真水のスライム

イル

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シント編

214話 動乱⑧

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 目標としていた戦果のひとつ、ミツキの打倒。
 それにより英傑と鈍色仮面「双方とも敵わない謎の脅威」となる事だった。
 それが向こうから接触してきてくれたなら好都合。探す手間が省けたし、攻め込むのにもいい口実。

 塔の根本、上からの死角。
 左腕のボウガンを維持しつつ、右だけ爪を生成。
 螺旋状に塔の周りを駆け昇り、その軌跡に爪の跡を付けていく。


 そして頂上、その中央に人ひとり。
 間違い無い。白い鎧の者、ミツキだ。

 まずは牽制にボウガンを一射。動きから読んだミツキが、それを煌く透明な盾の術で防ぐ。
 出方を伺いつつ、次の矢を装填。それなりに複雑な工程、けど目の前にも集中しないといけない。ここからもう考えて行動する余裕は無さそうだ。
「何者だよお前…こんなの『天啓』には…!」
 盾が無数の三角形の破片に砕け、空間に漂う。
「…まぁいい。だが邪魔する以上、どうなっても後悔するなよ?」
 ミツキの左手の一振りと共に、その破片を飛ばしてくる。
 だが拡散はされず、範囲は狭い。少し高めに跳躍し、回避する。

 すかさずミツキが右腕を大きく前に振るう。
 その軌跡の形を真似るように、湾曲した刃が一瞬遅れて伸びてくる。
 …そういう術か。
 続けて左手を振り上げたのを、後方に回避。
 屋上から生えた3本の爪のような刃が、目の前をよぎる。
 続けて再び右の大振り、左の突き、鷲掴みにするように周囲から。
 来るとさえ分かれば避けれはする、けどギリギリだ。
 持久戦にはしたくない、大振りの隙を見て一気に踏み込み、爪の一撃。
 しかし再び最初にも見た盾に弾かれる。引き際に撃ち込んだボウガンの矢も、同様に。
 正面から突破するのは至難、何か手は……。

 そんな回り切らない思考の中、かすかな声がした気がした。
 明確な言葉ではない、けど理解はできるささやきのような。
 …そうか、多分ディエルはこれに……。
 …この際、委ねてしまうのもいいかもしれない。

 ささやきは衝動となり、魔力の出力が上がるのを感じる。
 爪もボウガンも消失し、鎧の輪郭が燃え上がるように変化する。

 そこから先は、ただただ思いつくままに動いていた。
 カウンターの相手の斬撃を握り止め、破壊の魔力で砕く。
 即座に宙を蹴り接近、目の前に現れる煌きの盾。
 魔力を込め、思いっきり殴る。それでも割れなかったが、拳の周囲に小型の杭を数本生成、そのまま打ち込む。

 細かい粒子となり、盾が割れる。多少の手間はかかるが、突破はできる。
 すぐに再生成される次の盾。だが射撃戦の時もそうだったが、盾を出している間のミツキの攻撃は無い。
 生成物は1つまで…というのは、さっき複数斬撃があった事から違う。
 ミツキにとっても盾は障害物なのか、あるいは硬度を上げる為に盾1枚に集中しなければいけないのか。

 いずれにせよ、盾を維持させる事は拘束となる。
 ならば、と次の盾にも拳を打ち付ける。
 さっきので感覚は掴んだ。更に多くの杭で、手早く盾を割る。

 さらに踏み込み、次の盾を割る気構え。
 しかし予想は外れ、多数の斬撃が向かってくる。
 あえて無作為にしてるのだろう、広範囲をへと散らばる。
 厄介ではあるがむしろ攻めの好機、そう思えた。

 ディエルとの戦いの時の「炎の腕」、そのイメージを今の戦闘スタイルに掛け合わせる。
 あの時ほどではないが左腕部が大きくなり、それでいくらかの斬撃を迎撃し砕く。
 そして更にその先に、巨大な爪を生成する。
 近接では狙いづらいらしく、斬撃が脇を過ぎ後ろへと抜けていく。
 そしてこちらの爪の一閃。鎧を貫きこそしなかったが、空中へと弾き飛ばす。
 そのまま追い格闘で追撃、締めに叩き落す。


「あ…悪魔め……。」
 立ち上がるミツキ、苦し紛れの右腕の大振りひとつ。
 だけどそんな見え見えのもの、握りつぶすのは容易い。
 どう決着を付けるのが一番いいか。なるべく目立ち、印象付く方法。
 場所は屋上の端、そうだな、シンプルにこれがいい。
 おもむろに近寄り、直に触れられるほどの距離まで。
 そして、文字通り蹴落とす。
 落ちながら、術で受け身を試みるのが見えた。

 まだ点在する争乱、何事かと集まる群集、英傑たち。
 ここから見える景色は、幻想のように見えた。
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