真水のスライム

イル

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シント編

111話 英雄特訓①

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「次、この先の…えっと、雑貨屋前盗難です!」
「おっけー了解っ!」
 前を走るテムスさんが足を早め、定められた目標地点へと向かう。
 見失わないよう追いかけながら、手元に浮かぶ地図の映像に、耳元につけた装置からの声に注意を払う。


 こんな状況になった経緯は、少し前に遡る。
「現地での情報中継役、ですか。」
 朝の卓での事、いくらかの道具と共に与えられる役割。
「そ。三兄弟が手分けして周囲の異変を探知して情報を送るから、そこから対応できる分だけ取り分けて場所を伝える役回りだ。
 ついでに対応できない分は選り分けてくれ。それはこっちで他の所に流す。」
「他の所、というのは?」
「英傑同士、競争相手でもあるがさらに上の所属としては同じなんだ。消化の歯抜けは全体に響く。
 だから情報提供だけでもいくらか評価が貰えるようになってんの。その選別もあんたの担当ね。」
「それだけ、でいいので?」
「まずのところはな。けど昨日も言ったろ、戦力になってほしいって。
 その為の慣らしだ、実践に近い環境を経験してこい。」


 そうして事は進められ、今に至る。

「よし、次!」
 ひと仕事片付けたテムスさんが戻ってくる。
「えっと、西地区に5件ほど!」
「オッケー、行くぞ!」
 浮かぶ映像には近場で発生しているトラブルのリスト、そしてその場所が地図に緑色の点で示されている。
 その中の密集してる所に向かう指示。それを別の道具を通して聞いていたのだろう、進行方向の背後となる一帯の点がオレンジ色、外部対応の表示に変わる。

 実際にこうして屋根の上を走ってると、逆にこっちの方が地面で、道や隙間が溝と錯覚するほど通り道として整っている。
 時折大きく飛び越えなければならない隙間はあるが、それでも以前の森と比べれば大分楽だ。
 とはいえ、たまに下が見える時はちょっと怖い。受け取った装備に救命機能もあると聞いてはいるとはいえ。

 しばらく走り、目的地付近。
 改めてそれぞれの位置を確認、最寄りの点ひとつ。
「えっと、一つ向こうの大通り、南方に向かって移動中です!」
「了解だ!」
 テムスさんが力強く踏み込み、一気に加速する。
 そのまま目視で目標を確認、風の術を纏い、大きく跳躍する。
「派流・独楽落とし!」
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