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Ⅵ 女王

神スキル 国引き ⑥ 父娘

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 急いで大バルコニーに戻ると、早速シャルと紅蓮が揉めていた。

「おいテメー、勝手に侵入して来て何のつもりだ!?」
「丁度良かった! この砂緒の次に目付きの悪い子供をなんとかしてくれ! 迂闊に攻撃して殺してしまうと後味が悪いよ」
「何!?」
「ごめんシャル、本当に今急いでいるのよ、ちょっとどいてっ」
「フルエレ? 帰ってたのかよ」

 フルエレの後ろには猫呼ねここを小脇に抱えた砂緒が続いている。その猫呼は活きの良いエビの様にピチピチ跳ねていた。

「ギャーーッシャル助けて! 人さらいよっ暴力OKよっ!!」
「なんだこりゃ、やっぱり砂緒犯罪者じゃねーかよ、ギルティハ……」
「セレネお願い!」

 パシッ!!
 スリットの入ったセレネのスカートから白く細い脚が超高速で蹴りを後頭部に入れ、シャルはコテッと気絶した。その様子を紅蓮と砂緒がじっと見ている。

「何見てるの、さっ行くわよ。シャルごめんね……」
「ぎゃーーーっ連れてかれる~~~」

 フルエレは気絶したシャルに謝ると、驚きながら見守る兵士達を残して白鳥號はくちょうごうに乗り込み急いで発進した。


 一方その頃大型船内。
 コツーーンコツーーン。

「……じゃないの~~ダメよーダメダメ……フフッ」

 パートナーの紅蓮アルフォードと姉の雪乃フルエレがさもイチャイチャしていると誤解した美柑ミカは、急速に心がすさび謎の独り言を呟きながら、なんとなく以前潜んでいた船倉に向かって一人歩いていた。
 コロッ
 船倉に着いた所で、美柑のつま先に床に転がるポーションの空き瓶が当たった。

「何よ??」

 ボゥッ
 灯り魔法を付け目を凝らして良く見ると、船倉の床にはお菓子の包み紙やらポーションの空き瓶や包帯やらが散乱していた。

「怪しい、あからさまに怪しい。え、何これもしかして不良? 此処は不良の溜り場なの? いいわよ、このカミソリおミカが成敗してやるわよっ!」

 紅蓮をフルエレに献上したつもりの美柑は急速にグレ始めていた。

「ぐ、うぐぐぐっ」
「うっ誰か居るの??」

 冗談で適当な独り言を言いながら歩いていると、本当に何者かのうめき声が聞こえてドキッとする。

「むぐぐっ」
「うげっ誰よ貴方?」

 これでも超S級冒険者として警戒しながら歩くと、床にさるぐつわをされ手足全身をぐるぐる巻きにされた少年が転がっていた。余りにも異様な状況に全てが何かの罠ではないかと警戒しながら接近すると、少年の額にはテープで紙が貼ってあった。

「むぐぐ」
(助けて下さい)
「えっ何? この少年を……まおう軍まで送ってくれ? 黒猫仮面?? なんじゃこりゃ」

 ぐるぐる巻きにされているのはサッワであった。スピネルはポーションや医魔品で回復してもらった途端にサッワに襲い掛かり、今の状態にしてしまった。

(じーーーっ)

 異様な状況にどうしようか悩んでいると、ふと少年の視線が不審な事に気付き、バッと後ろに飛んだ。

「げっ何この子、こんな危機的状況で私のミニスカートの中覗こうとした? なんたるエロ根性」

 美柑は生暖かい目で見ながら少年の処遇に悩んだ。

「むぐう」
(パピヨンマスク付けてるけど絶対可愛いなこの子)
「悩む悩む……」


 ―甲板。
 ヒュイイイーーーン

「行くわよっ!」
「ラジャーー」

 大急ぎで帰還した白鳥號が飛行形態のまま着艦した。そこから雪乃フルエレ以下猫呼を小脇に抱えた砂緒とセレネが飛び出し、一目散に貴賓室に走って行った……

「行っちゃったよ、仕方ない僕ももう一度監視に飛び立とうか」

 と疲れを知らない子供の様な紅蓮が再び千岐大蛇ちまたのかがちを見に行こうとした時、兵士達に止められた。

「お待ち下さい! もうすぐこの船は中心の洲西端のアナに到達します。そこでヌッ様を降ろす予定ですので、何か動きがあると思いますので待機してて下さい!!」
「あ、ああ、もうアナまで来てるのか、分かったよ」

