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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

一緒にいるのに別れ ①

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 一方その頃、クラウディア王国三万八千Nキロ上空の天空の蛇輪へびりん内の雪乃フルエレ女王とスナコに変装中の砂緒すなお……

『暇ですね……』

 スナコちゃんがまだまだ鎧姿のまま操縦席内でぷかぷか浮いている。

『さっきも同じ様な事言ってなかったあ!? 暇だったら来ても良いのよ』
『おや、しかし残念ながら先程無断でそちらに行こうとしたら、鎧と重りがつっかえまして不可能でした』

 スナコはシャッターの閉じた狭い通路を見ながら、重りをガシャガシャ鳴らした。

『そうねえ残念ねえ、ふーん』
『ふーんて、貴方何してるんですか?』

 スナコが魔法モニターをよく見ると、背中を向けながらもフルエレは浮きながらお菓子を食べマンガを読んでいた……

『ん、持って来た書物読んでる』
『書物ってマンガでしょうが。それにいつの間にお菓子まで持ち込んで何という快適空間ですか……緊張感ゼロですね』
『もしかしたらもう解決しちゃってるのかも、うふ』
『うふって……フルエレがそんな事なら私もコーヒーセット持って来るべきでしたね。野点のだてならぬ宙点そらだてですよ、乙な物ですなあ』
『ふーん』

 パリッ
 フルエレは宇宙の上の空で何かをかじった。

『聞いてます?』
『凄く聞いてる』
『こうしてると最初にフルエレと出会って、ギルドを開業した時を思い出しますねえ』

 砂緒は遠い目をして宇宙空間を見た。

『そーねぇ』

 興味無さげだった。

『……』
『あ、そう言えば……確か前に宇宙から帰還した時って機体が燃え尽きるとか言ってたわよねえ?』
『ハイハイ』

 しばしフルエレは考えながら言った。

『今回は燃え尽きないの??』
『いや~~それが、私勘違いしてたのですが、宇宙船が空気との摩擦熱で燃えるとか思っていたのですが、実はよくよく考えたら第一宇宙速度で大気圏に突入した時に、大気を押しのけて圧縮する断熱圧縮とかで空気が凄い熱を持って発光するみたいでした。宇宙船が赤くなる訳では無く空気からの輻射熱で高温になるみたいですねえ』
『へェー』

 パリッ

『……聞いてます?』
『凄い聞いてる。それで??』
『はいー、それで今回は静止衛星軌道上から徐々に加速を付けて落下するので突如空気を押しのける事は無いので断熱圧縮は起きないはずです……多分』
『へェー』
『すいません、今言った事全部復唱してもらえますか?』

 しばし沈黙があった。

『うん、それでどのくらいの高度で貴方を放出すれば良いの?』
『……ええまあ、じゃあ高度八千Nメートルくらいで……』
『あら、割と低いのね』
『此処まで来る必要あったのかどうか』

 それで会話が途切れて二人はプカプカ浮き続けた。

『それで……』
『うん?』

 スナコは何か言い掛けて詰まった。

『でも……安心して下さい! 今もこれからもずっとフルエレを守り続けますよ! 何かあれば二人で』
『もういいのよ……』

 砂緒が昔に戻って連発していた台詞を言い掛けた所で、被り気味にフルエレが遮った。そのフルエレは笑顔であった。

『……え? 何といいましたか』
『ううん、聞こえて無ければいいのよ……』

 砂緒が無言で魔法モニターを見続ける中、フルエレは浮きながら笑顔で再びマンガを読み始めた。


 ―再び地上、クラウディア王国仮宮殿周辺。

「だからもう良いから離せサッワ!」
「いえ、離しません! 離せばまたお父さんを斬りに行くんでしょう??」

 墜落してハッチが開きっぱなしのル・ツー漆黒ノ天の操縦席内で、スピネルとサッワはまだ揉めていた。

「だからもう墜落したからヤバイから離せって!」
「嫌です!! 僕はもうスピネルさんを離しませんっ!」
「意味が変わるから離せと」

 ザッザッザッ……
 しかしその最中、ル・ツーが墜落した林の中を何者かが歩く足音がした。

「敵だ離せっ!」
「はいっ」

 足音がして瞬間的にサッワはスピネルの腰を離した。

「誰かいるの?」

 しかしサッワが腕を離したのと、紅蓮アルフォードが操縦席内を覗き込んだのはほぼ同時であった。

「!!」
「誰だ貴様っ!」

 サッワが振り返って絶句し、スピネルは反射的に叫んで操縦桿を握り直しル・ツーの上半身を上げた。

「ぬわっ!?」

 ガックンと持ち上がった操縦席から紅蓮がゴロンと転げ落ちて行き、スピネルは一安心してル・ツーを立ち上げ、ハッチを閉めた……
 ヒュンッ!!

