上 下
66 / 569
II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

盲目の女王 7 洞窟ミミズを倒す、 出口…

しおりを挟む
「さっもうとっととゴールしちゃって、鏡を取っちゃいましょっ!」

 美柑みかが気を取り直し、ゴールと書かれた方向に歩き出した。

「お、おい罠が無いか気を付けろよ!」
「ギャーー!!」
「どうしたの美柑ちゃん!?」

 大好きな美柑の悲鳴を聞いて、フェレットがアンジェの胸から飛び出して走って行く。

「うわ、何だこれ……気持ち悪い」

 紅蓮がゴールと書かれた看板通りに進み、通路から最後の部屋に入ると、部屋の奥に巨大なミミズがウネウネと立ち上がって這い廻り、その奥の7本のピラーに支えられた石の屋根のある祭壇の上に、取らなければいけない鏡があった。

「何で私の嫌いなモンスターばかり居るのよ!」
「私には存在しか分からないのですが、気持ち悪い物なのですね」
「つまりこいつらを倒して進まないと駄目って事なのかな?」

 美柑が躊躇無く魔法の杖を掲げた。紅蓮も剣を掲げる。

「よーし! フレイアバースト!!」
「エイチファイヤーブレード!!」

 美柑はいきなり強めの炎系魔法を一匹の巨大ミミズに撃ち放った。紅蓮も振り下ろした大剣から激しい炎が噴き出す。そもそも動きの遅いモンスターだったので、簡単に二つの激しい炎がミミズに直撃する。ギャーーとでも叫ぶ様にミミズがのたうち廻ると、すぐに炭になって倒れた。かなりの威力だった。
 バリンッッ!!

「え、何ですの!?」

突然強い破裂音と共に、鏡の上にある石の屋根を支える七本のピラーの一つが砕け弾け飛ぶ。その拍子に屋根を支える他のピラーに、ミシッというひびが入った様な音が鳴った。

「ヤバイね。ミミズとピラーが連動してるのかな? よく見ると倒したの入れて七匹居る様だね」
「どうすれば良いのかしら?」
「じゃあ凍らせちゃえっ!!」

 美柑が魔法の杖を掲げる。紅蓮は実は炎系の技しか無いので何もしない……

「ドリフトアイス!!」

 美柑が少し強めの氷結系魔法を唱えると、一匹のミミズが一瞬でシャキーンと凍り付いた。

「うはーミミズの氷漬け、気持ち悪いね……」
「もう一匹づつ凍らせるのはめんどくさいから、氷山アイスベルグで全部凍らせちゃいますよっ!」

 美柑が魔法の杖を掲げた直後だった。
 バシンッッ!!
いきなりまた一本のピラーが弾け飛んだ。よっぽど微妙なバランスで屋根が支えられているのか、屋根が見るからにぐらつきだした。屋根が落ちれば鏡は簡単に割れて粉々になりそうだった。

「え、なんでーーーーーっ!?」
「よく見るんだ美柑、ミミズの首って言うのかな、そこに首輪が掛けられている。恐らくそれが念か何かで通じてて壊されても、氷で閉じ込められてもピラーが折れる仕掛けなんだろうね」
「何それーめんどくさいなあ……ミミズの間を抜けて、屋根を凍らせるのは無理っぽいなあ」

 ミミズは魔法で鏡を取る事が出来ない様に、巧にブロックする様にうねって動いている。

「美柑が飛んで取りに行くか、僕がミミズを攻撃しないで横をすり抜けて行くか……」
「や、やだなあ」
「ん、じゃあ僕が静かにすり抜けて行ってみるよ!」
「お、おねがぃ……」

 紅蓮はミミズの行動範囲らしきラインを静かに越えると、ミミズ達を刺激しない様にゆっくりゆっくり歩きだした。

「よーしいいわ紅蓮、その調子よ!」
「紅蓮気を付けて」

 女性二人に応援されて悪い気分じゃない紅蓮。と、油断した直後に突然紅蓮の一番近くのミミズがシャッと毒液的な物を吐き出した。

「わっほーーー!!」

 紅蓮は突然の攻撃にも物凄い反射神経で、変なポーズをしながら避けた。吐かれた毒液は床の敷石を簡単に溶かす様な酸性の物だった。ジューっと湯気が立ち上る。

「きゃーー!! 逃げて!!」

 紅蓮が避けると今度は、避けた先のミミズが毒液を吐き出し、それをさらにアクロバティックな変なポーズで避け続ける。それがラインを越えるまで連続で続いた。

「はぁはぁ死ぬかと思ったよ」
「ご無事でよかったです!」

 アンジェ女王が紅蓮に抱き着く。

「ちょっとー!」
「あ、ごめんなさい」

 慌てて離れるアンジェ女王。

「美柑がダンジョンの低い屋根を、ミミズに当たらずに鏡まで飛んで行くのは難しそうだね、どうすれば良いのだろうか」
「めんどくさい敵ね~もう! フェレットに毒液浴びさせながら進ませようか?」
「……やめなさい、骨にする気か?」
「あ、あの私先程から気になっていたのですが……」
「何何??」
「あのミミズですか? その敵の動きが私には良く分かるんです。多分そのミミズ達は私と同じ様に音と魔法で敵の位置を把握してるのだと思うの」
「ほうほう」
「ですから、私がミミズを一匹づつ呼び寄せて、それを美柑ちゃんがテクニカルに頭と胴体を凍らせて、紅蓮さんが剣で首輪の部分だけ輪切りにして、首輪を奪って行けば良いと思うの……」
「うっは! めんどくさい作業だね。でもそれが一番効率的かもしれないね」
「私に良い考えがありますの」

