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10. 物流がストップ?!勘弁して下さい。

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 夕方に麓の旅館に泊まっている自衛隊の人との話しをする事が集落の中で決まった少し前、時間を遡る。
 麓のお店で働いていた一人の男性がバイクを走らせ隣の町まで遊びに行こうとすると隣町までの一本道が塞がっているのを発見した。
 「おい、嘘だろ?!」
 隣町へ行くには、このトンネルの一本道を通らなければ行けない。そのトンネルが崩れ瓦礫が道を塞ぐ状態となっていた。
 持っていた携帯で隣町の警察署へ連絡をするが繋がらない。何度掛けてもコール音が聞こえてこないのだ。
 バイクを方向転換し来た道を戻り異変を伝えに麓の交番へ向かった。

 
 それから時間は流れ、夕方に山奥の集落から麓の旅館へと一行は車を走らせ向かった。女将さんに広間へ通され自衛隊の真壁さんとその部下の方達から目を疑う様な映像を見せられる事となった。

 「もう一度言いますが、これは造り物ではありません」
  そう言い張る真壁さんに俺は映像を見た瞬間思ってしまった。
 この映像はまるで、"ゾンビ映画"の様だと。集落の人達もそう思ったのか、少し笑いなが言った。
 「何の冗談ですか?私達にSF映画を見せて」
 しかし、真壁さんの表情は変わらなかった。
 「冗談な訳ないだろ!!俺達はっ・・・」
 部下の一人が声をあらげて掴み掛かる勢いで怒鳴りだしたが真壁さんが静止させた。
 「部下が取り乱しました、話しを続けます」
 真壁さんは話しを続けた。
 「この映像は✕✕県✕✕市にいた私の同僚が撮影した物です」
 ✕✕県・・・集落のある県から離れた別の県で撮影された物のようだが、一言で言ってしまえばゾンビ映画と言っても可笑しくない内容だった。
 辺りから爆発音が聞こえ建物から黒煙と炎が登り、悲鳴をあげて逃げる人。逃げる人を追いかけ噛み付く人。噛みつかれた人は血だらけになっても助けを呼び動かなくなった。
 撮影した映像は数分映ったり画面が消えたりしたが最後は画面が暗くなり映らなくなった。
 「撮影した同僚とは連絡が取れていません。安否は不明です」
 俺は真壁さんに尋ねてみた。
 「この映像は造り物ではないってコトは実際におきた出来事という事ですよね?!」
 真壁さんはゆっくり頷いた。
 「何度でも言いますが、この映像は本物で実際におきた事を撮影したモノです」
 強い口調ではっきりと真壁さんは言った。
 女性陣が、この場にいなくて良かった。こんな映像見せたらきっと卒倒するだろう。
 広間の中は変に静まり返る。今度は西岡鉄也が尋ねた。
 「じゃあ、あんた達がこんな何も無い田舎まで移動して来たのは今見た映像が理由だって言うのかよ?」
 「そうです。私も部下達も、一緒に避難していた一般の人も含めて同じモノを見て体験し此処まで逃げて来たました」
 真壁さんの顔色が悪くなる。
 「そんな、あり得ない。映画やアニメじゃあるまいし・・・」
 集落の人達からすれば、そんな突拍子とっぴょうしも無い話しを直ぐに信じる人はいなかった。造り話しにしては手が混んでいると思う人もいるだろう。
 場の空気ぐ冷たくなった。
 「そんな造り話し、信じる訳無いだろ!」
 フン!と鼻で笑う人物がいた。
 何故か、ついてきた集落の先住組トラブルメーカーの春日部拓真だった。
 腕を組み大きな態度で今までの話しを鼻で笑い始めた。彼の言葉で場が氷ついた。
 「国の税金で飯食ってる公務員様が仕事しないで遊んでて、良いご身分だなぁ~?」
 (この人もいたのか?!流石トラブルメーカー。相手が誰であろうと挑発しに行くその根性は素晴らしい!)なんて思ってしまったのは黙っておこう。
 春日部拓真の言葉を聞いて黙って無かったのは真壁さんの部下達だった。
 「話しを聞いていたのか?!!我々は避難して来たと言っただろう!」
 それでも辞めず挑発を続けた春日部拓真だった。
 あんな映像見て信じるのは低能な奴だけだが、俺は騙されないぞと鼻の穴を広げて口角を吊り上げてニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべ姿勢を崩さなかった。
 春日部拓真の横柄な態度に真壁さんの部下は皆、怒りにワナワナと震えていた。
 集落の人達もマズイと思い止めに入ったが、それでも止まらず春日部拓真節は続いた。
 「黙って聞いていれば、何も知らないくせに!!」
 真壁さんの部下の顔から青筋が走るのが見えた。
 身振り手振りをまじえて動きが大きくなっていく。
 広間が修羅場となるのも時間の問題だった。

