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Ⅵ 女王
夜明けの女王 Ⅰ
しおりを挟む『画像も無いのに見つめ合うなっ!』
プチュッ!
『ちょっとセレネ何するのよ!?』
あからさまに砂緒と七華の会話に嫉妬したセレネにより魔法通信は一方的に切られ、かろうじて通信で受け取っていた地図を元に蛇輪が千岐大蛇の中心核を誘引しつつ、リュフミュラン沖ノ神殿乃小島に向かう事とした。
―東の地(中心の洲)最西の都市アナの砂浜。
ズシーンズシーンズシーーン。
千岐大蛇が去りもはや慌てる事も無く、有能メイドさんを拾った貴城乃シューネの操縦する魔ローダーGSX-R25が超超巨大ヌッ様の神マローダースキル国引きにより、狭い海峡となったセブンリーフとの境にまでやって来ていた。
『シューネ殿、一体どうなっているのですか? 先程の微妙な振動は何だったのですかな?』
クラウディア王国に取り残された夜叛モズが一向に返答しないシューネに苛立って何度も質問して来る。
『うるさい』
プチッ
シューネは魔法通信を一方的に切った。
「シューネさま見て下さい」
有能メイドさんが指を差した。
「なんと、セブンリーフとの間が頑張れば泳いで渡れそうな程に狭い海峡となっている。引き潮になればまさに地続きとなるのではないか……くくく……ふふふ、あーはっはっはっはっ!! 路が開けたぞっっ!! はーーはっはっはっはーーーーはは」
「シューネさま?」
普段の理知的で優しいという有能メイドさんからのイメージと違い、突然大声で不気味に笑い出したシューネの姿に異様な物を感じ、それ以上何も言えない有能メイドさんだった。
―リュフミュラン沖ノ神殿乃小島近海。
『あともう少しです、フルエレ落っこちないで下さい!』
蛇輪に乗り先導する砂緒が振り返って叫んだ。その後ろには一応影響を与えない様に紅蓮アルフォードの白鳥號が飛んでいる。
『お前特に何もしてねーだろーが』
「何をまだ怒っているのでしょうか……」
「怒っとらんわっ! だがお前……事が終わったらあたしと七華、どっちが本当に好きかはっきりしてもらうからな!」
セレネの声は本気だった……
「え、そんなのセレネに決まってるでしょう」
「軽いわ! 行く先々で適当な事を言いおって」
図星だった。
『見て見て、そろそろ朝日が見えて来ましたよっ!』
紅蓮の後ろで存在を忘れ去られかけているメランが、何とかして目立とうと、ふっと目に入った朝日を大袈裟に知らせた。その後ろでは兎幸がスヤスヤと寝てしまっている。
『そうねえ、貫徹はお肌に悪いわねえ……』
(お姉さま……)
等と美柑が呆れている横で、雪乃フルエレ女王が場違いな事を言った直後であった。
『うっおかしい!? 朝日が見え始めた途端に……ヌッ様の声が聞こえにくくなって来ました』
突然フゥーが頭を押さえて左右を探る様に見始めた。
『え? フゥーちゃんどうしたの??』
『ももも、もしかして私が何か言ったのがマズかった??』
『メランちゃんは関係無いよ、安心して』
紅蓮が振り返り笑顔でメランを慰めたが、眼球が一瞬だけメランのタンクトップ姿をじろっと見た。普段は地味な服装のメランは胸の谷間も露わな薄いタンクトップ一枚の姿である事を忘れていて、顔を赤らめて両腕で隠した。
(し、しまった貴公子の前で変な格好してるの忘れてた!?)
『や、やだっ』
『あ、メメランちゃん御免』
紅蓮は慌てて視線を逸らした。
(んー何してるんだ? 紅蓮のヤツ……)
美柑は妙な二人の会話に何事かと呆れた。
『ああぁ、どうしよう! ごめんなさいもう駄目かもしれない……』
等と紅蓮とメランの会話で一瞬皆の注意が削がれたが、フゥーの様子はさらにおかしくなった。
『どうしたのフゥーちゃんしっかりして!!』
雪乃フルエレがフゥーの肩に手を掛けた直後であった。
『駄目です、ヌッ様解除されますっ!!』
『エーーーーッ!?』
フゥーが叫んだ直後、千岐大蛇にぶら下がるヌッ様の巨体全体が、うっすらと透明になって行く様に見えた。
『フルエレ行けない! なんか消えそうです、頭だけでもカガチの上に乗せて下さい!!』
砂緒は慌てて叫んだ。
『フゥーちゃんやって!』
『はいっ』
フルエレに言われたフゥーは、雲梯の様に両腕でぶら下がるヌッ様を懸垂の要領で上半身を上げ、巨大な頭を千岐大蛇の翼と尻尾だけとなった中心核の上に乗せた。その直後、透明度を急激に増したヌッ様の身体は、あたかも朝日の日差しに焼かれるかの様にスーーッと消えて行く。
ボトッ
『キャッ』
身体の外装を失ったヌッ様の頭から透明な球体の操縦ルームだけがカガチの上にゴロンと転げ落ちた。中では衝撃でフルエレ達がバウンドする。ギリギリでヌッ様は跡形もなく消えた……
『ああ僕のヌッ様が消えたっ』
『申し訳ありません……』
透明になった球体の中で猫弐矢とフゥーは慌てて朝焼けの空しか見えない外を眺めた。
『きゃあああ!?』
単身で飛べるので特に慌てていない美柑を含め、四人を乗せたままの球体がさらに中心核に乗っかって天に昇って行く。そのグラグラ揺れる不安定な状態でフルエレは悲鳴を上げた。
(お姉さま……だけでも抱えて逃げるか?)
