アブソリュート・ノーマル

神崎

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1章

9話「主人公へ」

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別に水城の両親は死んでいるわけではない。
いわゆる海外出張に行っているだけだ。一年の間に二、三回は家に帰ってきて、どんちゃん騒ぎした後にさっさと出ていくスタイルで。水城は正直いてもいなくても変わらないと思っている。

で。

異世界、居候美少女、契約主マスター、契約、両親不在、学生、と、ここまで完璧なまでに主人公としての属性を確立させていった水城。娯楽部部員は皆その方面の知識があるので、もし全部知られれば間違いなく安易な設定だと言われるだろう。とはいえ、彼が思うにまだ足りないものもある。

「ミシアよ」
「はい」
先程まで真っ赤になって固まっていたミシアも一旦落ち着いたところで、水城はその足りないものについてミシアに話をする事にした。
「ここまで完璧な主人公属性を満たしてきたわけなんだが、実は俺は特別な力を持ってる特殊な人間。みたいなのはないのか。それさえあれば後はヒロイン次第で小説書けるレベルだぞ」
水城の問いに、ミシアは凛としたまま答える。
「そうですね。確かにここまでくればその要素もあっていいかと思いますが、残念な事に水城様にはそのような要素はございません。契約適性値も下から数えた方が早いので、最初から強いという事もありません」
「まあ流石にそこまではないか」
基本的に普通が大好きな水城なので、特殊な力がなかったからといって別段気にはしないが、これではまるで、レベル上げのある異世界モノゲームのようだ。

「ていうか、ミシアはやたらそういう方面に詳しいけど(いろんな意味で)、現界に来てどれくらい経つわけ?」
そういえばそういえばと水城は首を傾げる。思えば、メイドがどうのだの異世界モノがどうのだのなんだの。ミシアはえらくそういう方面への知識がある。
「現界に来てからはそれほど時間は経っていませんが、オランジュにあった契約魔育成学校では現界の歴史などを始め、サブカル的なものも学ぶのです」
その結果妙な知識がついてしまっているわけだ。オランジュの総督府、もとい総督はどんな趣味をしてるのか大体分かる気が。
「まあ、私の場合独学要素もありますが。主に薄い本的な意味で」
恍惚な表情でうっとり呟くミシアさん。
「属性的には『ニコニコ這い寄るドS小悪魔メイド契約魔』なので、性的要素はある程度満たせそうな気が致します」
「いらん知識学ぶ必要も無いしそもそも契約魔のところしか一致してねえよ!あと性的要素ってなんだ!」
「……聞きます?(照れ)」
全力で首を横に振る水城くん。

「さてさて、水城様。これから水城様は私の契約主マスターとして戦いを強いられる事がございましょう」
三杯目か四杯目のお茶を啜り、一呼吸置いたミシアが、バラエティ番組を真顔でボーッと見ている水城にそう切り出した。
「私はそれなりに強いので大体苦戦はしないと思いますが、それでも、水城様には強くなってもらう必要があるので、戦闘は基本的に水城様に一任致します」
「ほぉ」
「危機が訪れれば迷わず守りますのでご安心を。そして、できるだけ早く他の契約主マスターとも接触を」
仲間は多くて損は無い。という考えだろう。御神総督府の規模がどれくらいのもので、どれほどの契約主マスターがいるのかも分からないが、同郷を愛するもの同士、きっとすぐに繋がれるはずだ。
「主人公属性が様々付与されていきますが、その実水城様は私にとっての主人公でございます。ヒロインとして墓の中まで共にいましょう」
「それだけはやめてくれ」
勝手に結ばれるのは勘弁だと、水城は溜め息を吐く。

「そんなわけで、私としても契約魔として時々水城様に頼る時があります」
間を置いてさらに言葉を続けてきたミシア。テレビのチャンネルは夜のニュースに替わっていた。
「なんですかね」
少し言いにくそうに頬を赤らめて、無表情な彼女が珍しく困り顔で小さく呟いた。
「お、お腹が減りました……」
「はいよ」
そう言えばもう二十二時手前か。時間が経つのは早い。水城はソファーからゆっくり立ち上がり、その後ミシアをファミレスへと連れて行った。補導時間ギリギリに店を出たのが不幸だったのか、制服を着たままのミシアと共に職務質問を受けるまでが今日の彼の一日であったとさ。ちゃんちゃん。


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