真水のスライム

イル

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シント編

222話 洪水④

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「ごめんなさい、寝ぼけてたみたいです。」
「…寝ないお前が言うか。」
 水で空中に作られた足場の上、見慣れた姿のラディがそこにいた。


「やっぱ急ぎ作業じゃだめだったかぁ。」
 というコンジュの独り言。だが絶望してる様子では全くない。
 そしてコンジュの術が、様相を変えていく。
「なんにせよ、回収はさせてもらうよ。そっちのフラッディも一緒にね。」
 さっきの土の腕が地中から這い出るように這い上がり、巨大な土人形へとなる。
 コンジュのいる台座も取り込まれ、その腹部の内側へと。

「エン、少しだけ時間稼げるか?」
「…やらせて大丈夫なやつ、だよね?」
 返答としては「言うまでもなく」、といった様子。
 半信半疑というか、逆に何かやらかしそうというある種の信用か。
「大丈夫、実証済みだ。」
「…分かった。」
 簡潔な答えだけ残し、エンが前線へと向かっていく。

 その間に、こちらもやる事を。
 一度「現出の輪」を外し、携行してきていた「黒い魔石」を装填する。
 そして、今必要な物を創り出す。まずは昨日のものと同じ宙を駆ける翼。
 もう一つ、今回振るう武器。相手が相手だけに、それに見合うサイズの剣を。
 持ち手をを握れない程の大きさ。以前の爪と同じように、てのひらの前に浮かせるように扱う。

「! それって……。」
 何かを言いかけたエンが、そこで言葉を止める。
 エン達にとっても、悪い思い出の品だろう。事が片付いたら、謝ろう。


 エンが雷を自在に操り、攻めを凌いでいる。
 聞いた事がある、竜騎士の戦い方。多大な魔力を持つがコントロールが不得手な竜の魔力を、騎手が操る事で小回りの利く大技を扱うんだとか。

 大回りで勢いを付け攻め込み、土人形の左腕に一閃。
 混じっている岩に当たり、強い衝撃が走る。滑り多少軌道はずらされたが、まずは切り落とす。
 しかし根本がうねり土が登り、再生を始める。
 同時に土人形の右腕が襲い掛かるが、雷に切り落とされ届かない。
 とはいえこのまま攻め続けてもらちが明かない、一度後方へと退く。
 後方に居たラディに合図。水の状態となり、足場と一体化し消えていく。

 再び同じように斬り込み、土人形の左腕を落とす。
 同じように再生しようとするところに、今度は後方の川から伸びる水。
 切断面を覆い、氷結。土の流れをせき止める。
 凍り付いた部位を落とし再び再生を試みるが、更にラディの氷結の追撃。
 その隙に右腕・首とパーツを削ぎ、同様に封じていく。

 やがて土人形という形での戦力を諦め、胸部一帯がトゲになる。
 それらが伸び、串刺しにしようとしてくる。それを剣の腹でガード、だが攻撃が続く。
 そこへ頭上を通る、閃光爆弾かと思う程の光。後ろで溜めていたエンの一撃が放たれ、攻撃が止む。
 見ると、上半身を大きくえぐられた土人形の残骸。それを水のラディが掴み、離さない。
 作ってくれた好機。剣を大きく薙ぎ、両の脚を断つ。

 崩れゆく土の塊の中から脱出するコンジュを、見逃す訳がなかった。
 大剣を消失させ、青紋刃の短剣を抜く。魔力を流し込み、催眠効果の術式が青く光る。
 ラディも逆方向からその場に向かい、切先を突きつけるのとラディが捕縛するのが同時だった。

「…なぜ止めた?」
「憧れた英雄、アスレィの物語に殺人の記録はない。代わりにこう言うんだ。『生きて償え』。」
「ハッ、とんだお伽話妄信者だな。」
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