真水のスライム

イル

文字の大きさ
上 下
214 / 228
シント編

212話 動乱⑥

しおりを挟む
 再び宙を駆け、塔に向けての移動を再開。
 現出の輪の魔力は一度弱まったが、すぐに回復した。それほど強力な魔石という事か。
 最中さなか、翼の端に何か鋭いものがかすめる。後方からか。
 ダメージには至らないが、明確な敵意。無視はできない。

 少し跳ね、1回転しつつ後方確認。
 紫色の柱…魔術生成物だろうか、その上にたたずむ有翼の鈍色仮面。
 飛び降り、滑空。こちらに向かってくる。
 ならばとこちらも身をひるがえし、爪を構える。

 相手の術で周囲に何本か紫の剣が生成され、飛ばしてくる。
 直線的、回避し距離を詰める。
 様子見を兼ねた一撃を振るうが、同様に生成された盾が防ぎ、押し弾き返してくる。
 直後に背中側に衝撃。鎧を貫通こそしなかったが、一瞬息が詰まる。
 見下ろすと、下に刺さった剣が伸び、柄の方で殴打してきたようだ。
 ならばとそのつばを踏み台に、思いっきり踏み込む。

 こちらは生成物を自在に飛ばせるほど、まだ熟達していない。それでも応戦するしかない。
 地上との挟撃になるというのなら、まずは上を取りに行く。
 再び爪の一撃、とみせかける。相手自身の出した盾が、相手の視界をふさぐ。
 その一瞬の隙に、上空へ駆けあがる。

 同時に回転をつけ、裏拳の要領で爪を振る。
 それに対し、今度は超大型の剣を生成、カウンターを仕掛けてくる。
 そのサイズにたがわぬ威力、爪が受けたそれに連動し、弾き飛ばされる。
 そこに次の一振りが来る。けど他の武器が追撃してくる様子も無い。ならば対処は慣れている。
 爪で斜めに受け、剣の下に潜り込む。翼は思いっきり斬られるが、すぐに再生成する。
 爪だとまた防がれかねない、ならもっと重い一撃を。
 そう考え、咄嗟に一回転、鎧の尾で思いっきり殴打する。
 予想通り盾で防がれるが、剣の方に比重を寄せたのもあったのだろう、ヒビが入り2つに割れる。
 そのまま突き落とすが、どうにか体勢を持ち直し迂回しつつもちなおしてくる。


 だが、そこに走る第三者の一撃。
 遥か遠方からの、きらめく一筋の煌き。
 それが、相手の背中を捉える。

 地に落ちていく鈍色仮面、だが気にしている余裕は無さそうだ。
 その術の軌跡には、見覚えがあった。

 ミツキだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...