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桃色文庫

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「では、その眼鏡ザルを
そのまま主人公に据えなかったのは、
やはり面白くないと思われたからですか?」


「そうだな」


自分で姉を「眼鏡ザル」と紹介しておきながら、
ひとさまに言われるとなんとなく腹立たしいが、
まあ、そうである。
うちの姉のように地味で性格がいいという特徴だけでは、
キャラが立たない。
俺にはそこまでの手腕がない、ということだ。


「モデルは、せんせいのカノジョさんとか?」


テルヒコは、1000HPを失った。


「違います。どんな女の子なら説得力があるか
考えたんだ!
それが創作というものだろーが」


過ぎし日の甘美な思い出に浸っていたわけではない。
想像の産物である。
クリエイションである。
むしろ翔が本気で実在だと思ってくれるなら僥倖である。


「オトコにしか興味のない女子生徒が、
尼さんみたいな先生の話に耳を
傾けると思うかね、キミ?」


「思いません」


ただあったことを書くだけでは、小説にはならない。
そのときの自分の心象風景を描きたいのだ。
感動の純化。
行間から滲み出るイマジネーション。
フィクションの中に真実を立ち上らせる
エンターテインメント。
それこそが小説の醍醐味ではないのか。


「そうですね。小説はなんらかのファンタジーが
そこに在ったほうが面白いかもしれません」


そうだよ。
自分の理想を投影できるわけだからな。


「あまりにもフェチズムが強いと、
読むひとを選びますが」


それは大いに言えてる。


「みんなの好む桃色文庫の魅力と弱点は
恐らくそこらへんなのだと思います」


お説、拝聴いたしましょう。
俺は腕組みをした。
拒絶ではない。
余裕の構えだ。
自分には関係ないからな。


「あれは単なる設定書です。」


ふむふむ。


「僕も何もかもがテンプレにしか見えませんが、
自分の細かい好みを満たしてくれるものを
選ぶのも愉しみなのでしょう」


18禁扱いではないようだが、きわどい内容だ。
ひとのシュミに介入するわけにはいかないけれども、
ペドフィリアや虐待・性犯罪ものを愛読することには、
一抹の不安はある。
中には自らが被害者であるからこそ、
そういうものに手を出す向きもあるようだが、
読んでいるのは判断力のない子どもたちだ。
ただでさえ、メディアで垂れ流される
性別役割に染まってしまうところに、
さらに「何をしても許される」何かが付加されたら
とても恐ろしいことだと俺は思う。
そもそも、あんな桃色文庫を平気で教室で
開いていること自体、セクハラになるのではないのか。
そういう感性がないところが、無邪気過ぎで本当に怖い。
せっかくだから、またいつかみんなで話し合う議題にしよう。


「だから、僕はあれらを小説として認める気には
なりません。エロ動画と一緒です」


あんなものを見ているだけで「趣味:読書」などとは
口幅ったい、と翔は苦々しそうに吐き捨てた。


「だいたい」


と、さらに翔は言葉を続ける。
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