『フルエレッッ!』
『フルエレさんっ』
慌てていち早くセレネが反応し、蛇輪で上昇しようとした。
『駄目だセレネちゃん! 蛇輪で追い掛けると誘引であらぬ方向に行ってしまいそうだし、さらにどんどん一緒に天に昇ってしまいそうだ、僕が助けるよ』
シュバッッ
紅蓮が叫び、白鳥號が急上昇を始めた。
ボッボボボボボ……シュンッ……
が、直後に白鳥號のスピードが急激に遅くなり、失速状態になって今度は急降下して行く。
『ぎゃーーー紅蓮さん落ちてる落ちてる!?』
『どうしたんだっ!? くそっっこんなハズじゃ……』
ずっとヌッ様に魔力を供給し続け、さらに乗ったばかりの最高級の白鳥號という強力機体で、魔法の羽と魔法の刃さらに回復(超)というスキルまで使用した紅蓮の魔力は、ハイな本人が気付かぬ内に一時的に疲弊状態になっていたのだった。当然メランの魔力はアテに出来ず、兎幸は深く眠っていた。
キラッキラッッ……
操縦席の球体を乗せた千岐大蛇は、朝日で煌めきながらどんどん天に昇って行く。
『くそーーっ天に昇れっ白鳥號よッッ!!』
紅蓮は悔しがって失速しながら天を仰いだ。
『兎幸はっ? 彼女を起こせ紅蓮!』
『もういいっあたしが行くよっ』
ギューーーンッ
紅蓮の警告を無視し、セレネが急上昇を始めすぐに中心核に追い付いた。蛇輪の腕を伸ばして四人が見上げる透明な球体を抱き締める。
『フルエレ無事ですか?』
ハッチの無い蛇輪から砂緒が身を乗り出した。
『ご、ごめん有難う砂緒……なんか私貴方を邪見にする事もあるのに、結局いつも砂緒が私の事助けてくれるね』
『当たり前です。私がフルエレを守ると言いましたからっ!』
『砂緒……』
二人は昔の様に一瞬見つめ合ったが、直ぐに紅蓮によって邪魔をされた。
『フルエレちゃん、兎幸ちゃんが起きてくれたよ! 上昇は出来ないけど島まで飛び続けられそうだ』
『ちっ、じゃあ紅蓮よ貴様に球体を投げますから受け取って下さい』
『え゙?』
今感動したばかりのフルエレを始め、四人ともが仰天した。面白く無いセレネも言われる通りむんずと球体を片手で掴むと、ぽーいとあっさり白鳥號に向けて投げた。
ヒューーーーンッ
『あの目付き悪男!』
『ぎゃーーーー滅茶苦茶する!?』
とフルエレが叫び、一瞬急降下を始めた球体だが、とっさに天井に張り付いた美柑がド根性で飛行魔法で支えた……美柑の全身から謎の黄金キラキラ粒子が噴出した。
『うりゃああああああ!!!』
『凄いわ美柑ちゃん!』
『ある意味怖いよ……』
キラキラキラ……
それが紅蓮からは透明な球体が朝日に照らされ輝きながら、何か見えない力に導かれてふわふわと漂って落ちている様に見え、そっと白鳥號の両手を差しだして受け止めた。
『美柑ッ大丈夫かっ??』
『紅蓮……』
白鳥號の掌に球体が乗っかった途端、両手を広げて美柑もふわっとメ〇ーポピ〇ズの様に操縦席の床に着地した。真っ先に名前を呼ばれた美柑はまんざら悪い気がしなかった。
『大丈夫ならいい、それよかフルエレちゃん怪我は無かったかい? 本当に心配したよ』
『うん、紅蓮くん有難う……』
(オイッ)
一瞬で美柑はコケた。
『沖ノナントカ島が見えたっ!!』
直後にセレネが叫んだ。
『セレネ、もはや蹴り落としましょう!!』
『よっしゃーー、蛇輪ウルトラキィイイイイイイイイイイイッック!!!』
中心核より高く飛んだ蛇輪はくるりと回転して急降下し、凄まじい飛び蹴りを食らわせた。
ドシュウゥウウウウウウウウウウウッッ!!
蹴りの姿勢のままの蛇輪を乗せて、中心核は島に向けて真っ逆さまに急降下して行く……
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