」
後方の窓を、肩越しに親指で指しながらの返答。
それに従い見た外の状況。不自然にここの付近だけ人が捌け、場所が空けられている。
既に表の報道で、この拠点の制圧予定が知らされたという証拠だ。
表に点在する、路地裏側が利用している「拠点」。
それは魔物飼いの主など、表で活動できる人と鈍色仮面側と接触し、物資の引き渡しを行ったりする場所。
そして、その協力者の居住地も兼ねている事もある。ここもその一つだ。
故に、その為の物資も置かれている。必要最低限に抑えるようにはしているが、それでも困窮してる路地裏にとっては貴重な物資。可能な限り回収し、限界が来たら英傑と戦い足止めをし、撤退。
これまで幾度となく繰り返した手順だ。
外からの歓声、そして「主役」がやってくる乗り物の駆動音。
ここらが限界か。この場にいる最高戦力は自分だ、囮となるべく裏口から外に出る。
「…はぁ……。」
一仕事を終え、「路地裏」の一角に戻り。
備品整理の合間に漏れるため息。
「どうしたんすか姐御、さっきからそんな調子で。」
「いや、さっき相手した英傑なんだけどな、こっちの事を詮索してくる妙な奴で。それでちょっと熱くなっちまってな。」
「へぇ、どんな事聞かれたんだ?」
「『自分達は衣装で姿を隠して人を使役して』とか、そんな感じの事だったな。
『何も知らないからそんな事を』って返してやりたかったよ。」
「…確かに客観的に見りゃ、そう見えても仕方ねぇのかもな。
てか気が乗らねぇんなら、先上がりな。後は俺がやっとく。」
「別にこれくらいなんてこと……。」
「ここんとこ働き詰めでロクに休めちゃいないだろ。
それに姐御が元気ねぇと、皆も心配しちまう。皆の為だと思って、な?」
「…分かった、そこまで言うなら。恩に着るよ。」
作業場を離れ、自室に着き。
普段なら既に楽な格好してるのに、まだ「外行き」のままなのに気付き、確かに気疲れしてんのかなと思う。
手袋を外し、褐色の手が露わになる。仮面を外し、ローブを脱いで部屋の脇に置き。
その内に畳み隠していた翼を広げ、両手を上に大きく伸びをする。
「デビル」、古い伝承からそう名づけられた種族。
700年前のサタン事変の時、その邪悪な魔力は多くのものを巻き込んだ。特に魔力の影響を受けやすいエルフは大きく変質し、軽度なものでもダークエルフとなり、生来の魔術を奪われた。
そして影響が強かった者は竜のような翼が生え、自我も奪われサタンの手下として破壊に加担したんだとか。
…全部聞いた話だ。自分より2世代ほど前の、過去の話だ。
けど部外者にとってはそうではなく、凶暴で邪悪な種族、そう思っている者の方が大多数。
そんな生まれの自分でも、「路地裏」は受け入れてくれた。
だからこうして、全力で鈍色仮面に尽くしている。
けど、それでも増える住民に対し、路地裏の許容量は限界を超えてきている。
だから──
「ロイノ様、こちらにおられると聞いてきたのですが、おられ──」
不意の訪問者に驚き、びくっとする。
それを見た訪問者が慌てて扉を閉めながら言葉を続ける。
「あ、し、失礼しました!」
いや、確かにリアクションに出てた自覚はある。
けどそこまで慌てられるほどか? そんなにだったか?
「……いや、よい。要件はなんだ?」
別に自分の種族の事を隠すつもりはないし、知ってる奴も多い。
…けど、普段が衣服の下にしまい込んでる反動か、翼を見られるのが妙に恥ずかしく感じる。
救援に駆け付けた建物の中。
自分と同じ格好、鈍い銀色の仮面にフードの相手に聞く。
「姐御、ここはもうだめだ。じきに英傑の奴らが来る。」
後方の窓を、肩越しに親指で指しながらの返答。
それに従い見た外の状況。不自然にここの付近だけ人が捌け、場所が空けられている。
既に表の報道で、この拠点の制圧予定が知らされたという証拠だ。
表に点在する、路地裏側が利用している「拠点」。
それは魔物飼いの主など、表で活動できる人と鈍色仮面側と接触し、物資の引き渡しを行ったりする場所。
そして、その協力者の居住地も兼ねている事もある。ここもその一つだ。
故に、その為の物資も置かれている。必要最低限に抑えるようにはしているが、それでも困窮してる路地裏にとっては貴重な物資。可能な限り回収し、限界が来たら英傑と戦い足止めをし、撤退。
これまで幾度となく繰り返した手順だ。
外からの歓声、そして「主役」がやってくる乗り物の駆動音。
ここらが限界か。この場にいる最高戦力は自分だ、囮となるべく裏口から外に出る。
「…はぁ……。」
一仕事を終え、「路地裏」の一角に戻り。
備品整理の合間に漏れるため息。
「どうしたんすか姐御、さっきからそんな調子で。」
「いや、さっき相手した英傑なんだけどな、こっちの事を詮索してくる妙な奴で。それでちょっと熱くなっちまってな。」
「へぇ、どんな事聞かれたんだ?」
「『自分達は衣装で姿を隠して人を使役して』とか、そんな感じの事だったな。
『何も知らないからそんな事を』って返してやりたかったよ。」
「…確かに客観的に見りゃ、そう見えても仕方ねぇのかもな。
てか気が乗らねぇんなら、先上がりな。後は俺がやっとく。」
「別にこれくらいなんてこと……。」
「ここんとこ働き詰めでロクに休めちゃいないだろ。
それに姐御が元気ねぇと、皆も心配しちまう。皆の為だと思って、な?」
「…分かった、そこまで言うなら。恩に着るよ。」
作業場を離れ、自室に着き。
普段なら既に楽な格好してるのに、まだ「外行き」のままなのに気付き、確かに気疲れしてんのかなと思う。
手袋を外し、褐色の手が露わになる。仮面を外し、ローブを脱いで部屋の脇に置き。
その内に畳み隠していた翼を広げ、両手を上に大きく伸びをする。
「デビル」、古い伝承からそう名づけられた種族。
700年前のサタン事変の時、その邪悪な魔力は多くのものを巻き込んだ。特に魔力の影響を受けやすいエルフは大きく変質し、軽度なものでもダークエルフとなり、生来の魔術を奪われた。
そして影響が強かった者は竜のような翼が生え、自我も奪われサタンの手下として破壊に加担したんだとか。
…全部聞いた話だ。自分より2世代ほど前の、過去の話だ。
けど部外者にとってはそうではなく、凶暴で邪悪な種族、そう思っている者の方が大多数。
そんな生まれの自分でも、「路地裏」は受け入れてくれた。
だからこうして、全力で鈍色仮面に尽くしている。
けど、それでも増える住民に対し、路地裏の許容量は限界を超えてきている。
だから──
「ロイノ様、こちらにおられると聞いてきたのですが、おられ──」
不意の訪問者に驚き、びくっとする。
それを見た訪問者が慌てて扉を閉めながら言葉を続ける。
「あ、し、失礼しました!」
いや、確かにリアクションに出てた自覚はある。
けどそこまで慌てられるほどか? そんなにだったか?
「……いや、よい。要件はなんだ?」
別に自分の種族の事を隠すつもりはないし、知ってる奴も多い。
…けど、普段が衣服の下にしまい込んでる反動か、翼を見られるのが妙に恥ずかしく感じる。
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