 紅蓮は白鳥號に再び乗り込む事を止め、作業員から飲み物を受け取りながら美柑の事を思った。


 ―貴賓室前。

「砂緒もういいわ、降ろしてあげて。猫呼ごめんね、どうしても会って欲しい人がいるのよ……」
「もう誰よぉ、どうせ猫弐矢ねこにゃお兄様でしょ?」

 猫呼が砂緒に触られてた部分を念入りにはらいながら、眉間にシワを寄せて言った。

「ああ、猫呼来てくれたのかい!?」
「お兄様?」

 その当の猫弐矢が廊下から現れた。

「とにかく部屋に入りましょう」
「何よ怖すぎるわよ、誰なのよ砂緒言ってよ」
「企業秘密です」

 コンコン
 フルエレが慎重にノックしてドアを開けた。中を覗くと大猫乃主おおねこのぬし貴城乃たかぎのシューネと兎幸うさこの三人がむすっとした顔で黙り込んで座っていた。

「シューネさん、ちょっと席を外してくれますか?」
「……む、フルエレ女王陛下の願いならば、私はおいとま致しましょう」

 何の抵抗も無くシューネは猫乃に一礼すると一瞬猫呼と砂緒をちらっと見ながら足早に去って行った。

「いいわ、猫呼入って頂戴」
「何よ、もったいぶって……あっ」 

 猫呼が部屋に入ると、ソファーには優しい顔で父王の猫乃が座っていた。

「猫呼、戻ってくれたのだね」
「ア、パパ……お父様……どうして……わーーーーーーーっ」

 父王の姿を見た途端に、猫呼は大声で泣きながら飛びついて抱き締めた。父は次男猫弐矢に王位を譲っただけで別段行方不明でも何でも無いのだが、彼女自身が家出していた為に久しぶりの再会であった。

「おやおやどうしたのだい、ワシの方がお前を待っていたのだよ、突然に飛び出しておいて……」

 百年を越える長生きの猫乃にとっても猫呼は目に入れても痛くない可愛い末娘であった。

「ご、ごめんなさい、どうしても猫名お兄様に戻って欲しくて……ずっと探しているの」
「いやもうの事は忘れなさい。は子でも其方の兄でも何でも無い。だが、それで雪乃フルエレ女王達と出会ったのだね?」

 しかしその長男猫名はこの船の中に居た。

「ウンそう」
「本当に短い間にお前の母に似て美しくなったね。見違える様だよ」
「そ、そんな事無いです……お母さまは??」

 猫呼は少し赤面して、この場にてっきり母も居ると部屋の中を見た。

「お母さんは西の浜の漁村で避難民達と無事にいるよ」
「そ、そうなの」

 猫呼は兄以外だが家族全員揃うと思ったのに、少し寂しそうな顔になった。

「父上、猫呼は本当に成長して僕も驚く程の強い娘になったのです。それは砂緒くんやフルエレくんが良く知っています」
「その通りよ!」
「それは保障します。皆この子の小さな尻にひかれています」
「大切な時に余計な言い方すんな?」

 冗談を言う時ではないとセレネが砂緒を睨んだ。

「でも……お兄様に位を譲って以降、表舞台に姿を見せなかった父上が、どうしてシューネと会っていたの??」

 猫呼は純粋に疑問で首を傾げた。

「それは……しかし最後にお前と再会出来てよかったよ」
「え、最後ってどういう事です??」
「い、いやまたお前に会えて良かったよ」

 あからさまに言葉を濁した。

「どういう事!?」

 父猫乃がうっかり言ってしまった言葉に、猫呼は敏感に反応して立ち上がった。フルエレは沈痛な面持ちで何も言えなかった。

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