アブソリュート・ノーマル

神崎

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3章

27話「予兆」

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「ふぅん、あの人が…」
太陽も沈みかけの頃。ある契約主マスターと契約魔の様子を窺う影。
「もう少し様子を見た方がいいかもしれませんねぇ」
その影と二人までの距離はとてつもなくあったとかなかったとか。

「それで、あんたとしてはどうなのよ」
完全に日常と化した契約魔二人との生活。その夕飯時の終わりの話だ。やる事も特になくなり、リビングから出て行こうとした水城をエルメスが呼び止めた。
「何が?」
「これからの事よ。あんたは二人の契約魔を従えて契約主マスターとしているの。総督府にも所属する形になってるんだから、いい加減仕事しないと」
「仕事…か」
エルメスが言うには、契約魔と契約し契約主マスターとしてある以上は総督府側から最大限の支援が来るが、その代わりに総督府のために仕事をする必要があるらしい。以前ミシアから軽く説明自体はされていたが、水城はその『仕事』が一体何なのか理解出来ていなかった。
「仕事がよく分からないなら総督府に行ってみる事ね。……まあ、あんたは学生だから直属の仕事はないと思うけど」
「今更なんだが、その総督府ってどこにあるんだ?」
「あんたねぇ」
エルメスが呆れて溜息をつく。

「この御神にある御神総督府。正確には四つの四方総督府と中央総督府なんだけど、あたし達が属するのはこの中の南にある南総督府。ここまでは分かる?」
「まあ、なんとなく。南の方に住んでるのは知ってる」
自分が住んでいる場所にもあまり興味が無い水城。
「で、南総督府がどこにあるかって話。実は駅近。……あんたはあんまり南御神駅に行く印象ないから知らないだけだろうけど、結構広い敷地があるのよ」
「そうなのか。大体学校と商店街を通って家に帰ってくるだけだから分からなかった」
商店街から出て学校に行く道を逆に行くと南御神駅がある事すら水城はあまり知らない。
「口で説明しても難しそうね。いいわ、あたしも付いていくから、明日にでも行くわよ」
「え、明日」
「明日よ」
明日は学校なので勘弁願いたいところだが、放課後なら問題ないでしょ。と言われ逃げ場を無くす水城だった。
「なんで御神に来てそんなに時間の経ってないあたしの方が御神の地理を理解してるのかしら……」

エルメスとの話を終えて部屋に戻った水城。最近妙に疲れが取れないために夜九時を過ぎると異様な眠気に襲われるのだ。
「最近…エルメスと契約してから特に顕著だな……この疲れてる感じ」
なんとなく理由は察する事が出来る。契約適性値が低いにも関わらず二人の契約魔と契約しているからだろう。
「ふぅ。それに痛い」
疲れを感じるだけでなく、身体の節々がやけに痛む。
「エルメスはある程度カバーするみたいな事は言ってたけど、本当にカバーされてるのか、これ」
頭が重く、軽く痛む。これも契約した事による弊害なのだろうが、今の水城はそれよりも眠る事が優先事項だと考える。
「寝れば治まる…かな」
意識が遠くなった。

「強大な力には対価が伴う。ただそれだけの話よ」
「水城様は、この対価を受け止めていくしかないのでしょうか」
「そりゃあね。……でも、それを最小限に留めるのもあたし達の使命でしょ」
「はい。ですが、それでも水城様の契約適性値には問題があるかと」
「そうね。ここまで低いのも珍しいし、ここまで低い人間がどうしてマスターになれるのかも分からないわ。上からの指示とはいえ、正直納得いかないわね」
「何か、特別な理由があるのでしょうか」
「特別な理由、ね。……色々と覗いて見たけど、この子にはそんなもの、無かったわよ」
「……」
「ま、明日総督府へ行くんだし、そこで聞けばいいだけよ」
「はい」
「あんたも早く寝なさい。一応人に合わせた生活をするんだから睡眠不足はかなりきついわよ」

そして水城家の明かりは、完全に消えた。
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