「げっ!?」

 転げ落ちたと思った紅蓮はハッチの端に指を掛け、閉まるハッチの運動力を利用してするっと操縦席内に侵入した。

「うわーーー!? 変なのが来た、開けて下さい!!」

 バシャッ!!
 スピネルはサッワの言葉に無関係に反射的にハッチを開けると、剣を抜いた。
 カチンッ! ギィイイ
 しかし思わず振り上げた長い剣は操縦席の天上にぶち当たって突き刺さって止まった。

「チッ」
「遅いよ!」

 ガスッ!!
 スピネルが天井に刺さった剣を思わず見上げた瞬間、紅蓮がサッワをすり抜けて彼のみぞおちを思い切り蹴った。

「ぐはっ!!」
「スピネルさん!?」

 サッワの真後ろでスピネルは唾液を吐き出して硬直すると、そのまま崩れ落ちた。

「て、ててて、てめー何者だ!?」
「不意打ちしてごめん、名乗る訳にはいかないんだ。でも名誉を掛けて戦うなら外で戦わないかい?」
「………………ふっ良いだろう。スピネルさん待ってて」
「この男にも出てもらうよ」

 サッワが言った直後、紅蓮は事も無げにぐったりしたスピネルを片手でどさっと自らの肩に乗せた。

「い、良いだろう」

 目の前でスピネルを抱える紅蓮を見て、サッワはガタガタ震えた。

(い、いきなりスピネルさんを人質に取られた!?)


 サッワはル・ツーを跪かせると自ら先にピョンと飛び降りた。
 ドサッ
 自らも降りると無造作に林の中にスピネルを置く紅蓮。遠くには、うにゃうにゃと動く巨大で異様なカガチの姿とそれを見守るヌッ様が。

「て、てめー、こ、この俺様をまおう軍三魔将筆頭のサッワ様と知っての狼藉か!?」

 サッワは震えながら必死に強がった。

「へーまおう軍三魔将て言うんだ? 強そうだね、じゃあ始める??」
「お、おういつでも来い!!」

 少し離れてジャキーンと剣を抜くサッワ。視線の先には転がるスピネルが居た。ごくりと唾を飲み込むがどう攻撃すれば良いか分からない……

「本当に攻撃していいの??」

 丸腰の紅蓮はどうにも弱そうなサッワに首を傾げた。

「バカにすんな!? うおおおおおおおお!!!」

 サッワは叫びながら半分目をつぶって突進して来た。
 パシッ

「うっ」

 紅蓮がヒラリと交わし、後頭部に軽く当て身をすると一発でサッワは倒れた。

「……弱い、何なんだこの子は!? セレネちゃんの足元にも及ばないな」

 呆れながら紅蓮はすぐさま空きっぱなしのハッチからル・スリー白鳥號に乗り込んだ。

「ぐ、ぐぬぬ、返せ……」

 サッワは転がりながらも上に腕を伸ばし、憤怒の表情で紅蓮を睨んだ。

「む、僕の当て身を食らって気絶してない!? 割と凄いのかもね。命は奪わないから自由に帰ってもいいよ! でもこの魔呂は預かっておくよ」

 紅蓮は無表情で苦しむサッワを見ながら魔ローダーを再起動させた。
 シューン、ヒューンヒューン
 ヒュイーーン
 複雑な起動音と共に白鳥號が再び立ち上がり、白い機体の両目がビカッと光った。

『魔呂はあんまり好きじゃないんだけど……』

 神聖連邦帝国聖帝の王子である紅蓮アルフォードは魔ローダー操縦技術は当然あったが、彼自身が異常に強かった為に敢えて魔呂に乗りたいと思った事は無かった。

『おい、貴様一体どっちだ!?』
『うん僕だよ、白いの確保。もしかしてセレネちゃん心配してくれたの!?』
『うるさい! 早く来いモモデンがいっぱいいっぱいだっ!』

 魔法モニターの中でセレネが牙を出して叫んだ。

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