 「あのぉ~お取り込み中、すいません」
 旅館の女将さんが広間のふすまをあけて入って来た。
 女将さんのお陰で場の空気が変わった。
 (女将さんナイスです)
 「どうしたんだ女将?まだ話し中だから後に・・・」
 集落の村長日野が話すのを割って入る女将さん。
 「実は今、受付けに駐在所の方が来られていて話しがしたいと言っていまして。」
 女将さんは広間に通して良いかの確認を取りにきたのだ。
 「駐在って、ぜんさんか?」
 やや置いてけぼりで目を点にする真壁さんやその部下達は何故、今話しを中断されたのか分からなかった。
 「すいませんお話し中、駐在所に勤務している広岡禅太郎です」
 年配男性で被っていた帽子を取りペコリとお辞儀し、ツルツル頭に帽子を深く被り直した。 
 「集落の方へ行こうとしたら皆さんが此方に集まっていらっしゃると聞いて来ましたが、皆さん如何いかがしたんですか?」
 少しおっとりとした口調で広間に集まっている全員に尋ねた。
 「おや、そちらは自衛隊の方ですか?」
 駐在所の広岡刑事は事態が理解出来ずに困惑した。
 「禅さんの方こそ何かあったのかい?」
 集落の村長日野さんが広岡刑事に尋ねた。
 「いやねぇ~、トンネルが崩れてるって知らせてくれた人がいてねぇ」
 集落の人達はザワついた。
 「トンネルって、隣町に出るトンネルの事かい?」
 「そうなんですよ。自分も先程確認しましてね、崩れていて通れる状態ではなかったんですよ」
 集落の人達は駐在所の広岡刑事に掴み掛かる勢いで何故、トンネルが崩れたのか事の詳細を聞きくべく詰め寄る。
 「あの~トンネルが崩れると何か困るんですか?」
 女性隊員の桃山が集落の人達に聞いてみたがコレがまずかった。
 「困るに決まっているだろ!!」
 当たり前だろ!と言わんばかりに声を張り上げ女性隊員桃山に怒鳴った。いきなり怒鳴られビクッと肩が動き涙目になった。殴り掛かる勢いだった為、俺と西岡さん二人で自衛隊と集落の人達の間に入った。
 「ど、どういう事でしょう?」
 集落の人達の剣幕に驚きながら真壁さんが聞いてきたので俺が説明した。
 「崩れたトンネルは、この集落と麓にとって生活していくには必要なライフラインで生命線だったんです」
 日用品等、必要な物質・物流を運ぶトラックが通るために使う道であった事を説明した。
 「トンネル以外にも他の道はあるにはあるが殆ど使ってはいない」
 トンネルの道が使えなければ生活以外にも色々と支障をきたす事になると西岡鉄也が説明した。物質・物流が届かなくなっただけではなく、麓と集落は半孤立化してしまったのだと説明を続けた。
 説明を受け自分達はとんでもない事をしてしまったと気づいた時には遅かった。
 "安全"を考えて取った行動が麓と集落に住む人達の生活を逆におびやかす形となってしまったのだ。
 「申し訳ありません!知らなかった事とはいえ皆さんに多大なご迷惑をお掛けしました」
 真壁さんは深々と頭を下げ謝罪した。
 しかし、反って麓と集落の人達の怒りを再燃させてしまった。住民達の怒りの矛先は完全に自衛隊の隊員達に向けられた。
 
 
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