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012. ラーメンは正義!!

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 麓と集落の人達は思い思い自分達が作った野菜や肉等を旅館に持ち寄った。
 「皆さん、ありがとうございます」
 女将さんが皆に頭を下げる。俺も持って来た野菜を女将さんに渡した。
 
 「樹ーーーっ!」
 声のする方へ向くと手を振って駆け寄って来る人物がいた。
 「千尋ちゃん!」
 麓のラーメン屋の看板娘の千尋だった。
 「ちゃんなんてヤメテよ、もう私も二十歳はたちだよ!」
 子供扱いはやめてとプリプリ怒っているが、その顔にはまだ幼さの名残りが残っている。
 人生二十五年、根暗で口下手な自分に女性との会話なんて無理だ!彼女を直視出来ない!!
 「二十歳でも子供だよ!」
 強がって言ってはみたものの女の子との会話なんて何年ぶりだろう。
 「一人で来たのか?」
 「お父さんも一緒よ」
 口を尖らせムスっとしながら答えた。
 千尋の父親・・・新井吉実、代々続くラーメン屋の店主で移住して直ぐに村長と一緒に挨拶回りをしていた時に娘の千尋と喋っていると睨まれたコトがあった。それ以来、怖くて近よらないように気おつけていた。
 父親と鉢合わせしたらマズイと思い、その場を逃げようとした。
 「ねぇ、お昼まだでしょう?」
 腕を掴みグイグイ距離を詰めてきた。
 「ウチで食べていきなよ!ね、ね、」
 胸が当たって・・・イヤ、近いよ!!
 こんな所、見られたら○される!!
 「コロもウチでご飯食べようね~」
 ご飯の言葉を聞きキリッとした顔で背筋を伸ばし始めた。顔には"ゴチになります!"と書かれている、舌をペロペロさせている。
 「コロ助、お前!」
 「久しぶりだな樹くん!」
 女性よりも大きな手の平が俺の肩にドンと落ちてきた。
 「!!?」
 ヒィィーーーっ!!!終わった!!
 肩を掴んだのは新井吉実、千尋の父親だった。
 「お、お久しぶり・・・です、新井さん」
 笑顔で対応しようと頑張るが顔の筋肉が強ばって引きつってしまう。
 「ウチの娘に何か?!!」
 (いきなりですかぁーーー?!!)
 顔をヒクヒクさせながら笑顔で答えた。
 「お、お昼を誘われた、だけです」
 新井さんの圧が怖すぎて口が上手く回らない。
 「お昼はウチで食べようって誘っただけよ、お父さん!」
 はい、そうです!やましいコトなんてありません!!
 「じゃ、じゃあ自分はこれで・・・」
 その場から逃げようとしたが、そのまま新井家に引っ張られてしまった。
 「何だよ、ウチのラーメンが食べたかったんなら早く言えよ。ご馳走してやるからよ~」
 ニタリと笑い肩に置いた手に力が入るのを感じた。
 ヒィィーーーっ!!誰か助けてーーーっ!!
 
 新井家に到着すると頼んでもないのにラーメンが目の前に現れた。
 湯気が立ち登り、香りが鼻を刺激する。大きなチャーシューとメンマにネギが添えられて、生唾をゴクリと飲んでしまった。
 「冷めない内に食いな」
 「い、頂きます」
 恐る恐る麺をすすると口の中に味が広がってきた。
 ウマイ!ウマすぎて箸が止まらない!!
 器の中にあった具を全て完食してしまった。
 「ご馳走様でした」
 ラーメン、久しぶりに満たされた感が身体中を駆け巡る。コロ助も器を綺麗に嘗めて完食した。
 「久しぶりだったから手が止まらなかったよ」
 「美味しかったでしょ?父さんが仕込んだんだもん!」
 うん、美味しかった。流石、職人さん!

