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大学へ行こう2
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「高学歴でもヘンなことやらかしていますけどね」
「もちろんそうだ。でも、少なくとも俺の周りでは、ない」
スーパーのレジ打ちしかできないパートのおばちゃんが、
乱暴な店長に罵倒されても、辞めないわけは、
辞めたら他に働く場所がないからだ。
知識がないから、どこに訴えて、どう改善できるのか
できないのかもわからない。
「それが学問がない、ということだ」
学歴はあって邪魔になるもんじゃない。
経済力はないと、あるよりは確実に不幸になる。
「俺はキミだけじゃない、
みんなにそんな惨めな思いをして欲しくないから、
いつもいろんな話をしてるんだ」
騙されないように、賢くなるように。
「大卒でひどいニンゲンはもっとひどいかも」
翔がぼそりと呟いた。
「それは俺も大いに同感だ。
何を学んできたのかわからんもんな」
一族郎党全員帝大出で、帝大以外は大学じゃない
みたいなプレッシャーの下で、潰された
やつらを結構知ってる。
何のかんの言っても、人間、一番大事なのは、ハートだ。
ここの生徒たちは、勉強は苦手だが、
心根が本当によい。
もし親に経済力と高い志があれば、安易に就職を考えず、
進学する可能性があったかと思うと、惜しい。
根本的な自己肯定感は高いようだが、
すぐに自分の学力を卑下するのが忌々しい。
できないんじゃない、やったことがないんだ、
勉強を。
高得点が取れるほどに。
家庭で学習する習慣が育たず、中学で落ちこぼされて
ここに来た生徒たちは、だから棒暗記しかできない。
しかし、俺たち偏差値55~70の教師から見れば、
ダイヤの原石がゴロゴロ転がっているわけで、
これを磨かずにはいられないのだ。
「ということで、橋詰くん。
俺たちの期待に応えてくれよな」
キミは、きっと大学に進学して輝く宝石だよ。
学問は、ひとを今まで見たこともないような
広い世界に連れて行ってくれるんだよ。
「せんせい、大学は楽しかったですか?」
「楽しかったよ、とても」
「そうですか」
そうでしょうね。
と、翔は微笑した。
「よろしくお願いします」
ナマイキな豆大福らしからぬ調子で殊勝に頭を下げるから、
なんだか勝手が違って戸惑ってしまった。
「お、おう」
次の日から、3年の秋まで翔は問題集漬けとなった。
最初は冷ややかだった「主要教科」の先生たちも、
成績が上がるにつれ、翔の模擬試験の結果を心待ちにして、
喜んでくれるようになった。
なんのかんの言っても、学校の先生というものは、
生徒の成長がうれしいものなのだ。
「もちろんそうだ。でも、少なくとも俺の周りでは、ない」
スーパーのレジ打ちしかできないパートのおばちゃんが、
乱暴な店長に罵倒されても、辞めないわけは、
辞めたら他に働く場所がないからだ。
知識がないから、どこに訴えて、どう改善できるのか
できないのかもわからない。
「それが学問がない、ということだ」
学歴はあって邪魔になるもんじゃない。
経済力はないと、あるよりは確実に不幸になる。
「俺はキミだけじゃない、
みんなにそんな惨めな思いをして欲しくないから、
いつもいろんな話をしてるんだ」
騙されないように、賢くなるように。
「大卒でひどいニンゲンはもっとひどいかも」
翔がぼそりと呟いた。
「それは俺も大いに同感だ。
何を学んできたのかわからんもんな」
一族郎党全員帝大出で、帝大以外は大学じゃない
みたいなプレッシャーの下で、潰された
やつらを結構知ってる。
何のかんの言っても、人間、一番大事なのは、ハートだ。
ここの生徒たちは、勉強は苦手だが、
心根が本当によい。
もし親に経済力と高い志があれば、安易に就職を考えず、
進学する可能性があったかと思うと、惜しい。
根本的な自己肯定感は高いようだが、
すぐに自分の学力を卑下するのが忌々しい。
できないんじゃない、やったことがないんだ、
勉強を。
高得点が取れるほどに。
家庭で学習する習慣が育たず、中学で落ちこぼされて
ここに来た生徒たちは、だから棒暗記しかできない。
しかし、俺たち偏差値55~70の教師から見れば、
ダイヤの原石がゴロゴロ転がっているわけで、
これを磨かずにはいられないのだ。
「ということで、橋詰くん。
俺たちの期待に応えてくれよな」
キミは、きっと大学に進学して輝く宝石だよ。
学問は、ひとを今まで見たこともないような
広い世界に連れて行ってくれるんだよ。
「せんせい、大学は楽しかったですか?」
「楽しかったよ、とても」
「そうですか」
そうでしょうね。
と、翔は微笑した。
「よろしくお願いします」
ナマイキな豆大福らしからぬ調子で殊勝に頭を下げるから、
なんだか勝手が違って戸惑ってしまった。
「お、おう」
次の日から、3年の秋まで翔は問題集漬けとなった。
最初は冷ややかだった「主要教科」の先生たちも、
成績が上がるにつれ、翔の模擬試験の結果を心待ちにして、
喜んでくれるようになった。
なんのかんの言っても、学校の先生というものは、
生徒の成長がうれしいものなのだ。
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