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015. 入り込んだソレ・・・

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 「熊だぁーーー!!熊が出たぞーーーっ!!!」
 既に日が落ちて辺りは暗闇に染まった。
 集落の人達にも聞こえるように大きな声で叫んだ。
 灯りが付いた家の中から住人が何事だと顔を出す。
 「どうしたんだ?西岡さん」
 騒ぎを聞きつけ集落の人達がゾロゾロと集まって来た。
 「た、大変だ!俺達、山にいたら熊に襲われて逃げてきたんだ!!」
 集落の人達はザワついた。
 西岡鉄也の肩を借りて腰を痛めた堀重文も西岡さんに続いた。
 「俺は大丈夫だ、樹が・・・アイツが!!」
 「樹くん?彼がどうしたんだ?!」
 何があったと問われ堀さんが答えた。
 「囮になって俺達を逃がしたんだ!!頼む、誰か助けに行って来れ!!」
 「た、大変だ。急いで助けに行かなければ」
 村長の、日野さんの指示により女性や子供達は安全の為に一ヶ所に集められた。
 「嫌だわ~熊ですって~」
 「最近は出て来なかったのに~」
 ヒソヒソと女性陣はささやき出した。
 集まった男性陣は西岡鉄也の案内で樹の捜索を始めた。
 (朝になっても見つからなかったら、麓にいる自衛隊に頼むしかない)
 「樹、無事でいてくれ!!」
 西岡鉄也は集落の男性陣を引き連れ田中樹の救助に向かった。


 その頃、俺は・・・。
 「こんなことなら猟銃を持って来るんだった」
 握った鉈を見つめ呟いた。武器としては心許ない。

 ガン、ガン、ガンッ!!

 「!!?」

 バリケードを張った入口が叩かれる音がする。
 (もう、俺の居場所がバレたのか!!)
 「クソ、どうするば・・・」
 バリケードが破られるのも時間の問題だった。

 ドン、ドン、ドンッ!!

 高鳴る心臓、恐怖心からか鉈を持つ手が震えた。

 ドン、ドン・・・・・・ガシャーーーッ!!

 ソレが部屋に入って来た。
 直ぐに距離を詰められ捕まってしまった。
 鉈で攻撃してみたが身体の様な部分には大して傷は付かなかった。ソレの手と思われる部位が俺の首を掴み、見下ろす形でソレの全体像を見た。
 やはり人の姿に似たに見える。
 俺の首を締める部位に力が入った。
 (このままじゃあマズイ!!)
 締め落とされたら一貫の終わりだとさとり、持っていた鉈の持ち手部分の角を使って首を締めいる部位に攻撃し外そうと試みた。
 「クソ!!」

 ガン、ガン、ガンッ!!
 何度も攻撃した。
 ガン、ガン、ガン・・・。

 しかし、俺の首を締めるモノは外れるコトは無く締める力が増すばかりだった。
 (マズイ・・・息が・・・)

 意識が薄れていくのが分かった。
 (俺は・・・これで終わりなのか?)

 
 薄れゆく意識の中で脳裏に映像が写し出された。
 
 写ったモノは何故か全て両親だった。
 俺は歯を喰いしばり自分に問う。
 何故、最後に見た映像が両親だったのか。長年苦しめて来た元凶の顔を思い出したのかを。
 両親の顔を思い出し俺の中で沸々と怒りがこみ上げてきた。鉈を握る手に力が入る。
 (・・・ふ・・・ふざけるなぁ!!!)

 鉈を持つ手を大きく下へ降りかぶった。
 力を振り絞り何度も何度も、首を拘束している部位に攻撃を続けた。

 (やっと自由になったのに、今になって何故思い出したんだ!)

 何故、俺の人生を奪った奴等のコトを思い出したんだと親に対して自分自身に対しても許せずにはいられなかった。

 (沸き上がる怒りに何故?何故、思い出したんだ!!)

