真水のスライム

イル

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レミレニア編

47話 あるべきところ②

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 日はとっくに暮れ、場も散会し。
 ラディに先に帰らせてからも、どれくらいの時間を酒場で過ごしただろうか。
 読んでる本も目が滑り、ほとんど内容が頭に入ってこない。

「こんな時間に一人だなんて、何かあったのか?」
 閑散とした中、背後の席からの声。確か一度聞いた覚えがある、金板級のハルドレーンさんだ。
「別に。ちょっと考え事してただけです。」
「なんだ、悩みがあるなら言ってみるがいい。もしかしたら手助けできるかもしれんぞ?
 他の者に聞かれる事も無い時間だ、気兼ねはあるまい。」
 適当にあしらうつもりが、深入りを許してしまった。
 …気は乗らないが、手段を選んでる場合でもない、か。


「……なるほど、パーティの中で己の実力が見劣りしてしまう、と。」
「まぁ、大まかには。」
 隣の席に移動し、一通り話し終え。
 閑散としたこの場所は、悩みを打ち明けるには丁度良かった。
「ふぅむ。これまでの戦績を見るに、妥当なものに思えるが?」
「あれはほとんど2人がやってくれたようなものですよ。僕の戦果とはとても……。」
「なにもパーティ単位記録上での戦績だけではない。
 酒場に戻ってきた時、一切の手傷を負っておらず、鎧に僅かな痕跡を残すのみ。
 本当に戦いの場にいたのか疑った事もあったが、それは戦果記録と払い残しの土埃に否定された。」
「そんなもの、ただ何もできなかった結果ですよ。」
「…君は大多数のパーティの様子を見ていないのか?」
 確かにこれまでパーティ内の事で精一杯で、よその事情は見てる余裕など無かった。
「特に得物の長さに欠く剣使いなど、生傷と共に生きるようなものだ。
 なのに君はどうだ。数多の冒険者が手を焼く戦場から、悠然と帰ってくる。
 その手法には、少しばかり興味がある。」
 …金板級冒険者様が、こんな型も何もない剣技に?
「期待されても、面白い事なんて別に何もないですよ?」
「そんな事、実際に見ない事には分からなかろう。
 近く、空いてる日などないか?」
「えーと、2日の休養と決めたから直近なら明日…って何で?」
「決まっておろう、君の実力を直に試してみたいのだ。
 手合わせ願えないだろうか?」
 予想だにしていなかった話に、数秒思考が停止する。
「いや、そんな金板さんの時間を使わせるようなこと──」
「金板だからどうとかではない『私が興味がある』のだ。
 もちろん無理強いはせんが、わがままに付き合ってはくれぬか?」
 後ろめたさを取り払われてしまったら、断る理由は最早無かった。
「…お願いします。」
「良き! なれば明日、修練所の現地で!」
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