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第三部 降誕す
第398話 竜の寵愛 其の五
しおりを挟むぴちゃりと水音を立てて、竜紅人が香彩の耳裏をじっくりと舐め上げる。襞に沿って舌先を硬くして擦りながら、ようやく辿り着いた耳孔に舌を埋めた。
「あっ……んっ……!」
ゆっくりと抜き差しが始まれば淫靡な水音が頭一杯に広がって、まるで頭の奥から掻き回されて愛でられているかの様な感覚に陥る。
手で顔を隠していた香彩だったが、弱い耳をじんわりと責められて、思わず目の前にある竜紅人の肩を掴んだ。達したばかりの敏感な身体に耳孔への愛撫は刺激が強いのか、香彩は再びあらぬ声が出そうになるのを奥歯を噛み締めて耐える。だが先程の接吻で、すっかりと色付いた唇の隙間から溢れ出す荒い息を、香彩は止めることが出来ないでいた。
そうしている内に耳介ごと口腔に収めそうな勢いで耳輪を口に含まれると、彼の牙が当たる。よく知る硬い感触だった。同時に何をされるのか身体の方が先に理解してしまって、香彩は無意識の内に口元を緩める。
薄く開いた唇から、吐息混じりの艶声が洩れた刹那。
「──っ、あぁっ……!」
強く耳輪を噛まれて、香彩はびくりと身体を震わせた。痛いほどの刺激は、すぐに途方もない快楽の一部にすり替わる。知らず知らずの内に香彩の腰は、竜紅人の剛直の上で揺れていた。一度解放されたはずの若茎は既に天を向き、淫口でぷくりと水玉を作る。やがて竿を伝い流れ落ちた蜜は、竜紅人の衣着に新たな染みを作るのだ。
ふと耳輪の甘い痛みが消える。きっと牙痕があるだろうその場所に接吻を落とした竜紅人が、くつりと笑った。
「発情期中、ずっと『人』としての意識が失われるんじゃねぇよ。時々だけどな自我が戻る。思念体が本体に帰って来た後は、特にはっきりしていたな」
「思念、体……?」
「ああ。お前が蒼竜屋敷に来る少し前に、夢床にいた思念体が戻って来ていた。俺が『人』としての自我を再び失う直前だったよ。お前の艶やかな声を聞いたのは」
「──っ!」
彼のその言葉に思わず竜紅人を見てしまった香彩だったが、あまりの恥ずかしさと蕩けるような優しい伽羅色に、即座に視線を逸らした。まさか発情期の蒼竜に、竜紅人の意識が戻ることがあるなんて思いもしなかったのだ。
あの時の声を聞かれていた。
今も目の前で法悦の果てに、熱を吐き出した自分を見られていた。それがひどく気恥ずかしくて堪らない。
竜紅人の肩を掴みながらふるりと震える香彩の、白磁のような透明感のある白い艶肌に、薄っすらと朱が走る。耳輪すら血色の良い薄桃色に染まっていく様子に、竜紅人がくつくつと喉で笑った。
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