真水のスライム

イル

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シント編

190話 情報取引②

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「名はセイル。その挑戦、受けます。」
 名乗り、小卓の対面側に座る。
「じゃあ当ててみな。表か裏か二つに一つだ。」

 卓の上には伏せて置かれた木製コップ。その中には銅貨が1枚。
 ただの五分五分の運試し。だけどそれが演出ひとつで「当てる」に変わる。
「そんなに睨まんでも、イカサマなんざしちゃいねぇよ。直感で言ってみな。」
「なら、裏で。」
 開かれる蓋。中のコインは裏を示していた。

「まずお前さんの1勝だ。聞きたい事、何か1つ言ってみな。」
「まず…あなたは一体?」
 昨日はこちらもてんやわんやに飲まれて聞きそびれていたのを、さっきのやりとりで思い出した。
「おっと、こっちも名乗りを忘れてたか。そいつは悪ィ。
 俺はジェイク、これでも元々は普通の人間だ。こうなったのは古い呪いの影響だ。
「『古い呪い』って?」
「『人狼化の呪い』って知ってるか?」
「伝記の一部程度になら。」
 いくらかの伝記の中で、少し触れられてた記憶はある。人を魔物のように変貌させ意識も奪い、殺戮させる呪いだったはず。
「禁術のひとつ、感染型の呪いだ。以前、行商をしてた頃に、そいつにやられちまってな。
 シントに来てから発症したみてぇで記憶が飛んで、気付いたら路地裏に居た。
 完全な解呪は無理で緩和するくらいしかできず、その都合でこの姿のままなんだとよ。」

「じゃ、お次といこうか。」
 再び木コップに投げ込まれたコインが、からんと音を立てる。
「表で。」
「残念裏だ。じゃあ今度はこっちの番だな。
 そうだな…そっちもここに来る経緯を聞かせてもらおうか。」
 全部話すには流石に長い、どこから話すかで少し迷い、決める。
「シントに来る前は、冒険者してた。立場としては魔物飼い…になるのかな?」
「ほう、じゃああのツレの方が目つけられたってわけか。」
「色々あってシントに来てからは英傑補佐として活動してて、その一環で冒険団へ遠征してて。
 その戻りにミツキって人に襲撃されて、というのが昨日の話。」
「ふぅん…ミツキにねぇ。」
「…ミツキの事、知ってるんですか?」
「そいつを知りたきゃ、コインを当ててみな。」
 そう言い次に向け、コインを投げ込む。

「裏で。」
「生憎、表だ。もう一度俺の番だな。
 ただ、こいつぁ答えるか否かの返答から任せる。そのツレ、何者なんだ?」
 賭けに乗ったのは自分だし、その賭け金である以上、答えられるものなら答えたい。
 けど、どこまでなら言っていいものか。
「おそらく人に擬態してる魔物…とだけ。」
「お前自身、あいつが何なのか明確には分かっちゃいねぇのか。」
「本人にも分かってなくて、その答えを探す、というのも旅の目的のひとつなので。
 …独断で言えるのはこれくらい、ですかね。」
「十分だ。回答ありがとよ。」
 もう見慣れた手つきでコインが投入され、次のラウンドへ。

「裏で。」
「当たりだ。何なりと聞きな。」
最高位騎士パラディンのミツキって、何者なんです?」
 数秒の思考ののち、ジェイクさんの返答。
「『最高位騎士』が何か、ってとこからか?」
「できれば、そこから。」
「『最高位騎士』ってのは、シントの最高戦力、同時に政治的にもトップの連中。その一角が、そのミツキって奴だ。
 5年前にふとシントに現れて、一気に最高位騎士まで上り詰めたようだが──」
 不意に鐘の音、その鳴る方にある振り子時計は、9時を指していた。
「っと、そろそろ開けねぇとだ、この情報はなしで最後な。
 ミツキにはヤな噂もあってな、よく『神』とか『天啓』と口にするらしい。
 俺ァ実際に見た訳じゃねぇが、そういうの信奉してる奴なんざ、大概ロクなもんじゃねぇ。」
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