上 下
518 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

まおう軍の地に生きる Ⅳ 下 望まぬ出発……

しおりを挟む

 ―まおう軍魔ローダー駐機場。クレウはココナの車椅子を引いて何処かに消え、二人で一機に乗り込む事となった。目の前にはまおう抱悶だもん所有の伝説の最強魔ローダー、ル・スリー白鳥號の真っ白い鎧の姿がそびえ立っている。

「やー、スピネルさんと魔ローダーに向かうと、何だかメドース・リガリァで戦ってた時を思い出しますねえ?」
「そうか?」
「何だか遠い昔の事の様にも思いますよ……」

 言いながらサッワは知り合った女性達の中でも、フゥーとカレンの事を思い出して遠い目をした。

「ふむそうか。では操縦は全て君に任せよう。疲れたなら魔力を融通するから言えば良い」

 スピネルはほぼ興味が無い。

「はい!」

 サッワは喜んで白鳥號に乗り込んだ。これがあればココナ様を完全に元に戻せるのに……等と思いながら操縦桿を握りシステムを起動させる。
 フィーンフィーンフィーン

「その前に少し寄って欲しい場所がある。私のケーキ屋の前の広場に停まって欲しい」
「えっ? いきなり寄り道ですか? ケーキ屋じゃなくて総菜屋ですよね!?」

 意気揚々と最強の伝説魔ローダーを発進させようとして、サッワはいきなり腰を折られた。しかし尊敬するスピネルの言う通り彼の家に向かったのだった……


 フィーーン!!
 白い鳥形のル・スリー白鳥號が人型に戻って突然まおう軍の街の広場に駐機して、人々は騒然としたがスピネルは一切気にしていない。

「いいのかな~~」
「おい居るか?」
「きゃ~~っ貴方っどうしたの魔ローダーに乗っているの?? でも……配送に勤しむ貴方も素敵だけど、やっぱり騎士様の貴方も素敵だわっ」

 弁当屋の娘は目を輝かせて手を組んだ。この二人はいつまでも仲が良く特に喧嘩なども一切していない。

「配送がまだ残っていただろう。この魔呂で一気に済ます」
「ええっそうなの? じゃあ五丁目の五軒隈さんが立派な心柱の家を建てた新築祝いで、発注されたオードブル大が五セット出来てるからお願いねっ」
「おお、オードブル大が五もか? 豪勢だな」
「でも魔呂の大きな指で運べるかしら?」
「いや、配送魔車ごと掴んで持って行くから安心しろエカチェリーナッ」
「嫌っこんな人前で名前を呼ばないで、おべんと屋のお姉さんでいいわ……」

 エカチェリーナは弁当屋に似つかわしく無いと豪奢な名前をまだ気にしていた。二人はチュッとキスをして別れを告げると再び出発した。

「ちゃんと出張だと言いました?」
「いや、配送魔車を戻す時にまた戻って来るぞ」
「は? また戻る気ですか??」


 そして五軒隈さんの新築祝いのオードブル大を配送したのであった。

「オードブル大って凄いですね! 鴨のテリーヌとか肉のパイとか入ってるんですか??」
「バカを言え、オードブルと言えばエビフライにフライドポテトにチキンナゲットと決まっているだろうが」
「はぁ……揚げ物ばっかスね」

 そしてスピネルは配送魔車を家に戻し、軽くエカチェリーナにまおう軍としての出張を告げた。しばし抱き合うと心配顔で彼女は手を振った。サッワは無言でその様子を見守っていた。

『貴方ーっお気をつけてーーーっ!』

 魔法モニター越しにいつまでも手を振り続ける彼女の姿が見えた。

「ふぅとうとう東の地、クラウディアですか……どんな所でしょうねっ?」
「その前に街はずれの公園に行って鳩に餌でもやろう……」
「え?」

 サッワはスピネルの言葉が理解出来なかった。かつて美形の彼はメドース・リガリァの若い女性達の憧れの的であった。それが日々弁当の配送に勤しみ、今度は時間を潰す為に公園で鳩に餌をやる? 遂にこの人も若くして枯れ切ったのかと思った。

(本当に公園に来てしまった……)

 しかしスピネルを尊敬するサッワは言われるまま公園のベンチに来た。スピネルは一心不乱に鳩に弁当の残りをやり続けている。公園の隅っこには鳩に餌を上げないで下さいの看板が立っていたが、まおう軍三魔将にはその様な事は関係無い。

「サッワよ物は相談なのだが、何かのプレイに使う様な妖しげなパピヨンマスクは持ってないか?」
「は?」

 サッワは気付いていない、というか知らない。スピネルこと本名猫名ねこなが、自分の気持ちを裏切り神聖連邦帝国に恭順を示した故郷クラウディア王国に戻り、現国主の弟猫弐矢ねこにゃに近づく事をとことん嫌悪している事に。もちろん会うかどうかは別問題としてもだ……

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...