真水のスライム

イル

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レミレニア編

90話 救出作戦③

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 他の襲撃者の気配は無く、エンが探りを入れながら角塔の合間を進んでいく。

 散らばる角塔には当然朽ちた痕跡も多いが、人為的と思われるヒビや斬跡もまた多い。
 中には綺麗に両断されたと思われる箇所もあり、瓦礫の山と化してるものは果たしてどちらの要因で朽ちたのだろうか。
 神話時代にはあまり興味は無かったが、惹かれるには十分すぎる要素がそこにはあった。

 そんな遺跡に見惚れていると、不意にエンが足を止める。
 深く探りを入れ、そして角塔の中の1つに歩み寄る。
「…見つけた。」
 エンのその言葉に覚悟を決め、断面の通路から内部へ。


 遺跡の中は、外見よりも広かった。

 神話時代の戦いでの魔術の痕跡が今も残り、色々と歪んでいるらしい。
 外から見た時は高さ3mも無かった通路が、入ってみれば3倍くらいになっている。
 時々横に引っ張られる感覚があるのは、重力が歪んでいるからだろうか。
 ここまで理を書き換えた程の大戦なんて、到底想像が及ばない。

 いくつも並ぶ横穴、ひとつひとつ順番にエンが探りを入れる。
 エンが明かりを灯してはいるが、陽光は遠くなり暗くなる。
 あまりにも静かなのも不気味さを増長させている。僅かに水の張った足場での足音、水のしたたる音、時折風が通り抜ける唸り……。
 …したたるの音?

「セイル、下がって。」
 エンの言葉で咄嗟に一歩引く。
 丁度目の前を、緑色の雫が落ちる。

 様子を見てると、続けていくつか滴り落ちる。
 上を見るとヒビ…の奥で何かが光を反射してる?
 そこをエンが威嚇の一撃、ねちょりと何かが落ちてくる。
「スライム、ダンジョンの初見殺し。
 ああいう隙間から仕留められた冒険者は数知れずね。」
「でもそんな、話聞いたことも……。」
「こうして気付けば知ってれば対処は楽だけどね。だからこそわざわざ『情報の流通』はされ辛くて、調子に乗った初心者の被害ってパターンが多い。
 物理的な武器は溶かされなまくらになり、鎧は隙間から入り込み意味をなさない。
 ラディ君、あのコアやれる?」
「はいです。」
 ラディの作った氷の槍が、酸の中に浮いてるコアを貫く。
 統率を失ったねばねばは足元の水に流され、途中に散らばる金属片を溶かしていく。
 …川下が向こう側でよかった。


 念の為しばらく待ち、探索再開。いくらか進んだ所で、エンが何かを探知する。
 横穴に入ると重力変化、さきまで壁だった所が地面になる。
 今の重力方向から見ると、壁に水面がある。ちょっと奇妙な感じだ。
 今度は地面の方にいくつもの横穴がある。脇の細い通り道を辿り、さらに奥へ。

 そうして進み、5つ目の穴の中。
 探していた白い竜は、ただ静かにそこにいた。
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