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ガラスの厨二

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「つまり、だな」


マンガ家などが、アシスタントにつづきや結末を
予想させて、出てきたのと違うものにするという話を
聴くと、何故そんなことができる?
と思うのだよ。
もし物語が生きていたら、自らの意思で
方向性が決まっていくのではなかろうか、と。
作者の完全なコントロール下におかれているということは
作品がその作家のキャパ以上には育たないのではなかろうか、とね。


「まあ、作品を暴走させすぎても、
矯めすぎてもよくないという気がするな」


「お説ごもっともですが」


翔が俺の嫌いな言葉を発した。
「お言葉ですが」も嫌い。
絶対、もっと「ごもっとも」なことが
付随してくるからだ。


「僕が思うに、そこらへんがせんせいの弱点というか
成長のない要因のひとつなのではないでしょうか」


俺は椅子から転げ落ちそうになった。
落ち着け、俺!
心頭滅却すれば火もまた涼し!


「せんせいはいつも、
『結果が変わらないのは、やり方を変えないからだ』
と言っていますよね?
今までずっとそうやって、作品を自由に
してきたのなら、今度はもう少し御してみては
いかが?」


あまりの正論に、二の句が継げない。


「映画でも、ディレクターズ・カット版とか、あるじゃないですか。
あれ、たいてい短いほうのが、いいです。
ちょっと言葉足らずなくらいでも、テンポが優先されたほうが
気持ちいいです」


なるほど、作家と読者が共に喜びあえる作品というのは、
実は幸運なのかもしれない。
ぎゃふん。


「まあ、せんせいはご趣味で描いていらっしゃるわけで、
お好きになさればよろしかろうとは思いますけどね」


ぎゃふん。


「でも、惜しいな、と思ってしまうんです。
なかなかイイ線行ってると思うから」


「ヱ!そ、そう?」


声のトーンが上がってしまう情けなさ。

こんな子どもの言葉に一喜一憂してしまう、俺って。
しかし、この綿菓子のような坊やは侮れない。
将来、かわいい顔で甘言を弄し、手練手管で女を泣かせる
とんだジゴロにならないだろうか。


「僕は女の子に興味はありません」


俺が突っ込む間もなく、


「かといって、男にも興味はありません。
僕は恋愛に興味がないのです」


それはまだキミが発情に足るほど成熟して
いないからじゃないのかね?
という問いかけには、


「そうかも知れませんが、そうでないかも知れません」


と、うそぶく。


「とりあえず、僕には恋愛以外に楽しいことがあるのです」


先生はご存知でしょう?と、不敵な笑みを浮かべて
豆大福は教室に戻って行った。



うむ。

創作は、相当に楽しい。
だが、生身の人間もいいもんだぞ?
それを識るには、キミはまだ幼すぎるのかも知れないな。
ガラスの10代は、孤独を愛するものだ。
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