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創作指南書

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「せんせいは、描くときにINPUTしない派ですか?」


梅雨入りで、蒸す上に寒いという厄介な気候だ。
生徒たちは体調を崩し、図書室は黴臭さが一層高まる。


「俺は、一切入れないな。」


行き詰まったとき、気分転換にすることはあるかも知れないが、
描いているときにINPUTだなんて、そんなひと居るのか?だよ。
そもそもたくさん読んで表現のストックにしてある。
書きはじめると、その都度相応しい言葉が出てくるのも
不思議なものだが。


「いえ、創作のマニュアル本みたいなのあるじゃないですか。
ああいうのは参考にされますか?」


した。
10代の頃だけどな。
とても勉強になった。


「だが、結論から言って、役には立たない」


「『役に立てるも立てないも自分次第』
といつも言うのはじゃあ、なんなんですか?
このウソツキ」


「直接には、だよ」


著名な作家のものを5冊ばかり読んで、たいへん
気に入ったのだが、小説は「4コマ漫画の描き方」式には
描けないことを改めて実感した。
ストーリィ漫画も構成は、起承転結、序破急などを参考に
したとしても同様だろう。

まず一番大切なのは「描きたいことがある」ということだ。
だから、漠然と何か表現したいという創作衝動だけでは、
作品という形に仕上げるのは困難だ。
仕上がれば、元々創作衝動以上の描きたい「こと」が
あったということに外ならない。

この「意志」のようなものが、まず自分の中に明確にないと
何もはじまらないわけよ。
まあ、それも最初はぼやんとしたもので、
描いているうちにハッキリしてくるということは
あると思うがね。
こういった「指南書」は、
その「描きたいこと」をいかに上手に表現するか
ということの参考にはなるかもしれない。
まあ、そこそこ描けるひとが背中を押してもらうための
もののような気がするよ。


「なるほど」


「ただ、俺、思うんだけどね」


何か描きたいことがあって、それを面白く
演出して、鑑賞に耐えるものを作品として
完成させるのはいいんだが、
面白くするために、演出を加えるのはなんだか
違う気がするんだよ。


「何言ってるんですか、支離滅裂ですよ?」


ヘイ。
伝わらないということは、自分が理解しきって
いないということだよな。
「ひらがなで」誰にでも説明できて、はじめて
己のモノになっていると言えるのだ。




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