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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 12 私、中空のふわふわした存在じゃない、実体のある一女子ですから

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 ―セレネと砂緒が上空でいちゃつき始めていた頃、地上の魔ローダーのみなさん……

「なんでぇ!? なんで砂緒さん飛んで行っちゃったの? 加勢してくれるんじゃないの?? フルエレさんは乗っているの??」
「戦闘中の油断は命取りですわよっ!」

 ココナツヒメの魔ローダール・ワンが切り掛かる。

「おっと、セレネ様が戻るまでは絶対にここは守る!」

 一般魔導士の乗る青いSRVがメランの黒い稲妻Ⅱを助けに割って入る。
 ガキーーーン!!
巨大な剣と剣が鍔迫り合いを繰り広げる。

「こっちもよ!!」

 さらに体勢を立て直したメランも切り掛かる。ル・ワンは今度はメランに対応する為にSRVから離れた。その直後、ガクッとSRVが巨大な膝を地面に着く。一般操縦魔導士は既に相当疲弊していた。

「青い人、手を貸して!!」
「は?」
「早く!!」

 メランがSRVの手を握ろうとする。

「させませんわよ!!」

 すぐさまル・ワンがメランの黒い稲妻による回復スキルを阻止しようとした。
パパパン
 すっかり忘れ去られていたが、クレウによる魔法ナイフの炸裂攻撃が再開される。

「ちっ本当に何ですのこれは!?」

 激しく鬱陶しい攻撃に、巨大な掌で巨大な顔の前を払うル・ワン

「今です! 回復(弱)!! 次はニ十分後ですから!!」
「かたじけない!!」

 手を繋いだ黒い稲妻ⅡとSRVが白く発光して気力魔力体力が回復した。SRVの操縦者だけでは無くて、メラン自身も同時に回復しているが、これを半日とか連続で繰り返すと、さすがに体への負担がかかり、死んでしまうだろう。

「ちっ、これではキリがありませんわ……」

 ココナツヒメの脳裏に撤退の文字が浮かんだが、目の前のスピネルはともかく、戻らないサッワを放って帰る訳にはいかないと思った……

 同、地上の人々。

「ドタドタしてますが、銀色はどこに行ってしまったのでしょうか?」
「ユティトレッドのセレネ王女が乗っていた魔ローダーも破壊されたままですね」
「どういう状況なのでしょうか?」
「これ以上は近づけませんな」

 南の港への脱出を諦めたフルエレ一行が、魔ローダー達が争う現場のすぐ近くまで戻って来た。口々に不安を呟く人々。

「砂緒はどうしたんだ? セレネは無事なのだろうな?」

 ウェカ王子を背負ったままのイェラが心配そうに言った。

「き、きっと変形して飛んで行ったのよ、きっとそうに違いない……でも、凄く心配になって来た……もう既に負けてたりしてないわよね、砂緒が死んじゃったりしないわよねっ!?」

 半泣きの勢いで逆にイェラに聞き返すフルエレ。

「そんなに心配なら、普段もうちょっと優しくしてやれ……」
「う、うん……帰って来たら優しくする。だから戻って来て欲しい」

 黙って聞いていたアルベルトが、動いた。

「ゴーレム達を撃ち続けている魔戦車の隊員が疲れて来ている。ここにいる人々で魔力の供給出来る人は順番に交代して欲しい」
「あ、はい! それなら私がっ!」

 フルエレがすぐに返事をした。

「いいや、フルエレ君はその防御腕輪で最後の砦としての役割があるので温存したい。他の人々で順番にやって欲しい!」

 月まで行ったフルエレの魔力をいまいち肉眼で見てないアルベルトは、常識的な対応でフルエレに魔力の温存を指示したが、実際にはフルエレが魔戦車に魔力を供給し続けても全く問題は無かった。しかしアルベルト含めて魔戦車隊員が降りて、魔力持ちと順番に交代して主砲をゴーレムに撃ち続ける。人々は魔戦車を先頭に防御陣形を敷いて、自軍魔ローダーの勝利を祈りながら静かに過ごすしか無かった。