 "憤怒いかり"それだけが俺の中で膨れ膨張ぼうちょうしていった。

 何十回目になるか首の拘束が解かれた。
 拘束していたモノを剥がし俺はソレの距離を詰め渾身の力で切りつけた。
 「ウォォーーーッ!!!」

 降り上げた鉈で上から下まで一直線に真っ二つに切り裂き刃の部分が途中で折れ、切った断面からは赤いモノが飛び散り全身に浴びた。
 「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 膨れた怒りは炎の様に一気に燃え上がった途端小さく縮小していき身体の力が抜け意識が失くなり、その場に膝から崩れ落ち眠りについた。
 (身体が・・・動かない・・・意識が・・・)

 ブツリと音を立て意識が切れた。


 山の中を集落の人達と共に走り回った。
 「そっちはどうだ?」
 「こっちにぁいねえ、あっちはどうだ?」
 「他ん所も探すぞ!!」
 山や雑草林を掻き分け普段は余り人が入らない深い所まで広い周辺を捜索していた。集落の人による山狩りが行われていた。
 山狩りから一時間程で捜索していた一人が一軒の空き地が破壊されているのを発見し他の人達を呼び中を調べた処、意識がなく倒れているのを発見した。

 「樹っ、おい起きろっ!!」
 西岡鉄也は倒れた俺の身体を揺さぶるが起きない。
 「外に運び出す。手伝ってくれ!」
 数人の男達の手によって俺の身体は運び出された。

 「おっ、おい。何だアレ!!?」
 持っていた懐中電灯の光がソレを照らした。
 「ヒャァァァーーーッ!!!」

 驚き腰を抜かし、その場に尻餅をついた。人の姿形によく似たソレは上から下まで真っ二つになった状態で集落の人達に発見される事となった。

 「にっ、人間かぁ?」
 「んなわきゃあねーべよ!」
 「そんじゃあ、こりゃあ~一体何なんだ?!」

 年配の男性達はワラワラと集まり恐怖と好奇心で手近にあった木の棒っきれで、距離を取りながらつついてみたがソレは動かなかった。
 その様子を見ていた西岡鉄也は言った。
 「気になるなら自衛隊に聞けば良いんじゃないか?今、麓の旅館にいるんだろ?」
 「そうだな、聞いてみっか!」
 「んだが、どうやって・・・」
 運ぶ為の手段が思い付かず四苦八苦していると西岡鉄也が近寄り動かないコトを蹴って確認、持って来ていた太い手綱で二つになったソレを手際良く縛っていった。
 「誰か引っ張るの手伝ってくれ」
 集落の年配男性達は一歩後退し恐れて近寄るのを拒んだ。
 「大丈夫だよ、息してねぇーから」
 渋々促されて手伝った。
 ズルズルと地面に擦りながら人力によって運び出された。

 "ソレ"は一体何なんだ?!!
 
 この一件を翌朝、集落の人達の口から事の詳細が話された。
 しかし、この一件は自衛隊の人達に戦慄が走るコトとなった。
 責任者である真壁さんは話しをきいた途端顔色がかわった。集落に現れたという"ソレ"を見て言葉を失なった。
 「まさか、こんな所にまで・・・」
 真壁さんは手で自分の顔を覆った。
 「なんて事だ・・・」
 「やっぱり、何か知っているんだな!」
 西岡鉄也は真壁さんに詰め寄る。
 「隠してないで話せよ!!」
 「・・・」
 青い顔で真壁さんは俯いた。
 「何も話さないなら、アンタ達をこの村に置いておく事は出来ない!」
 それは村からの追放という事だった。はっきりと言った訳ではないが西岡鉄也の表情からは口に出さ無くても伺えた。
 「俺達に、此処から出ていけってコトか?!」
 真壁の部下が口にした。
 「信用の無い者を置いておくのは危険だ!」
 「な、なんだと?!!」
 西岡鉄也に掴みかかる勢いで前に出たが真壁さんが静止させた。
 「やめろ、五十嵐!!」
 「しかし、隊長!」
 「いいんだ・・・」
 真壁さんは村長の日野と西岡鉄也に向き直り真剣な面持ちで答えた。
 「お話しします。何があったのか・・・」
 
 
 
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