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序幕

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 俺は田中いつき、昨日までは高校生だった。
 現在、某刑務所施設に前々からお世話になっていた弁護士の南原さん同席で部屋の一室に用意されたパイプ椅子に座りアクリル版越しで向こう側に座っている人物と面会をしている。
 向こう側に座っている人物は眉間にシワを寄せながら吊り上げた目で睨みを効かせていた。俺の顔を見るなり鼻息を荒くし顔を真っ赤にしている。
 「よくも俺を裏切ったな!!こんな事してただで済むと思うなよっ!!!」と机をダンダンと叩き興奮している。
 割って入る様に弁護士の南原さんが話をした。
 「ご自分がした事を棚に上げて何を言っているんです!!」
 南原さんをキッと睨み向こう側の人物は口を開いた。
 「俺は悪くない間違ってない、悪いのは全部コイツの生だ!!」そう言って俺に指をさし、さらに興奮している。
 ハァ~と深いため息をついた。
 ダメだなこの人は。少しは反省して謝罪の言葉なり口にするかと思ったけど、やはりこの人は何も変わってない。面会に来た事を心底後悔した。
 「今日、俺が此処へ来たのはアンタの罵詈雑言を聞くためじゃない」
 そう・・・今日、面会へ来たのは挨拶をしに来たのだ。最後の挨拶をね。
 向こう側の人物に俺は無表情で見つめ淡々と目的を告げる。
 「さよならを告げに来たんだよ・・・父さん」
 向こう側にいた人物は俺の実の父親なのだ。
 「昨日、高校を卒業した。だから此処へはもう来ない」
 わざわざ、報告をしたのは仮にも親だった人。一応育てて貰ったので義理堅く足を運び報告をしに来たと言う訳だ。立ち上がりパイプ椅子を戻し背中を向けた俺に父親は立ち上がり怒りをあらわにした。
 前のめりになりアクリル版を叩く音が聞こえたが振り向く事なく入り口へ歩いていった。
 「待てっ!!何処に行く、逃げる気かぁ?!!」
 興奮した父を刑務官が取り押さえたが最後の悪あがきか父親は悪態な言葉を吐いた。
 「許さんぞぉ!俺をこんな所に入れやがっって、此処を出たらお前を必ず見つけ出してやる!!」
 いかにも悪役がする捨て台詞感あるセリフだ。
 「さよなら父さん・・・」
 アンタに会う事は、もう無いだろう。

 刑務所の敷地内の外に出て歩きながら帰路の途中で弁護士の南原さんと雑談を交わした。
 「お疲れ様、長かったけど終わったよ」
 「有り難うございます南原さん。お世話に成りました」
 南原さんにお辞儀じぎをした。

 長かった。ホッとしたのか軽くなるのを感じる。心も身体も自分の中からスゥと何かが抜け落ちるのを感じる。
 「今後はどうするんだい?」と心配そうにする南原さんに今後について話しをした。
 「取り敢えず住み込みの派遣で仕事しながら生活をしてお金が貯まり次第、前々から考えていた計画を実行しようと思います」

 俺の言う計画というのは農業しながら自給自足生活を送るというスローライフの事だ。ストレスフリーでの生活が自分の夢だったのだ。
 先の未来を想像しながら瞳を輝かせていると前方から人影が見えた。俺を見るなり駆け寄って来た。
 「どうして、何て事してくれたのよ樹!!」
 駆け寄って来たのは俺の実の母親だった。
 「親不孝者!恩を仇で返すなんて、この恥知らず!!」
 会って早々に口汚い母親にウンザリだ。父が父なら母も母だった。
 詰め寄る母から守ろうと南原さんが前に出たが、俺は母に言ってやった。
 「何が親不孝だ、親らしい事は何もして無いだろう」
 「なっ・・・何よ、何よ!!」
 反論されてこれ以上言葉が出ないのか返す言葉が見つからずプルプル振るえながら鯉の様に口をパクパクしていた。
 「貴方が彼を責めるのは筋違いだ。親でありながら彼を守らず逃げた貴方には」
 母は逃げたのだ。子供である自分を捨てて一人で逃げた人だ。
 「貴方には接近禁止命令が出ているのをお忘れですか?」と南原さんが強い口調で母に詰め寄った。
 相手はプロの弁護士だ母が口で勝てる訳もない。それでも俺に的を絞りすり寄ってきた。
 「じゃ、じゃあ私はどうすれば良いのよ?!」
 目を血走らせ腕を掴んで離さない。
 「お父さんもアンタもいなきゃどうやって生活すれば良いのよ、この後どうやって・・・」
 勢いに任せ喋り出したかと思えば泣き出した。
 この期に及んで自分の事しか考えていない母はグズグズ泣いた。母のこんな姿を見ても哀れと思う気持ちは沸いてこなかった。むしろ怒りという感情か燃え上がっている。
 母を軽く突飛ばし言ってやった。
 
 「さよなら母さん」

 父親と同じく母とも縁を切ってやった。
 俺の顔を見て伝わったのかこれ以上母は何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。
 泣きながら俺の傍から離れ歩いていき父の元へと向かったようだ。

 今一度、両親との決別の意思を強く持って別れを告げた。

 二度と会う事が無いように・・・サヨナラ。



 弁護士の南原さんに再度お礼を伝え準備していた荷物を持って新幹線に乗り込んだ。住んでいた故郷を離れ新しい土地に移り住む為に遠い地へと向かうのだ。
 これも南原さんの助言によるものだ。彼によれば住民票を″分離″?という制度を使えば別世帯という扱いになので、親であろうと閲覧出来ないとの事だった。
 念には念をという事で遠い地での生活を選んだのだ。
 他の土地へ移る事に関して抵抗は無かった。むしろ胸が踊った。

 新幹線が走り出し放送が流れた。

 窓から見える景色を眺めふと思う。
 もし、自分の両親があんな風でなければ今も普通に生活していたのかと。記憶を思い返したが出てくるモノは凄惨せいさんな記憶ばかりだった。

 やはり、酷い親だった。
 俺の親はいわゆる″毒親″というヤツだった。

 自分がくだした、この決断を間違いだったと思わずにいられる様に後悔しない様にいが残らずに生きていきたい。


 「!?」
 これは・・・
 新幹線の窓から思いもよらない光景を目にした。
 「・・・綺麗だ」
 思わず口にしてしまった。

 夜空一面に流れる流星群ながれぼしである。
 これからの生活が善いモノになるようにと流れ星にがんをかけ祈った。
 
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