真水のスライム

イル

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レミレニア編

42話 追撃戦③

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 こちらの手は、攻め込む相手への返り討ちが基本。先手を取るのは不得意だ。
 相手は連携で攻めと守りの両立が基本だった。片方しか取れなくなった今、守りに入るのは自明の理。

 互いに迂闊には動けない、そんな静寂が張り詰める。


 だが、択を削がれた相手と違い、こちらとしては想定済みの状況。
 まずは牽制。左手に軽く魔力を溜め、火球を1発放つ。
 咄嗟に銀鞭が横に跳ぶ。が、火球はその手前の地面に落ちる。
 攻撃用ではない。着弾点から横に、火の壁が吹き上がる。大した温度は出ていないが、目くらましには十分。
 間髪入れず、一気に踏み込む。見せかけだけの炎の壁を突っ切り、姿のあった場所に剣を突き立てる。

 …が、剣は空を斬り地に刺さる。
 銀鞭は一歩飛び下がり、刃は届かず。

 ならばと次の手。
 火花で大きくフラッシュ、少しだけ軸をずらし、剣の2撃目。

 やはりだ。
 銀鞭は距離を取るばかりで、反撃には転じてこない。近寄られると弱いタイプ。
 何度か同じように攻め込んでみるが、一向に反撃の素振そぶりすらない。
 このまま持久戦をされると、いちいち炎を立ててるこっちの方が不利だ。

 かといって手を緩めれば、今度は向こうが攻勢に転じるだろう。
 単体でどれほどのものかは分からないが、不明のリスクは避けたい。
 こちらの技が文字通り火力が無いのも、ばれる前に片付けたい。

 …得意ではないが、こちらから仕掛けるしかないか。
 やりとりの合間、炎の壁で隠したタイミングで追加の炎を1つ。山なりに飛ばし、銀鞭が逃げた先の後方を広くふさぐはずだ。
 このまま踏み込めば再びよけようとした所に命中か、そうでなくても接近戦に持ち込めるだろう。
 どちらにせよ好転、と炎の先を狙い剣を振り下ろす。

 しかし響く硬い音、牙に留められる刃。
 けど確信した。それが銀鞭にとって貴重な自衛手段。
 でなければ、こんなリスクの高い方法を何度も使う訳が無い。
 杞憂だったか、と次の一撃の為に剣を引く。


 が、その前に剣が弾かれる。


 銀鞭が大きく身をひねり、剣が弾き飛ばされる。
 耐えはしたが、一歩引いてしまう。

 その隙に一回転の勢いを乗せた鞭の横薙ぎ。
 反射的に剣で受けようとしたが間に合わない、左腕の籠手に絡みつける。

 ペースを取らせ続ける訳にはいかない、と巻きつけた鞭を思いっきり引き寄せる。
 同時に銀鞭も跳躍。その牙を武器へと変える。

 素直に受けるべきか? いや、それが狙いだろう。それじゃ流れは奪えない。
 じゃあどうする? どうすれば安全に流れを奪い返せる?
 …安全? はたしてそれは絶対か? 最優先にする事か?


 その刹那の思考よりも先に、咄嗟の行動は答えを出した。
 首筋まで触れるほど接近した牙。
 だがその喉元は、刃に貫かれていた。
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