 「それにしても、場々さんの所は人数が急に増えちまったなぁ~」
 「やっぱり、マズかったですかね。お願いしたのは?」
 俯き頬をかいた。
 急に大所帯となってしまった場々家、紹介してしまった自分としては申し訳ないと思っている。
 「それに、今後どうするかなぁ~」
 新井さんが腕を組んで悩んでいた。
 「トンネル潰されたんじゃあ仕入れが難しくなるなぁ~」 
 「物がないんじゃあ仕込みもできなくなちゃう」
 「何か大事になっちゃいましたね・・・」
 後ろから両手で肩をバンと掴む千尋は落ち込んでいた俺を励ます様に渇を入れた。
 「落ち込んでても良い考えがなんて浮かばないよ!臨機応変でしょ!」
 「そ、そうですね」
 ラーメンをご馳走になり会計を済ませ店を出た。
 「ご馳走になりました」

 まさか新井さん家でお昼、ご馳走になるとは・・・
 帰りもリアカーを引き坂道を登る。リアカーのタイヤが砂利や石を踏みつけカタカタ音を立て、家まで引いて行く。
 「・・・」
 空になったリアカーに乗り込みあくびをしてまったりするコロ助は大変なご主人を前にしても動じない。
 お腹見せてへそ天ポーズでリラックスする。
 (コロ助は俺が熊や猪に襲われても先に逃げるタイプだな)
 何とか家に着きリアカーを倉庫に仕舞うと座布団を枕に横になって動かなくなった。
 (嗚呼~身体中バッキバキだぁ・・・動けない)
 どれくらい横になってたのか辺りは日が落ち夕焼け刻となっていた。
 「いけねぇ!寝ちゃってた!!」
 身体を起こそうとすると腹の辺りから重みを感じた。重いと思ったらコロ助だった。俺をクッション代わりにうつ伏せの状態で眠っていた。
 「オイ、起きないとイタズラするぞ~」
 撫でて起こすが起きる気配がない。
 「いいんだなぁ~」
 「・・・」
 顔の肉を引っ張ったり、揉んだり考えられるイタズラを試みたが全く起きなかった。鼻の所に大好きなオヤツを近づけると両目をカッと見開き、そのままオヤツにかぶり付いた。
 「お前、起きてたんじゃないか!犬なのに狸寝入りかよ!!」
 コロ助からオヤツを取り上げた。
 「ガウガウっ!!」
 「ダメだ、コレ食べたら晩ご飯食べれなくなるだろ!」
 晩ご飯=野菜山盛りご飯だと思ったコロ助はオヤツを奪取すべく引き下がらなかった。コロ助と一悶着ひともんちゃくしていると玄関の戸が開く音がした。
 「すいません、どなたかいらっしゃいますか?」
 女性の声だか聞き覚えがある声だった。
 「はい!」
 出てみると、そこにいたのは自衛隊の女性隊員の桃山だった。
 「お、遅くに訪ねてすいません」
 ペコリと頭を下げた。
 「どうかされたんですか?!何か問題でも?」
 両手を前にブンブン振った。
 「ち、違います!ただその・・・お礼に伺っただけで!!」
 お礼?何か、お礼を言われる様なコトをしたかな?
 「今朝、旅館の方に沢山のお野菜やお肉を届いたと女将さんから聞きまして・・・それで・・・」
 何とわざわざ集落まで来てお礼を言いに来たようだ。
 「あ、ありがとうございます!!」
 深々と頭を下げお礼を述べた。
 「いや~、お礼なんて素人が作った物なので大した物じゃあ、ありませんから」
 「イエ、旅館の紹介といい助けて頂いてばかりで・・・」
 イエイエ、そんな~が続き少しの間が空いた。
 「・・・」
 女性隊員は何やら言いたげにしている。
 「皆さんやっぱり、怒ってますよね?」
 怒る?ああ、もしかしてトンネル爆発したコトか?
 「まぁ~できるコトなら先に相談して欲しかったです」
 「そ、そうですよね・・・本当にすいません!」
 シュンとした顔でまた、謝ってきた。
 「ま、まぁ理由があって、そうせざるおえなかったんじゃあ仕方無いと思います」
 桃山隊員の謝罪を止めた。
 「麓も集落の人も口が悪いですが根は良い人達ですので次の説明会も説明をしてあげて下さい、皆も急なコトで驚いている筈ですから!」
 桃山の目が潤んだ。きっと怒られると思って身構えてたんだろう。
 桃山隊員はまた頭を下げ家を出て次のお宅へ向かった。お礼行脚ならぬ謝罪行脚周りをしているんだろう。
 事情が事情なだけ仕方無い所もあるなと思い女性隊員の背中を見送った。

 ただ、春日部家には気おつけて下さい!と心の中で祈った。
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