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III プレ女王国連合の成立

アンジェ玻璃音女王の和平……

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「提案ってナニよ?」

 猫呼クラウディアが腕を組んで聞き返した。

「私達は……雪乃フルエレ女王を殺害し……そして私が新たな同盟の女王に即位して戦闘を即時停止するという作戦を立てていました……」

 その場にいる者が全員固唾を飲んで聞いていた。

「……そんなの上手く行く訳ないじゃない! 実際の戦闘は戦争が好きなセレネって女がやってるのよ、例え私が殺されようが殺されまいが関係無く戦闘は続くわよ」

 猫呼は腕を組んだまま言い返した。

「それは私も分かっていました。けれどこうするしか追い詰められた私達に取れる作戦は無かったのです」

 アンジェ玻璃音女王は両手を組んで訴え続けた。

「それで? 刃を突き付けておいて、言いたい事って何なのよ??」

 猫呼が演じる同盟の女王は多少イラつき始めた様に聞いた。

「和平を……」
「和平? 和平とは??」

 猫呼は重ねて聞いた。

「私達このままでは負けます。ですので同盟の兵を引いて欲しいのです。その代わりもはやメドース・リガリァは今後一切の野望を持たず、もはや二度と兵を出す事は無いと誓います。つまりもう他国を支配する様な大きな野望を持つ事は無い、同盟の単なる一小王国として存続を認めて欲しいのです」

 アンジェ玻璃音女王は切実な顔で訴えた。

「ちょっと……さっきから聞いてたら自分達に都合の良い事ばかり言って……魔ローダーの巨大な刃を突きつけておいて脅す様にして、それで和平? 貴方達此処に来るまでにどれ程の被害を出して来たと思っているの? 七葉後川周辺を征服する時も虐殺を繰り返したそうね? 今もこの平和になったばかりの新ニナルティナを破壊しておいて、突然和平しての一言で済むとでも思っているの??」
「そうだそうだ!」

 正論を突き付ける猫呼にレナード公が同意した。

「その事はいくら謝罪しても許される事とは思っておりません。私の退位に現政権の交代、どの様な罰も受けましょう。ただ古い歴史を持ち、偉大なウェキ玻璃音大王を輩出したメドース・リガリァ王国とその民の暮らしをただ存続させて頂ければ良いのです……お願いします」

 アンジェ玻璃音女王はハッチのぎりぎり端まで歩み出て深々と頭を下げた。

『女王危険です!』
『お止めを!』
『お下がりを』

 シャクシュカ隊の美女達が必死に女王を止めた。

「駄目ね……退位とか政権交代とか都合が良過ぎるわ。貴方も現政権も交代だけじゃセレネが許さないと思うわ。そうね、最低でも数十年とかで牢屋にでも入ってもらわないと」

『言うに事かいて貴様っ! もうスピネル様の代わりに私達がこいつらを斬ります!!』
「止めなさい!!」

 女王は動こうとしたシャクシュカ隊Ⅱの連中を大声で一喝した。

「分かりました……私もあの人もどちらが先に出れるか分かりませんが、どれ程の長い間でも入りましょう」
(あの人?)

 猫呼は狂った軍事国家だと思っていたメドース・リガリァの女王のあまりにも弱腰な態度に拍子抜けした。

「なかなか殊勝な心掛けじゃない、じゃ最後の条件を出すわっ」
「お、おい猫呼ちゃん、相手はあんだけ譲歩してるのに、まだ条件出すのかよ? もういいんじゃねえか?」

 猫呼の横で有未レナード公が、むしろどんどんエスカレートして行く猫呼の袖を引っ張って止める。

「甘い顔しちゃ駄目よ。だってあいつら此処に来るまでに沢山殺しているのよ、絶対無事だとは思うけどアルベルトさんやニィルやイライザ達だってどうなってるか分からないもの。こういう時に少しでも譲歩しちゃダメよ」
「……しっかりしてるな小っちゃくて可愛いのに」

