真水のスライム

イル

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レミレニア編

82話 即断即決⑦

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 壊された扉の破片が飛び散る。
 飛び出してきた四足中型の魔物が、地を蹴り駆ける。
 その進行方向に割り込み、飛び掛かる爪を短剣で受け流す。
 カウンターの一撃は入れられなかった。が、気を引くのには成功したらしい。

 向けられる敵意、最早慣れたものだ。
 ラディが放った氷の矢を跳躍で回避、着地と同時に急加速する。
 が、これだけ直線的な動きなら、むしろやりやすい。
 左手の火花のフラッシュで僅かに反応を遅らせ、その軌道上に刃を置いておく。
 命中、だが普段と得物が違うこちらも感覚が狂う。前足の付け根に一太刀入ったが、首には届かず。

 負傷でよろけた所を、ラディが逃さず捕らえ、すかさず凍結。
 相変わらず殺傷力の低さは今後の課題だが、とりあえずの無力化。


 他に出てくる魔物の姿は無く、一休みと思った所に、建物の影に消える人影ひとつ。
 さっきの助っ人冒険者の言葉に引っかかる。考える前に、届くよう大声でエンに指示。
「エン! あっちに逃げた人を追えるか?」
「分かった、ナビゲートする!」
 対象を追従するように、光玉がひとつ浮かぶ。
 範囲外にならないよう屋根の上からエンが追走、そんな脇目でも飛来する魔物を1体撃ち落とし、器用だなと思いつつ追いかける。
 角の先でまた角を曲がり、細い隙間を通ってまた道に。
 目の前まで追いついた所で、ラディの水の腕が先行する。

 追従の光玉が止まる。
 角を抜けた先には、水に手足を縛られる形で「薬屋」が捕らえられていた。

「…ここらが幕引き、ですかねぇ。」
 完全に観念し、抵抗の素振そぶりすらない。預かってた縄で縛り終わるまで、大人しいものだった。
 そしていざ連行となった時に、ラディの事に気が付いたようだ。
「おや、あなたが一枚噛んでおりましたか。
 折角贔屓にしてあげてましたのに、急に来なくなって、果てにはこんな結末になろうとは……。」
 あんな薄給でこき使っておいて、よくそんな呑気な事言えるな。と思いはしたが、言葉を押しとどめた
「しかしあの時間稼ぎをものともしないとは…始末はちゃんとつけてくれましたでしょうか?」
「…どういう意味だ?」
「いえ、後始末を引き受けていただけたら、ありがたいと思いまして。
 あの大きさになると、なにかと手間でしょう?」
 その言葉を、ラディは無視できなかった。
「…魔物を、なんだと思ってるんです?」
「ふむ…扱いきれれば便利なれど、扱いに難もある危険物、といった所でしょうかねぇ。
 素直でいてさえくれれば、あれほど便利なものはないのに、勿体ないものです。」
「……そう、ですか。」
 その時のラディは、少し雰囲気が違って見えた。
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