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第一部 マスター、これからお世話になります

デネを探しに天空へ

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 今日は七月二十日。あれから三日間マスターの様子を見ているがそれといった変化がない。

 そんな三日間、私はマスターの様子を見る以外にもとあることをしていた。

「すみません、デネという方をご存知ないでしょうか?」
「デネ? 聞いたことの無い名前だな」
「そうですか。ありがとうございました」
「力になれなくてすまねぇな」

 私だけでは、マスターのいじめは解決できないと思い、他の人に相談することにした。

 しかし、他の人と言っても私の知り合いは、学校の管理人と私をこの世界に連れてきた張本人であるデネだけ。
 管理人は忙しそうだったのでデネに相談することにしたが、デネが何処にいるかは知らない。
 そして、この三日間ずっとデネの居場所を調べていたのだ。

「それにしても、場所どころか名前すら知ってる人がいないんだが?」

 この世界を創った神様だよ~なんて言ってたクセに知名度ゼロじゃねぇかよ。
 普通こういう場合って有名になる筈なのに有名の「ゆ」も出てきてねぇよ。

「全く何処にいるんだか……」

 こんなことをしている間にもマスターは苦しんでるって言うのに、こんなにも時間を掛けていたらマスターの精神の方が先に崩壊してしまう。

 この状況に少し焦りを感じてきた頃に奇跡的な進展があった。

「あの……貴方が先程からデネ先輩のことを聞いて回っている方ですか?」
「はい、それが……って、デネを知ってるの!?」
「は、はい」

 まさかの展開。デネのことを知っている人がいた。
 よかったなデネ、知名度ゼロの称号は今さっき消え去ったよ。

 それは兎も角、今目の前にいる女の人はデネのことを知っている。
 しかも、デネ先輩と言うからには居場所も知っている筈だ。

「えっと……居場所を知りたいんですよね?」
「はい、そうですけど……騙しませんよね?」
「騙すわけないじゃないですか~。私がそんなことをしそうな人に見えますか?」
「見えるから言ってるんですが……」

 何故こんな質問をするのかは、人間界でも同じようなやり取りをした後に起きる事件があるからだ。

 冷静に考えてみれば、今目の前にいる女の人は初対面でまだお互いに名前も知らない関係。
 今信用出来ないのは当たり前だと思う。

「取り敢えず、デネ先輩はあそこにいますよ」

 そう言って、目の前にいる女の人は上を指さした。
 指に従って上を見るがそこには何も無い。

「少し待ってくださいね。デネ先輩に連絡入れますので」

 そういった途端に女の人の前にSF映画でよくある半透明のモニターが出てくる。
 サイバネットワールドの通信手段の一つのようだ。

「先輩に会いたいって言う人がいるので今から一緒に向かいます」
『了解したよー。あ、出来れば今すぐに来てね』
「わかりました」

 話を聞く限り、来るなら今すぐに来て欲しいとのこと。何が用事でもあるのだろうか?
 
 それより、初めは凄いと思った通信手段って会話内容丸聞こえじゃないですかーー。

「そういうことなので、早速向かいましょう」
「向かうって……どうやって?」

 指さした方向は上、つまり空だ。勿論私は空を飛ぶことは出来ないので、自力で向かうのは論外。

 そう考えていると、目の前にいた女の人は私の手を握ってきた。

「え、あ、あのー、これはどう言う……」
「捕まってて下さいよ!!」
「いや、捕まるも何もあなたから掴んで来たんじゃないですか!」

 私も元は男子高校生で童貞歴は年齢は同じだった男だ。女の人に手を握られれば嫌でも緊張してしまう。

「そ、その……肩を掴むくらいでも」
「それじゃあ行きますよ!!」
「って、人の話を聞けぇぇ!!」

 その瞬間に上に私と女の人は向かって飛んで行く。

 移動速度は光の速さよりは遅いもののジェット機くらいの速さはあるのではないだろうか?

「じ、Gがかかる!!」
「慣れてください」
「そんなこと言ったって!!」

 それくらいの速さがあるので、勿論私達にかかる重力は半端ない。にも関わらず、目の前の女の人はリアクション一つしていない。

「喋らないでください。したきゃみまひゅよ舌噛みますよ?」
「貴方が噛んでるじゃないですかぁぁぁ!!」

 こんな騒がしい状態が続いて五分後、やっと目的地に着いたのか徐々に減速していき、道らしき場所に着地した。

「やっと着いた……」
「……いひゃ痛いい」
「大丈夫ですか?」

 相当痛いのか、女の人は着地してからずっと口を抑えている。
 血は……出ていないと思う。と言うより、データ体の私達は血が出るのだろうか?

