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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後④ 謎の誘引

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「セレネ、セレネさーーん? 何こんな大変な時にトリップしてるのよぉ?」
「うへへ、うへへ……」

 メランがセレネの肩を揺するが、彼女は突然立ち止まって今にして思えば楽しかった砂緒との長い二人旅の一場面を思い返していた。章にして、そうだっ聖都へ行こう! の超超大型魔ローダー・ヌの話 出発栢森へ、の頃の話である……その時砂緒とセレネはこの地、クラウディア西の浜に居た。


「きゃっやばいやばい地震だ地震、砂緒怖いぃ」

 実は怖がりなセレネが左右を見つつ砂緒に抱き着く。

「セレネ落ち着きなされ、可愛いやつじゃのう」

 キィーキィー。
一同が地鳴りが止むのをじっと待つ中、突然緑色した謎の小さい生物が走って行った……

「兄者な、何ですかな? 今緑色したえのき茸的な物が走って行きましたぞ!!」
兎幸うさこも長い人生あんなの見た事無いよ!!」
「……何だろう? 確かに緑色したえのき茸的な生命体だったね……僕もあんなの見た事ないよ」
「あ、知らない内に地鳴りが止んでる……」
「今の放って置いて良いのでしょうか?」

 伽耶が後ろを振り返りつつ…………


(加耶さん、何かを見て魔物に喰われたか? しかし……状況的に砂緒かあたしに関連があるとしか? じゃあもしかしてアレってあたしらの責任なのか!? ヤベッ言えないよ……)

「おーい、セレネさーん、目覚めのキスするかーっ?」

 メランが調子に乗ってペチペチと頬を叩きまくる。

「ハッとにかく急いで奴を止めよう! フルエレさん急ぎましょう!!」
「急にどした?」
「どうしたのよ、さっきまで物見遊山だったじゃない」

 とっくの昔に夜叛やはんモズ達が走り去って後、ようやく本気になって危機感が芽生えたセレネであった。


 ―クラウディア王国仮宮殿外。

「ちょっとフルエレちゃんは何してるのかな? 早くしないと……」

 強引に姉妹二人を鉢合わせしようとする紅蓮は、なかなか出て来ない雪乃フルエレ女王にやきもきしていた。

(お姉様の事をフルエレちゃんだなんて、紅蓮って見境無しね)
「一刻を争う時だわ! 私はフゥーを抱えて一足先に西の浜に行って、ヌッ様精製に協力して来るよっ! 紅蓮は此処の人達を守ってて! 行こフゥー!」
「はい、お願いぎゃーーーっ」

 美柑はフルエレが遅い事を幸いに、返事があるか無いかの内にフゥーを抱えてビューンと飛んで行った。

「行っちゃったよ……仕方ないフルエレちゃんを守ろう」

 紅蓮の方もこれ幸いにと、宮殿に残されたフルエレの元に向かった。でももちろん美柑ミカの自らの告白の前に、彼女の正体を明かすなんてデリカシーの無い事はしない。


『フルエレさんはヌッ様の到着を待って! 慎重に行動して下さいよっ』
『では行ってまいりますっ!!』

「貴方達こそーっ」

 急いでル・ツー漆黒ノ天と蛇輪へびりんに乗り込んだメランとセレネに、地上から雪乃フルエレ女王とライラが手を振った。その直後にグライダーの様に滑空を始めた鳥形蛇輪の背中に、メランのル・ツーが二回目ながらコツを掴んでピョンと簡単に飛び乗った。もちろんその肩には自慢の巨大な魔砲ライフルを抱えている。

『セレネちょっといっぺん近くでアレを見てみましょう! 思ってたより進行スピードは遅い感じね』
『そうですね、あれがマッハで走って来たらヤバイでしょう』

 等と言いながら、背中のル・ツーが転げ落ちない様に気を付けつつ、鳥形蛇輪は千岐大蛇チマタノカガチの赤い瞳が光る無数の首達のギリギリ上を飛んだ。

 くおおおおおおおおーーーーーんん!
 すると映画十戒とはまるで逆に、それまで進行だけして大人しかったチマタノカガチの首達が、突然蛇輪に向けて寄り集まって食い付いて来ようと大口を開け、それが空振りし無理だと分かると悔しそうに不気味な咆哮を上げた。

『セレネ、凄いわっなんだか面白い、首達メッチャ切れてるわ、ねえセレネ?』

(うっ……やはりカガチの首達があたしらに反応してるよ。蛇輪? それともル・ツー? それとも中に乗ってるあたしら?)

 等とセレネは考えてる内にカガチを通り越して東に向かってしまった。

「くおおおおおおーーーーん」

 が、蛇輪が通り過ぎた瞬間、それまで発生からずっと川上から川下に向かう行動パターンのカガチであったのに、何故か逆走して飛ぶ蛇輪を追い掛けて来た。

『バカなっカガチが逆走しておる??』

 五人の操縦者でぎっちぎちになりながら夜叛モズの桃伝説ももでんせつが到着した。彼は両腕を前に掲げて絶対服従を掛けようとしたが、目の前を無視する様に逆走するカガチの姿に驚いていた。

『あれ? 何なの、あのバケモノ私達を追い掛けて来る?? ねえセレネ?』

(チッメランさんが気付き始めた。誤魔化さなきゃ……)
『よしメランさん、いっちょ自慢の魔砲ライフルで撃ってみない?』
『え、撃っていいんだっけ? よーし、ならば見てなさい』

 メランは肩に担いだままの魔砲ライフルの照準をチマタノカガチに合わせた。

『何をやっておる? まさか撃つつもりか??』

 ドォーーーーン!! ドォーーーン!!
 メランのル・ツーはいきなりオートの魔砲ライフルを連射し、カガチの首二つに次々と命中させた。
 バチャッバチャッ!!
 無残に飛び散るカガチの頭二つ。

『どうだっまいったかっ!!』
『おー凄い凄い』

 メランはガッツポーズをして、セレネは手放し運転で拍手した。

『なんて事を!? 撃つで無いっ!!』

 モズはぎちぎちの操縦席内で腕を振り、他の者の頭に当たった。
 ヒヨンッカカッッ!!

『!?』

 他のカガチの二つの頭の両目が強くビカッと光ったかと思うと、時間差無しで光線が発射されていて、ル・ツーにヒットしていた。
 ギィーーーーーン!! ドォーーーーーーーン!!!

『メランさーーーーーん!?』

 が、セレネが叫びメランが自ら死んだと思った瞬間、実はル・ツーにこっそり同乗していた兎幸が発射と同時に背中から展開していた六枚の魔ローンで光線を難なく跳ね返していた。

「兎幸ちゃんナイス! だけど大丈夫!?」
「うん、実体弾系に比べたら、光線の方はなんだか平気みたいだよ~~」

 実は出発の最初から知っていた癖に、一瞬兎幸の同乗を忘れていたメランが、座席の後ろに立つ彼女に振り返って聞いた。

『兎幸先輩乗ってたのか?』
『うんハロ~~』
『先輩、他に乗ってる人は居ないのか?』
『う、うん、い、居ないよ~~~』

 魔法モニター上の兎幸の目は泳いでいた。

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