 再び猫呼は前を向いて立ち直した。

「じゃ最後の条件を言うわ。貴方、譲歩側の女王の貴方が魔ローダーに乗って上から和平を言い出すのはおかしいわね。まずは魔ローダーから降りて一人で私達の所まで来なさい。まあ簡単に言えば人質ね。それを誠意として真の和平交渉を始めてあげるわよ!」

 猫呼はビシッと指をさした。

『キサマーーーッッ!! どこまで付け上がるかっ!!』
『私達が叩き斬ってやるわっ!!』
『そこに直れ!! 首を落としてやる』

 シャクシュカ隊の美女達が激高して魔ローダーで迫って来る。

「お止めなさいと言ったでしょう!!」

 先程よりも強く大きな声でアンジェ女王は三機を制止した。

『陛下……何故そこまで』

「分かりました……今スピネルに頼みます」
「いいわ来て」
『女王陛下本当に危険です』
『お願いします。今まで死んで行った将兵の事をお考え下さい』
『何故……』

 美女達が泣き声で女王に叫んでもアンジェ女王の意志は固かった。

「スピネル、私を掌に載せて彼女の、妹さんの横に置いて下さい、早くなさいっ」

 床に座り込み、俯いて何も言わなくなったスピネルの肩を揺すりまくり、彼を無理やり操縦席に座らせると、スピネルは無言で命令に従った。


「……ようこそ同盟の地へ。七華、こっちに来て、話し合いの証人になって頂戴な!」

 目の前にアンジェ玻璃音女王がおずおずと降り立つと、猫呼は七華を大声で呼んだ。

「やれやれ世話の焼ける人々ですわね……行くわよフゥーちゃん」
(あのスピネルさまが……この七華さまに片思いをしていた……信じられない過去)

 フゥーは仙人か賢者の様に思っていたスピネルの意外な過去が信じられなかった。

「……私達の望みは先程言った通り、メド国一国の民の平和さえ保障されれば後は何も要らないの」

 アンジェ女王は跪く勢いで哀願する様に両手を組んで訴えた。

「……貴方もしかして目が?」

 猫呼は近くで対面してようやくこの敵対している国の女王が盲目である事に気付いた。

「そう……生まれた時から。そして今政権のトップに居る男は幼い時から私の目となり支えてくれた者なの。その者と一緒に牢屋にでも何でも入りましょう」

 猫呼は一瞬上を向いた。

「なる程ね……何となく分かったわよ。ラブなのねきっと。よござんしょ貴方の願い考えても良いわ。それに私の秘密も教えて上げましょう。私は本当は同盟の女王でも何でも無いのよ。雪乃フルエレという真の女王が居て、彼女は今安全な場所に避難してるのよ。影武者の私だけど彼女に話を付ける事は出来るわ。それでも良いかしら?」

 猫呼は盲目のアンジェ玻璃音女王に向けて素直な笑顔を向けた。

「ええ、最初から分かっていましたわ。けれど良いのです。あのスピネルの妹さまなら相当な人物のはず。それに今お話ししていて信頼のおける方だと感じました……」

 猫呼も話していてアンジェ玻璃音女王が悪人とは到底思えなかった。きっと色々な歯車が狂って歯止めとなれなかったのだろうと思い始めていた。

「じゃあ……まずは握手しましょう……御手を、分かりますか?」

 猫呼は実際の年齢よりも少し幼く見える可愛い小さい手を出した。

「はい……はい、私見えるんです。魔法で相手のおおよその動きは見えるのです、では御手を……」
「じゃあわたくしが証人となりますわよ。スピナも見ててなさい!」

 アンジェ玻璃音女王の白魚の様な細く長い美しい指先も、おずおずと伸ばされる。そして猫呼の可愛い指先と触れる十数Nセンチの所まで来た。シャルもシャクシュカ隊の美女達もレナード公もメガネも、侍女達も、その場にいる人々は世紀の瞬間を固唾を飲んで見守った。
 
(ああっ貴嶋、やりました……私にこんな大役が果たせるだなんて……生きて来て良かった)

 アンジェ女王は既に沢山の涙を流しており、あとわずか三Nセンチ程で猫呼の指先と触れるまでになっていた……
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