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シント編
108話 活動拠点①
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「ここが俺の所属する『旋風陣』…英傑支部拠点だ」
雰囲気に流され一瞬納得しかけたが、直前で冷静な思考を手繰り寄せる。
「いや待って、なんでそんな…えっ、今から!?」
「宿付きなんだよ、英傑って仕事は。緊急でって事もたまにあるしな。
だから生活設備も一通りある。下手な宿取るよりかは、よっぽど快適だと思うぜ。」
「でも、そんなわざわざ……。」
「ま、細かい事は後回しって事で。立ち話続けるのもなんだしな。」
いいのかな、と思いつつも、テムスさんに続いて中に入る。
内装の印象は、想像してたよりは大分まったりしていた。
広々としたロビーフロア、脇の方にはローテーブルにソファ。
コルクボードには何の貼り紙も無く──
「あー! だれだれ!? てむにー、新しい人!?」
ソファーの背もたれの向こうから、茶トラ柄の猫人が顔をのぞかせる。
「さっきミレースさんから聞いたでしょー、お客人が来るって。」
そして同じ顔が隣にもうひとつ。
「ほら、テムにーも困ってるよ。行かせてあげよ。」
さらにもうひとつ。
「悪ぃな、まだ決まりきってねぇんだ。話つけてくるから後でな。」
3人の視線を受けながら、奥の階段から2階へ。
2階は1階とは打って変わって質素というか、シンプルというか。
物置らしき小部屋がある以外は隔たりの無い大部屋、その割に置いてある物は最低限。
本棚にはほとんど本が無く、2冊だけ端に立てかけてあるだけなのが、少し物寂しさもある。
そして窓際の大テーブル、その向こうに一人、だるそうにしてる女性の徒人が一人。
「支部長! 先ほど伝えた2人、連れてまいりました!」
眠そうな目を向け、その人が答える。
「りょーかい。
一応確認だが、ハルドレーン本人直筆なんだな?」
「はい、確かにハルドレーン師匠の字、間違いありません!」
「で、そっちの二人は中身知ってるの?」
今度はこちらに向けて。
「いえ、開封する事で不都合があってはいけないと思い、全く。」
「…分かった。まずはそこの話からだな。
そのままもなんだし、てきとーに座りな。」
「まず、あたしはミレース。察してるとは思うが、ここの支部長だ。」
受け取った封書に目を通しながら、彼女が言う。
「僕は──」
「別にいーよ、テムスに聞いたし書いてある。セイルとラディだろ?
…なるほど技術開発部がねぇ。ロンドラーレの名を借りるとは中々……。」
読み終えた書をテーブルに放り、こちらに向き直る。
「ざっと事情は分かった。
この手紙自体は上に回す事になるが、その前に読むか?」
「一応、お願いします。」
「ざっくり言えば、資金は出すからあんたらに場所提供か、探すのを手伝ったりしてやってくれ、との事だ。」
細かい事を省けば、ミレースさんの説明の通りの内容だ。一通り流し読み終わり、手紙を机上に戻す。
「見返りの資金提供はするとはある、が、急に言われてもなー。荷解きもまだ終わってないのに平常業務もあって、忙しいしなー。」
…察して欲しそうな様子が、ひしひしと。
「てつだえること、あります?」
そう切り出したのは、ラディだった。
その言葉を待ってましたと言わんばかりにミレースさんの雰囲気が変わる。
「そーだな、あたしの裁量で補佐を雇う事ができる。幸い『こいつ』の寄付額なら2人雇って余りある。
というか、この提案をした奴、そこまで織り込み済みなんじゃないか?」
ミレースさんが手紙を回収し、ひらひらと揺らして指し示す。
順調に外堀を埋められてる気がする。
この流れで話に乗るのは癪ではあるが、乗れば事が円滑に進む話でもある。
「分かり、ました。補佐として、しばらくお世話になります。」
