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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 3 再会麗しい人、野外陽光の下で…前

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『本日は所用により臨時休業させて頂きます。喫茶猫呼ねここ
「あ、あれ何で何で、私何も聞いてない……ちょっと寂しい」

 地下一階、喫茶猫呼の店のドアの張り紙を見て、イライザは戸惑った。猫呼が保安上の理由から秘密にしていたが、今日は遂に北部海峡列国同盟締結式典開催の日となっていた。


「あーーー帰りたい。凄く行きたくない。何で私がこんな事しなきゃいけないのかしら」
「往生際悪すぎ。もう船上の人になってるんだから諦めてよ。アルベルトさんも賛成してるんでしょ!」
「そうなのよね……それが問題なのよね、アルベルトさんに嫌われたくない……ううーっ」

 雪乃フルエレは小島に行くボートの上で頭を抱えた。北部海峡列国同盟締結式典は、一応旧ニナルティナ王国に戦勝の功績から、リュフミュラン北の海が見える神殿で行われる事となった。リュフミュランの顔を立てるという側面があったが、同盟の準備から成立まで全てユティトレッド魔導王国の主導で行われており、会場の準備も設営も全てユティトレッドが取り仕切っていた。

「頭を抱えるくらいなら、今すぐ私と二人で手に手を取って駆け落ちしましょうフルエレ。覚えてますか? そもそもリュフミュラン北の海の見える神殿は、私と貴方で旅行に行くはずだった場所ですよ、あの時の初々しいフルエレはどこに行ったのですか? 私はまだ後ろから抱き締めた感覚を覚えてますよ」

 潮風にフルエレの金髪がなびくのを見ながら砂緒は力説した。

「お断りするわ。忘れて」
「凄い即答だな……」
「テロ対策で本土の神殿から、小島の神殿に会場変更になったけど、一応これを渡しておくわ。リズさんのヤツよりよっぽど高級なんだからね、なるべく使わず新品で返却したいから」
「あーーいつぞやの腕輪ね。お金がうなる程あるならケチケチしなきゃいいのに……」
「テロ対策なら、さらに遠くの無人島の神殿の方が良くないですか?」

 砂緒がリュフミュラン騎士時代に聞いた知識だった。

「詳しいわね。あそこは何か女の人が入っちゃダメらしいから、近い方の島になったのよ」
「女性が全員宝塚みたいに男装してもですか?」
「ダメよ。裸になってみそぎするのよ……」
「フルエレ様、私が常にお側におります。ご安心を……」

 クレウもいた。

「あ、ありがとう。凄く緊張して来たの」
(う、クレウさんも間近で見ると凄く男前ね……はーダメダメまたセレネに嫌われちゃう……)

 いつものメンバーの会話を聞きながら、フルエレは船上で本気で緊張し始めていた。


 小島の神殿の同盟締結式典会場では、総警備責任者としてユティトレッド魔導王国王女のセレネが忙しく駆け回っていた。彼女は式典責任者でありながらも、ユティトレッド代表者として式典出席者でもあった。その為に華麗なドレスを纏っての仕事だった。もともと神秘的な美女であるセレネだが、その華麗なドレスと宝飾品の為に目を奪われない男はいなかった。

「すいませーん、新聞の勧誘です……斬れ。いつもの男はどうした? 今日は風邪で新人の私が来ました……斬れ。すいません、野鳥の会です船が迷い込みました……斬れ。大事な猫が迷い込んでしまって……斬れ。とにかくイレギュラーな出来事全て即断で斬れ。私が(まんがを)読んだ範囲だと、怪しい者を易々と入れてしまって失敗するというパターンが多い。とにかく予定外の者は全て斬れ、いいな!」
「ハッ」

 セレネはドレス姿のまま部下の兵達を厳しく指示した。そのままセレネはチラッと自分の胸元を見た。セレネは凄まじい努力で寄せて上げて、多少の詰め物までしてドレスに見事な胸の谷間を作っていた……

『あ、砂緒いたんかお前』
『おや……どうしたのですか、セレネいつもと雰囲気が違う……その胸が……』
『な、何を見ている……久々の再会だろ……』
『セレネ、王女だったのですね……それに何だかいつもより美しい……目を奪われてしまいます』
『ば、馬鹿だな何言ってるんだ……変なとこじろじろ見るなよ、ホレ耳のこれ、ちゃんと付けてるぞ』
『嗚呼、こんな素晴らしい女性が間近に居たのですね、私はなんと果報者でしょう……』
『やっぱお前は大げさなヤツだなあ……』
「むふっ」
「どうしたのですかセレネ様? 何を笑っておいでですか?」

 鬱が少し改善し、一人で不気味にほくそ笑むセレネを見て部下が訝しく思い聞いた。

「は? お、お前達が慌ただしく動く様を頼もしく見ていたのだ。可能性は低いが同盟に反対する者の中に超高等魔法の瞬間移動を使える者がいるかもしれん、防御結界を怠るな!!」
「ハッ!!」

 セレネは再び厳しい顔に戻った。

「私は時間が許す限り不審点が無いか見て廻る!! 警戒を怠るな!」
「お気をつけて」

 兵に背を向けて歩き出した途端、セレネは再び妄想モードに戻った。


「僕はここに来た以上、全力で依世いよちゃんを探す。メアもちゃんと協力しろよ!」

 メアとはウェカ王子さま誘拐事件を引き起こしてしまった、セクシーなメイドさんの名前だ。ラ・マッロカンプ王国代表としてウェカ王子もこの島に来ていた。

「何故ここに依世さまがいらっしゃると思うのですか? 市場よりも確率低いでしょうに」
「いると言えばいるんだ! お前は僕に引け目あるだろ、四の五の言わずに協力しろ!」
「うわ、そういう事言わない方がかっこ良いですのに!!」
「甘やかすとすぐに付け上がるヤツだな~~お仕置きだな!」
「それは……エッチなお仕置きですかっ!?」
「いや、普通に痛い体罰だ」
「エー」
「そんな事より王子ウチ、いやワシは謎の美魔女剣士R子やで、いやじぇけえのお、そこ間違わんといてや」