 アンジェ女王は少年からもらった笛を取り出すと、ミミズの行動範囲のラインに入る。

「危ないアンジェ!!」

 アンジェ女王は恐れる事無く、毒液射程ギリギリ外から、一番手前のミミズに向けて笛を吹き始めた。一匹のミミズが笛の音に釣られてズズズっと進んで来る。アンジェは後ろ歩きで毒液の射程から外れながら後ろに進む。ミミズが行動ラインぎりぎりまで来た。

「来たっ! フロスト!! ドリフトアイス!!」

 美柑が丁度首輪部分を残す様にミミズを凍らせる。すかさず紅蓮が大剣でシャシャッと首を輪切りにした。

「うっわシャーベット状になってて気持ちわるいっ!」

 紅蓮がシャリッとした巨大ミミズの輪切りの胴体から首輪を一つ奪いさった。

「では、残りのミミズも全て倒していきましょう!」

 急に自信のついたアンジェ女王が仕切り始めた。


「地獄……結局首輪を奪う役の僕が一番の地獄だったよ」

 紅蓮の腕にはジャラジャラと残りの首輪が全て揃った。

「では、皆さん参りましょう!」
「は~~い!!」

 三人揃って鏡の置かれた台座に向かう。

「では、アンジェが鏡を取りなよ!」
「え、良いのでしょうか?」
「鏡を取るアイディアはアンジェが思い付いたんだしねっ!」
「で、では……取っちゃいますね……ここかしら」

 アンジェが屈んでゆっくりと手を伸ばし、鏡を掴もうとした。
 ビュンッ!!
突然屋根の中心から、鋭い金属の大きなタガネが飛び出して来た。紅蓮は恐るべき動体視力で落ちて来た直後に既にアンジェを抱き抱え、一緒に倒れこんでタガネの攻撃を避けた。

「あっぶな~~い! 何よ……って鏡がっ!!」
「え? どうしたのですか?」
「こりゃ酷い……折角苦労して取り掛けだった鏡が粉々だよ……なんだよこれ」
「見て紅蓮!! 台座の後ろに無造作に報酬金が置いてあるよ」
「凄いね、高価値の金のコインで、一人三百万Nゴールドはありそうだ」

 紅蓮が持ち上げずに剣の先で袋を破く。

「何か仕掛けとか無いでしょうね? てか手渡ししようよ……なんて無礼なのよっ!」
「凄いお、重いですわねっ!」

 アンジェ女王が細腕で持ち上げてしまう。

「うわーお! アンジェ駄目、置いて置いて!!」

 ガガガガガガ……
何かが開く音がして周囲を見ると、祭壇のさらに奥の壁が開いて通路が現れた。太陽の光が差し込んでいた。

「出口っぽいね。親切設計なのかな?」
「やたー! いちいち来た道を戻らなくて良いのね!!」
「そういう事なのですね……貴嶋……これが貴方の意志……」

 アンジェ女王は二人に見えない所で悲しい顔をした。そうして割れた鏡の欠片を一つ拾うとポシェットにそっと入れた。


 通路に向かうと本当に出口だった。外に出ると城どころか街の中の、目立たない水路に掛かる橋の下から外に出る様になっていた。

「アンジェ……僕が君をパーティーメンバーだから等と言って、無理に外に出したのには理由があるんだ……」
(うわ、来たー)

 美柑はドキッとした。

「な、何でしょう……」
「僕の国には僕に恐怖政治を敷く姉上が居てね……なんだか君にイメージが重なってしまうんだ……」
「え?」
(ホッそんな事かーっ!)

 美柑は一瞬で笑顔になった。

「その姉上にはシューネという、目付きの悪い銀髪の陰険な幼馴染が居てね、僕は苦手なんだけど姉上とシューネは良く気が合って、密かに宮殿を抜け出して街に出たりしてたみたいなんだ。その事を嬉しそうに時々話すんだよ」
「まあ……」
「……それで、その同じ事をしたらアンジェは喜んでくれるかなって、ちょっと余計な事を考えてしまったんだ」
(や、優しいヤツじゃない……)

 美柑は我が事の様に嬉しかった。

「嬉しかったです……こんな楽しい事は久しぶり」
「あ、あのさ……お城の中みたいに快適とはいかないと思うし、介助の方も完璧に出来るとは思わないけど、前みたいな事は御免だけどね、良かったらさこれからも一緒に旅しないかな? あんな暗い城の中に戻っても仕方ないよ!」
「そうだよ! 二人よりも三人の方が楽しいかも! 私も色々手を引いて助けるからね!」
「紅蓮……美柑ちゃん……」

 アンジェ女王は涙が滲むくらいに嬉しかった。不自由な事が多いかもしれないけど、何者にも囚われない暮らしがあるかもしれない、確かに自分のこれまでには無い物だった……憧れもあった。

「私は………………」

 アンジェ女王は鏡の欠片が入ったポシェットを軽く握ると、城が存在するだろう上を眺めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~

ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

処理中です...