「おーけー。細かい手続きは後でにせよ、名目上『英傑補佐』だ。
上の4番と5番部屋貸してやる。遠慮なく使ってやるから覚悟しときな。」
雰囲気に流され一瞬納得しかけたが、直前で冷静な思考を手繰り寄せる。
「いや待って、なんでそんな…えっ、今から!?」
「宿付きなんだよ、英傑って仕事は。緊急でって事もたまにあるしな。
だから生活設備も一通りある。下手な宿取るよりかは、よっぽど快適だと思うぜ。」
「でも、そんなわざわざ……。」
「ま、細かい事は後回しって事で。立ち話続けるのもなんだしな。」
いいのかな、と思いつつも、テムスさんに続いて中に入る。
内装の印象は、想像してたよりは大分まったりしていた。
広々としたロビーフロア、脇の方にはローテーブルにソファ。
コルクボードには何の貼り紙も無く──
「あー! だれだれ!? てむにー、新しい人!?」
ソファーの背もたれの向こうから、茶トラ柄の猫人が顔をのぞかせる。
「さっきミレースさんから聞いたでしょー、お客人が来るって。」
そして同じ顔が隣にもうひとつ。
「ほら、テムにーも困ってるよ。行かせてあげよ。」
さらにもうひとつ。
「悪ぃな、まだ決まりきってねぇんだ。話つけてくるから後でな。」
3人の視線を受けながら、奥の階段から2階へ。
2階は1階とは打って変わって質素というか、シンプルというか。
物置らしき小部屋がある以外は隔たりの無い大部屋、その割に置いてある物は最低限。
本棚にはほとんど本が無く、2冊だけ端に立てかけてあるだけなのが、少し物寂しさもある。
そして窓際の大テーブル、その向こうに一人、だるそうにしてる女性の徒人が一人。
「支部長! 先ほど伝えた2人、連れてまいりました!」
眠そうな目を向け、その人が答える。
「りょーかい。
一応確認だが、ハルドレーン本人直筆なんだな?」
「はい、確かにハルドレーン師匠の字、間違いありません!」
「で、そっちの二人は中身知ってるの?」
今度はこちらに向けて。
「いえ、開封する事で不都合があってはいけないと思い、全く。」
「…分かった。まずはそこの話からだな。
そのままもなんだし、てきとーに座りな。」
「まず、あたしはミレース。察してるとは思うが、ここの支部長だ。」
受け取った封書に目を通しながら、彼女が言う。
「僕は──」
「別にいーよ、テムスに聞いたし書いてある。セイルとラディだろ?
…なるほど技術開発部がねぇ。ロンドラーレの名を借りるとは中々……。」
読み終えた書をテーブルに放り、こちらに向き直る。
「ざっと事情は分かった。
この手紙自体は上に回す事になるが、その前に読むか?」
「一応、お願いします。」
「ざっくり言えば、資金は出すからあんたらに場所提供か、探すのを手伝ったりしてやってくれ、との事だ。」
細かい事を省けば、ミレースさんの説明の通りの内容だ。一通り流し読み終わり、手紙を机上に戻す。
「見返りの資金提供はするとはある、が、急に言われてもなー。荷解きもまだ終わってないのに平常業務もあって、忙しいしなー。」
…察して欲しそうな様子が、ひしひしと。
「てつだえること、あります?」
そう切り出したのは、ラディだった。
その言葉を待ってましたと言わんばかりにミレースさんの雰囲気が変わる。
「そーだな、あたしの裁量で補佐を雇う事ができる。幸い『こいつ』の寄付額なら2人雇って余りある。
というか、この提案をした奴、そこまで織り込み済みなんじゃないか?」
ミレースさんが手紙を回収し、ひらひらと揺らして指し示す。
順調に外堀を埋められてる気がする。
この流れで話に乗るのは癪ではあるが、乗れば事が円滑に進む話でもある。
「分かり、ました。補佐として、しばらくお世話になります。」
「おーけー。細かい手続きは後でにせよ、名目上『英傑補佐』だ。
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