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act17 大人の階段
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初めてのぎこちない口づけを交わしたのは、
まさにその帰り、
バンドのメンバー行きつけのラーメン屋で、
いつものようにニンニクのたっぷり入ったのを食べた後のこと。
ファースト・キスの味に浪漫の欠片もあったものではない。
蛍子の下宿の玄関先で、唇を軽く触れ合って、顔を離すと、
ふたりで大笑いをしてしまった。
そして、しっかりハグをして、おやすみを言い合った。
外気で冷えたコートの中から、匠の体温がほんのりと
伝わってきて、冬にカップルが成立することが多いのは
自然なことだと蛍子は思った。
そんな気取らない初デートで、
蛍子は匠と一気に距離が縮まった気がした。
匠が声を上げて楽しそうに笑うのを見るのは初めてだった。
今まで関心を持って見たことがないので、
匠のことで知っていることのほうが
少ないのは当たり前だが、
これからも匠は蛍子以外知り得ない姿をいろいろ
見せてくれるのだろうか?
何か新しいことがはじまるのはわくわくするものだ。
それが初めてのおつきあいなら、なおのこと。
しかし、それは、少女時代との決別を意味する。
思いの外速い恋の進展には何の心構えもできていなかったし、
未知のものに対する好奇心と同じくらい恐怖心も
強いほうではあったが、
長子はいつもひとりで果敢に挑んでいかねばならぬ。
蛍子自身の心の問題であったが、誠実な匠が恋の相手なら、
きっと乗り越えていける、と
蛍子は思った。
ふたりの恋の伊呂波はそこそこ順調に進んでいった。
その後も恋人のステップをひとつひとつ丁寧に踏む中で、
世の恋人たちは恐らく、特別お洒落で小気味のいい
会話などしていないだろうことを知る。
まさにその帰り、
バンドのメンバー行きつけのラーメン屋で、
いつものようにニンニクのたっぷり入ったのを食べた後のこと。
ファースト・キスの味に浪漫の欠片もあったものではない。
蛍子の下宿の玄関先で、唇を軽く触れ合って、顔を離すと、
ふたりで大笑いをしてしまった。
そして、しっかりハグをして、おやすみを言い合った。
外気で冷えたコートの中から、匠の体温がほんのりと
伝わってきて、冬にカップルが成立することが多いのは
自然なことだと蛍子は思った。
そんな気取らない初デートで、
蛍子は匠と一気に距離が縮まった気がした。
匠が声を上げて楽しそうに笑うのを見るのは初めてだった。
今まで関心を持って見たことがないので、
匠のことで知っていることのほうが
少ないのは当たり前だが、
これからも匠は蛍子以外知り得ない姿をいろいろ
見せてくれるのだろうか?
何か新しいことがはじまるのはわくわくするものだ。
それが初めてのおつきあいなら、なおのこと。
しかし、それは、少女時代との決別を意味する。
思いの外速い恋の進展には何の心構えもできていなかったし、
未知のものに対する好奇心と同じくらい恐怖心も
強いほうではあったが、
長子はいつもひとりで果敢に挑んでいかねばならぬ。
蛍子自身の心の問題であったが、誠実な匠が恋の相手なら、
きっと乗り越えていける、と
蛍子は思った。
ふたりの恋の伊呂波はそこそこ順調に進んでいった。
その後も恋人のステップをひとつひとつ丁寧に踏む中で、
世の恋人たちは恐らく、特別お洒落で小気味のいい
会話などしていないだろうことを知る。
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