「あの……フルエレさん、いいですか? 私ユッマランドの美魅ィみみい王女と申す者です以後見知りおきを」
「は、はい?」

 休憩するフルエレに美魅ィ王女が軽く一礼して話し掛ける。フルエレも一礼で応えた。

「この正体不明の賊は確実にメドース・リガリァの刺客だと思っていますわ。私達の国が一番最初にメドース・リガリァに攻められたから分かるんです。あのグレーの機体は確実に私達の国を侵略した魔ローダーに似ていますもの」
「は、はぁ……」
「今回の襲撃は北部列国が一致団結してメドース・リガリァに対応する事を阻む為の攻撃です。各国要人を一網打尽にして出鼻を挫く事が目的だと思うのです」
「は、はい……」
「でもこの事で各国は危険が他人事では無いと気付いたはずです。私は提案します。今回のこの同盟の結束をもっと高める為に、雪乃フルエレさん、貴方を単なる仲介人だとか見届け人では無くて、旧ニナルティナに変わる北部列国の盟主としての地位に就任して欲しいのです」
「へ? 何でそうなるの?? お断りします。私はただ同盟の見届け人と聞いたから来たのですから」

 フルエレは、この美魅ィという王女が、セレネの様な性質を持ち、自分を巻き込もうとしている事に警戒心を抱いた。

「それでしたら……どうぞその役割はセレネがぴったりだと思います。この同盟はいわばセレネが準備してセレネが作り上げた様な物。私は単なる飾りです。その盟主の役割はやはりセレネにこそ当てはまると思います!」

 フルエレは、はっきりと断言した。

「違うのです。私もこの同盟は裏でユティトレッドが準備している事は理解しているの。だけど、それをそのままセレネ王女が盟主の座に就けば、それこそユティトレッドの為の同盟になってしまう。それでは旧ニナルティナ王国の横暴の再現です。だからこそ貴方を見込んでお願いしているのですわ」
「ちょっと待って下さい、私なんて家出中の行商見習いの喫茶店のウェイトレスです! とてもじゃないですが、同盟の盟主なんてありえないです、無理ですお断りするわ」

 フルエレは必死に手を振って拒否した。

「貴方さっき人間の力で魔ローダーの攻撃を防いでいたわよね? あんな力普通の女の子が持っている訳無いじゃない。それに貴方家出中……と仰っているけど、きっとどこかの、失礼だけど無名の王国の王女ですわよね?」
「……何故?」

 フルエレは警戒して俯く。

「貴方、普通ならただの町娘がこれだけの王国の要人に囲まれていれば、物怖じして平静で居られないわ。それが人々を率いる様に振舞っている、きっと小さい頃からお城で暮らした者でなければ出来ない振る舞いよ」

 実際美魅ィの言う通りだった。現代人の我々の観点で言うと、アニメやまんがの影響で町娘が王子や王に物怖じせず横柄な態度をしたりするのは普通の感覚だが、本来身分の差がきっちりしている世界では、王や王族の前では平民はいつ手討ちになるかと、緊張してまともに目も見れず平伏するというのが普通なのだった。

「ああその子は特別無神経なだけですわ」

 七華が半笑いで言った。美魅ィが七華を無視して話を続ける。

「私は別に平民を差別する訳では無いですが、各国の頑迷な王や貴族にも納得させるには、盟主は最低限どこかの王族であって欲しい物ですわ。きっとフルエレさんは中部小国のどこかの無名国のお姫様、それで充分です。そしてさらに重要な事は、それでいてフルエレさんがどこの国とも利権やしがらみが無く、ふわふわとした中空の存在である……という事なんです。だからこそ盟主の座にぴったりなんです」

