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Ⅵ 女王

神話の終わり ⑪ 真・国引き……動く

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 全高10Nキロのヌッ様の威容は、我々の現実世界で言えば世界一の高さを誇るエベレスト(チョモランマ)が標高8848メートルであり、それを軽く越えていた。ほぼジェット機が飛ぶ高度1万メートルと同じ高さである。その様な姿であるからその時間に起きているほぼ全ての人に見えていた。ただ見えてはいるが、上半身の上の方になると夜の闇に紛れて霞んで良く分からない状態でもあった。まさに神という形容がピッタリ来る存在であるが、その下の実在のヌッ様内からまだうら若い娘三人が操縦していた……

(ヒッお姉さまがまた仕切りながら、真・神魔ローダースキルとか勝手に命名してるッ!?)

「ハイッ!!」

 しかしフゥーは構う事無く強く返事をした。

(またフゥーも言われるままなのねっ)

「ちょっと、また貴方の悪い癖が出ているわ……」

 雪乃フルエレ女王がジトッとした目で美柑ミカのパピヨンマスク越しの顔を見た。

(ヒィッ、心の中で突っ込んだだけでお姉さまにバレた!? 怖いよ)
「も、申し訳ありませんっ! 真・必殺技を執り行いましょう!」

「真・神魔ローダースキルよっ」
「はいっ!」

 今度は出鼻をくじかれてフゥーが二人をジトッとした目で見た。

「あのう……」
「行くわよっ! 真・必殺技!! じゃ無くて、真・神魔ローダースキルよっ!!」

 いきなりフルエレは美柑に引っ張られて言い間違ったが、フゥーは触れてはいけないと思い無視した。

「ハイッ! 今度こそ行きますっお願いヌッ様、今度こそ私達の願いを聞き届けて下さい……真・神魔ローダースキル国引き……」

 フゥーが静かに祈ると、実体の全高300Nメートルのヌッ様の全身から謎の黄金の粒子が放出され始めた。

「うわぁ綺麗……」

 家の窓から見ていたアナの地の住民の少女が呟いた。

 シュバァアアアッ!! ビキィイイイイイイイイイイッッ!!!
 そして今までと同じ様に全高300Nメートルのヌッ様から光の綱が放出される。三人の娘はもしかしてこれまで通りなのかと一瞬落胆しかけたが、直ぐに白鳥號はくちょうごうに乗って飛ぶ紅蓮アルフォードからのフォローが入った。

『す、凄い……超超巨大ヌッ様の腕から飛んでも無く太い光の綱が発生して、遥か彼方まで伸びているよ……どこまで続いているのだろうか……』

 ぐんぐんと急上昇した白鳥號で、とてつもなく巨大な幻想のヌッ様の腕の辺りまで飛び、その指先から四方八方に伸びる光の綱を見て、紅蓮は一瞬今までの千岐大蛇チマタノカガチとの戦いを忘れて遠い世界の果てにまで思いを馳せた。そして紅蓮が考えた様に実際に超超巨大ヌッ様から伸びた綱は、当初の目的通りセブンリーフ島と東の地(中心の洲)の西端都市アナの地とそれに付随する三角島を結び付けただけでは無く、東の地の南に存在する二名洲ふたなのじまや、以前に砂緒とセレネが旅した南のキィーナール諸島、さらにはまだまだ神聖連邦帝国が到達していない遥か東の地、広大なひし形島のさらにそれらに付随する細長い島々、同じ言葉を話す人々の洲という島の全てが結ばれていた。

『ありがとう紅蓮くん、私達の上のとても大きなヌッ様からもちゃんと光の綱が伸びているのね』
『ああ、そうだよフルエレちゃん!』
『美柑です』
『ああ、美柑もいたんだっ!』
『……』

 フルエレは静かにフゥーの瞳を見た。彼女も静かに頷いた。

『フゥーちゃん今度こそ、一緒に引っ張ろう!!』
『はい……』
『私も頑張るよ!』
『僕も一生懸命見守るよ』
『同じく、空から見守るから!』

 フルエレとフゥーと美柑は静かに操縦桿を握り直し、同室に居る猫弐矢ねこにゃと上空の白鳥號の紅蓮が静かに見守った。

『行きます、真・神魔ローダースキル国引き、国来国来くにこくにこ……オオオオオオーーーーーーッッ!!!』
『たあああああああああああああああああああああ!!!』
『でやああああああああああああああああああああ!!!』