「それより、ここにデネがいるんですか?」
「そうです。この先に……うっ、血の味が……」

 ——あ、やっぱり出るんだ。

「まずは舌をどうにかしてくるので先にデネ先輩の所に行ってください」
「わかりました」

 女の人はそう言った後に向かう方向とは逆の方向へと走って行った。
 
 周りを見渡してみると、そこにはサイバネットワールドの天空都市と言える場所だった。
 道の下を覗いて見ると、雲と数分前私がいた場所が辛うじて見える。

「こんな場所が……」

 人間界でも雲より上にあることから天空の城なんて言われている場所もあったが、今私がいる場所はそれとは比にならない。
 空に島が沢山浮いていて、それを今私がいる道を中心に繋がっている。

「それより、早くデネがいる所に向かわないと」

 しばらく見たことがない絶景に夢中になっていたが、ここに来た目的はデネ会うためであって、この絶景を見に来たわけじゃない。

 私はデネがいるであろう目の前の建物に向かって入って行った。

 建物の内装は、人間界によくあるビルとボロい遺跡が混ざったような、なんとも変わった内装だった。

「こんにちは、何か御用ですか?」
「うわっ!」

 建物の内装を見ていると、突然左の方から声が聞こえた。
 声がした方を見ると、そこには十人中九人がイケメンという程の美男子がスーツ姿でいた。

 え? 何で十人中九人かって? それは私という存在がいるから。
 姿が女性で、女性の演技をしていても、元は男性。
 男性がイケメンを見た時に感じるのは羨ましいという嫉妬感。
 故に、今私は目の前にいる彼をイケメンだと認めたくない訳だ。

 因みにマスターは可愛い枠だから男女共に愛されるべき人だと思う。

「あの……どうかしましたか?」
「いえ、別になんでもないですよ」
「そうですか。では、ここに来た要件をお伝えください」
「デネさんに会いたいのですが……」
「デネ様ですね。わかりました」

 この美男子にデネ様と言われるくらいだ。相当偉い位に立っているのだろう。

「それではついて来てください」
「わかりました」

 美男子はそう言って、奥に進み始めた。それに私もついて行く。

 歩いている間は暇だなぁ。なんて考えていると、それを察したのか美男子は私に話し掛けて来た。

「今日はわざわざ下界からいらしたんですか?」
「下界?」
「あ、すみません。下界について知らないようなので説明します」

 普通の人が聞けば、少々イラッときそうな言い方だったが、折角教えて貰えるのだからここは黙っておくことにする。

「雲より上を天界で雲より下を下界と言うのです。貴方が知らないのは無理もないです。これは我々天界に住む住民しか知りませんから」
「へー」

 ——知らないとわかっていて何故、最初に聞いた?

 完全にいらない会話だと思ったが、これを言ってあれこれ言われるのも嫌なので黙っておく。

「あれ?私が下界から来たことを話しましたっけ?」
「あ、いえ。話してはいませんが、下界の人だとはすぐにわかりました」
「どうやってですか?」
「それは貴方の服装ですよ」
「服装?」

 一体天界に住む人と下界に住む人とで、どう服装が違うのか?

「天界に住む人は、全員スーツを着ています」
「今貴方が着ているようなものをですか?」
「はい。まぁ例外としては、デネ様がスーツ以外の変わった服装をしていることですが」
「デネの服装?」

 デネの服装と言えば、確か今私が来ているような服だったような……。
 あれ?捉え方を変えれば、下界の全住民が変わった人って言ってるような……。

「着きましたよ」
「結構速かったで……す……ね?」

 デネの所に着いたのかと思ったが、目の前に見えるのは、人間が一人が入れそうな半透明のパイプだ。
 そして、そのパイプの行先は上の方に向かっている。

「えっと……これは?」
「この建物の移動手段である『すぐに着君』です」
「何その名前」

 なんか似たような……いや、そのものが人間界で有名な配管工シリーズのゲームにあったような……。
 てか、名前そのまんまじゃん。

「すぐに着君の中に入れば、すぐに行先に着きますよ」
「その高速はどういう一体原理なんですか……?」
「ワールドトップシークレットです」
「そうですか」

 私はツッコミが追い付かなくなったので、普通に話しを流し始める。

 とりあえず、このすぐに着君に入ればデネのところに行
ける、ということでいいのかな?

「それじゃあ私は元の仕事があるので」
「ありがとうございます、ここまで案内してくれて」
「いえいえ。それでは、下界の民よ」

 今絶対コイツ下界の住民のことを見下した!! 絶対に下界の人より天界の住民の方が偉いとか思っているヤツだ!!

 美男子はその言葉を最後に、この場から離れて行った。
 恐らく最初にいたところへと向かったのだろう。

「……入るしかないか」

 そうしないとデネのところに行けないし、何より話が進まない。
 仕方なく私はすぐに着君に入る。
 途端に、あの女の人に捕まってここに来る時に感じた感覚がした。

「……どうせなら女じゃなくて鳥になって欲しかったなぁぁぁぁ!!!」

 叫んでみたが、既にパイプの中にいるのでその願いを聞くものは誰一人としていなかった。

 そして、ここに来た時のデジャブを感じながら、高速で上へと向かって行った。
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