Forever Friends

イノダのカシマさん2

「やっぱり忙しい？」


いや、時間の問題じゃないな。
描くネタには事欠かないんだが、気が乗らない。


「満ち足りてるんだね、今の生活に」


カシマさんは、口の端についたレモンのフィリングを
指で拭って舐めとった。

女の子というやつは、無意識でさえ本質的なところを、
ズバリと突いてくる生き物だと思う。
姉も怖いが、カシマさんは特に怖い。
見た目がほちゃほちゃしているから、
つい油断すると痛い目に遭う。
奥さんは、嫉妬深いところ以外ぽーとしてるけど、
でもやはり、いつどこから矢が飛んでくるかわからないという
恐怖はある。


カシマさんと仲良くなったのは、俺が部活で
お世話をし申し上げていただけではなく、
ある日ばったりとマンガ・ミュージアムで
出くわしたことからだと思う。
お互い往年の少女漫画の名作が好きなことがわかり、
「話せる相手」だと認めたんだよな。
カシマさんは自分では描かない分の、優れた鑑賞眼を
持っている。
俺が小説やマンガについてあれこれ思うところを述べ立てるのを
恵比須顔で受け、要点をまとめてくれる。
ある種、俺の創作活動を支えてくれる人物なのだ。
そして、ひとを侮ることなく、いつも真剣に応えてくれるから、
チキン・ハートな俺も、つい安心して胸襟を開いて
しまうんだ。
女の子にとっては、俺なんか「開いた本」なんだろうけどさ。


そう、俺は今まさしくリア充で、然るに創作衝動に
襲われることがない。
描かないニンゲンにはわからないことだろうけど、
創作をするという作業は、なかなかしんどいものなのだ。
プロでもアマでもその精神は一緒。
骨身を削って没入するから、疲弊する。