 三人娘は、此処まで時間を稼ぎ続けたル・ツー漆黒ノ天の大猫乃主おおねこのぬしの想いを無駄にしない為にも、心から幻想のヌッ様に祈りながら力を込め続けた……

 ビビビビビビッビビビビビビ……
 すると地震とは全く異なる微かで微妙な振動が東の地に伝わり始めた。

「お、おおおお、な、何だ?? 微妙な振動が」
「見ろっ波が微妙にちゃぷちゃぷ言い出したぞ……」

 アナの砂浜に立ち尽くし、超超巨大ヌッ様を見上げていた兵士達が海岸線の微かな異変に気付き始めた。

「違う、陸が陸が動いているんだ……」
「なんか、ベアリングでも付いているみたいにスムーズだな……」
「もっとガッガッガッて行くのかと思ってやがったぜっ」

 海岸線に元々居た兵士達も、偶然起きていた住民達も異様な出来事に目を見張った。そしてそれはクラウディア王国に取り残された夜叛やはんモズや地元住人達、遠く聖都ナノニルヴァの人々にも気付いている者が多くいた。


 ―セブンリーフ島。
 リュフミュラン七華しちか王女から海岸線の住民避難と、即位式予行練習の為に集まっていたフルエレシンパの王族達の退去を通告されていたが、東の海岸線の向こうに全高5~600Nメートルの超モンスター発見とのリュフミュラン軍の報告を受け、王族達はあろう事かわざわざ海の見える神殿から、兎幸うさこの天球庭園のさらに東のフルエレと砂緒が初デートをした砂浜にまで物見遊山にやって来ていた。

「おいおい、もう観念しねえか折角初体面なんだからよ、そろそろ腹割って話しあおうぜっ昔の事は水に流してよ、ガハハハッ」
「い、いや俺やっぱ帰るわ」

 衣図ライグに発見されて以降、ガッチリと首根っこを押さえ付けられ魔戦車の上に乗せられ、此処まで連れられて来ていた有未うみレナードは生きた心地がしなかった。

「ぐへへ、大将の機嫌が良いうちに家来になった方が良いですぜ」

 やっぱりコソ泥にしか見えないラフが笑った。

「いや、俺女王の次に偉い人なんだが……おおお嬢さん、助けてくれ」

 その有未レナードの目に、ワイン片手にこちらを見るイェラの姿が見え、彼はゾンビの様に腕だけを伸ばした。それを見て自称美人秘書のメガネは顔を背けた。

「なんで私が貴様を助ける? 私は衣図ライグ大将殿側だと言う事を忘れるな」
「そりゃないせ~~~」
「と、言うわけだ。諦めて……おっ? 何だありゃ……」

 ライグはガッチリとレナードを離さないまま上を見上げた。

「何だっありゃああ……」
「大きい、魔ローダーなんてレベルでは無いな」

 イェラもワインをぐいっと飲み干しながら見上げた。続いてコーディエや大アリリァ乃シャル王達もあっけに取られて見上げていた。

「すげー、マジすげーーぜ」

 とシャルも叫び、この時セブンリーフの人々は超巨大な巨人が遥か夜空の果てにまで立ち尽くしている事に気付いた。そしてそれからしばらく後……


 ビビビビビビ……
 人々を微かな振動が襲う。

「お、おい今度はなんか海岸線が動いてないか? なんて言うか動く魔法歩道みたいな? ていうかもうそろそろ離してくんない?」

 まだレナードは衣図ライグに掴まれていた。しかし実は実際にはセブンリーフ自体は余り動いて無く、東の地の方が近付いているという表現が正しかった、目の錯覚である……

「いいじゃねーか、この異様な景色を一緒に眺めようぜっうははは」

 と、その場に来ていた瑠璃ィるりいキャナリーとラ・マッロカンプのウェカ王子にセクシーなメイドさんのメアも、能天気にサンドイッチを食べながら異様な光景を眺めていた。

「あちゃ~~~なんや全高600Nメートルくらいの謎の物体までどんどん近付いて来るで~~」

 林立するSRV魔ローダー部隊よりも先に、瑠璃ィは対岸の東の地が近付いている事に気付いた。

「えーーーーっ!! いいんですか逃げなくて!?」

 メアは瑠璃ィの言葉に飛び上がる程驚いた。遠く対岸の火事だと思っていた事が何故かどんどん近付いて来るのだ。

「いやあ、謎のモンスターも近付いて来るけど、相対的にあの超デカイ奴も近付いて来る訳だろ? だとしたら最終的にあの超巨人がプチッてやってくれるんじゃないかナ~~?」
「なるへそ……」

 メアは王子の言葉に妙に納得して再び光景を眺め始めた。何故超特大巨人が都合よく自分達の味方だと思うのかは謎である。

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