 美魅ィの言葉を聞いてフルエレが急にキッとした険しい顔になった。

「私、別に中空の存在? とかふわふわした存在とかじゃありません。ニナルティナに在住している実体のあるいち女子なんですから。なんだかバカにしているわ」

 おっとりして簡単に言いくるめられると思い込んでいたフルエレが、急に言い返して来たのでびっくりする美魅ィ。

「ほおらごらんなさい、その子は可愛い顔して実は相当気が強いのよ。それでいつも相手を騙すの」

 七華も相当気が強くなったのか、ゴーレムに囲まれ、魔ローダーが向こうで激しいバトルを繰り広げる中でフルエレに毒づいた。またも七華を無視して発言する美魅ィ。七華は全く面白く無かった。

「中空の存在がお気に触ったのでしたら取り消します、申し訳ありませんでした。でも貴方の気の強さにますます惚れました。あの圧倒的な魔力の量と、各国の要人や王族にも物怖じしない態度、そして……そして……圧倒的な美しさがあるのです。私は、どうせ仰ぎ見るならば、美しい御方が良いの……」

 そう言って美魅ィは少し赤面して、まるで男性騎士の様に跪くと、フルエレの手を取った。今度は璃凪りながそんな態度の美魅ィを、じとっとした目で睨んだ。

「あ、あの……貴方が勝手に決める事じゃないわ。皆さんの同意が必要な事よ……」

 フルエレは赤面して跪き手を取る美魅ィに戸惑った。

「皆さんはどう思いますか? 戦闘中の最中の今、この場で決を採りませんか?」
「僕はもとより……フルエレ君が良い様に利用されるよりも、ある程度発言権があった方がフルエレ君の為になると思うし、フルエレ君の可能性も発揮されると思っている」
「アルベルトさん……ちょっと……」

 アルベルトが真っ先に応え、フルエレは戸惑った。

「ウェカ王子とやらは寝たままだな。メイドさんにでも聞くか?」
「わ、わたしにそんな発言権はありませんよっ!」

 イェラが言うと、セクシーなメイドさんはブンブンと手を振った。

「私はどちらでも良いですわ。何にしてもあんな瞬間移動する様な敵を防ぐ、ユティトレッドの高度な結界魔法機器が欲しいだけですわ」

 七華が面白く無い! という態度で吐き捨てる様に言って、あらぬ方向を向いた。シィーマ島国とブラザーズバンド島国の使者、伽耶クリソベリル役をしている侍女も当然同意した。

「ここに居る皆で強く反対する者は居なさそうですが?」
「だ、だめよ……そんな事今すぐ決められる事じゃないわ!!」

 それでもフルエレは言い様のない不安感を感じて、そうした物に巻き込まれる事に拒否感を示した。

(一体何をしているの砂緒!!)

 フルエレがそう思った直後だった。
 キィイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーー
現代人の感覚で言う所のジェット航空機の騒音の様な、凄まじい轟音が響いて来た。

「何々!? 何の音?」
「ぎゃーーーーーうるさいですわね!?」
「皆さん何を言っているのか分かりません!!」

 ガッ!!!
 びゅーーーーーーーーーーーーーーん。

「きゃーーーーーーーー!!」
「助けてーーーーー!!」

 空から猛スピードで急降下して来た鳥型に変形していた蛇輪が、一瞬でココナツヒメのル・ワンをかっさらい、そのまま急上昇したのだった。当然人々には目に見える速さでは無かったので、突然騒音の後に凄まじい突風が吹いただけの様に感じた。

「かーーーーーー今度は半透明消えたーーーー!! 訳わからーーーんん!!」

 操縦席のメランも、突然目の前でル・ワンがガッと掴まれて消えた事に戸惑った。その頃、ル・ワンは鳥型蛇輪に首と片腕をガッチリ握られたまま、凄まじいスピードで急上昇していた。クレウを肩にのせたまま……

「ぐ、ぐぐぐぐ、吹っ飛ばされる……ぐわーーーーーーーー」

 当然人力で掴まっていられるスピードでは無かったので、吹っ飛ぶ透明魔法中のクレウ。それをココナツヒメのル・ワンの巨大な掌がぱしっと掴んだ……
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