 王子の護衛として瑠璃ィるりいキャナリーも変装して付いてきていた。

「瑠璃ィ、お前はもうちょっとキャラをちゃんと確立してから行動しろ、方言があやふや過ぎるだろ、一体何語なんだ?」
「瑠璃ィやない、謎の美魔女剣士R子じゃけ」
「美魔女剣士って本当は一体何歳なんですか? 瑠璃ィ様……」

 その間もウェカ王子は愛しの依世ちゃんを探して、ひたすら辺りをキョロキョロ探し続けた。


 フルエレ一味も既に島に上陸していた。兵達から入場のチェックを厳しく受ける。

「無礼だぞ貴様ら。私達は式典出場者だぞ……」
「申し訳ありません。あくまで保安上の観点から……」

 担当の紳士が謝罪する。

「とにかく砂緒、貴方馬鹿な言動はしないでね」
「おとなしくしててよ、フルエレの晴れの舞台なんだから」
「本当です。砂緒殿は空気が読めず突拍子も無い事をしますからな」
「酷い言われようだぞ……」

 フルエレと猫呼に続き、クレウまでもが便乗して砂緒に注意する。イェラは少し可哀そうだと思った。

「おいちょっと待て! 何でクレウにまで言われなきゃならん?」
「この際だから言いますが、私は貴方が嫌いです。フルエレさまは私が守りますので」
「殺されたいのか?」

 久々に砂緒の手から電気が発せられた。

「ちょっと二人共、いきなり喧嘩してトラブル起こしちゃだめでしょ!!」
「フルエレ……顔がニヤけてるのだ……」
「モテモテで良いわよね」

 猫呼が肩をすくめた。

「あーー良いですよ、私は一人で散策でもしておきますから」
「お願いね、変な事しないで」

 フルエレが念を押した。

「私の事を……馬鹿な小学生と思っていないですか?」

 砂緒はふてくされながら皆がいる場所から離れた。


 砂緒は慌ただしく走り回り警備する兵達を横目に、小島の海が見える神殿を見て廻った。

「フルエレと二人で来たかった物です。とても風光明媚ですね……」

 砂緒は海を見渡そうと少し崖に近寄ってみた。同じように崖から遠くの海を見ている女性が見えた。

「誰だろう……何だか凄く絵になっている……後ろ姿が美しい……」

 美女らしき女性はひたすら遠くの海を見つめている様だった。砂緒は吸い込まれる様に歩いて行った。ある程度近付いた所で砂緒は声を掛けず立ち止まった。

「……あら?」

 潮風に髪をなびかせ海を眺める美女が振り返ると、七華しちかリュフミュラン王女だった……

「……しちか……」

 砂緒は名前を呼ぶと、しばらく声が出なかった。


「父が同盟には当然参加するが、何かが面白く無い! と駄々をこねてしまって……それでわたくしが式典に参加する事になりましたの……でも貴方がいるとは思いませんでしたわ」

 最近ないがしろにされがちな砂緒は、七華がとても美しく異次元の存在に見えた。

「………………すいませんでしたっ!!」

 砂緒は突然土下座をした。

「まあ? 何ですの突然」

 七華は口に手を当てわざとらしく驚いて見せた。

「リュフミュランに居る時、貴方と関係を持ちながら、突然姿を消してしまってすいません。当時は未熟者ゆえ、どうして良いか分からなくなり、フルエレの旅立ちに合わせて突然ぶっちぎって逃走してしまいました。本当に申し訳ない。貴方を傷付けるつもりは無かったのです……」

 砂緒は土下座状態のまま謝罪し続けた。

「傷付ける……何がですの?」

 砂緒は顔を上げた。

「いえ、その逃走した訳で……」
「あーあー、そう言えばティータイムの雑談中に最近見ない何か誰かいましたっけ? それは砂緒さまの事ですか? って侍女に言われて、あーそんなのが居たかしら? って程度でしたわよ」

 砂緒は立ち上がった。

「そ、そうなのですか? 私は……実は恥ずかしながら、ずっと貴方と過ごした甘い時間を思い返してばかり、時折何でも無い物体が七華のシルエットに見えて首を振る事も……また会いたい……そんな風にばかり思っていました」
「……そ、そうなの? ふ、ふ~ん、私はそうでも無かったかしら」
「であれば良かったです。傷付けた訳じゃ無ければ」
「でもフルエレとは……いつまでも幸せに暮らしましたとさ……なんでしょう?」
「え、ええそれはもちろんですとも」

 七華は砂緒の声と表情でそれが嘘だと瞬間的に分かった。七華は妖しい笑顔を浮かべると、スッと砂緒の手を取った。

「ねえ……お城のお庭みたいに、人目を盗んで……林の中に分け入ってみません事?」
「……え? は、はい……そうですね」

 砂緒は指を絡め手を強く握り返し、唾を飲み込んだ。リュフミュラン時代の経験から、七華が言う事が何を意味するのかすぐに諒解した……


「あれは……もしかして砂緒か? 誰なんだよ……あの女は?」

 それを警戒して見回り中のセレネが、遠くから発見してしまっていた……
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