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記憶だけを残して
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小柴駅から見える海を眺めながら、小畑市行きの電車が来るのを待っていた。
駅内の椅子に足をぶらぶらとさせる寧々は、図鑑を広げて今日見る生き物たちの勉強をしていた。
「これが、マンボウ!!ねえねえ覚えた!」
指で差した先にマンボウの絵が大きく描かれている。
「今日は、なにを見るの?」恵美は質問をする。
「今日はこれ!!」開いたページには、「カリフォルニアアシカ」と書いてあった。
これまたかわいい赤いマジックで描かれている絵柄で説明がされていた。
「楽しみだね。お母さんからお金もらってるから、昼ごはんも水族館で食べようね」
「うん!」笑顔な寧々。
その合間に電車が到着する音が聞こえてきた。
手を繋いで、車内へ入ると、人通りも少ない満員電車でもない、がら空きの車内のチェアに
座った。
終点駅まで着くまで20分までかかる。
それでも恵美はその合間の景色を見るのが好きだった。
車内の窓を開けると、夏風が勢いよく入ってきた。
「気持ちいい・・・」
麦わら帽子を手で押さえながら海を眺めている
線路と砂浜が連なっている中を走行していく中、海猫の鳴き声が遠くから聞こえていた。
寧々はずっとチェアに図鑑を置いて見ていた。
寧々はまだ小学2年生。恵美と年が20も離れていた。
母と父は16年前に離婚をしていた。ずっと母一人で育てていくつもりだった。
スーパーのレジと、保険会社の事務作業と掛け持ちをしていたが、過労を重ねて倒れた時期があった。
まだ高校生だった恵美は「お母さん一人では、無理よ。せめて再婚して」とせがむと。
母は、涙しながらも「うん・・・」と言うだけだった。
母も自分の身体のことがわかっていたのかもしれない。
恵美もコンビニでバイトをしたりして手伝っていた。
ある日、バイト帰りに家に帰ると静けさだけが部屋を支配していることに気づいた。
「お母さん・・・」暗くなっていた室内を照らすと
母はソファでうずくまっていた。
「お母さん!!どうしたの?」
お腹が抑えながら、苦しそうにしていた。
「ごめんね・・・恵美。まだご飯できてなくて」
「そんなこと今はいいのよ。ほら横になって」母を心配すると
「う・・・」
洗面所に走り出して嗚咽を繰り返していた。
「お母さん?・・・」
「もしかして・・」
苦しながら頷いた。
「出来たかも・・・」
「そういうことなの?え?相手は?」
恵美は嬉しそうになる。
「保険会社の方なの・・」
「そっかあ・・・でもよかったあー。私に父親ができる」
感激な半面、どんな人なのか怖かった。
「今度、ちゃんと合わせるわね」
そのまままた嗚咽を繰り返した。
後日、家に父以外の男性が来たのは、初めてだった。
礼儀正しく、お辞儀をして室内へと招いた。
「良かったら、アイス買って来たから食べてね」苦笑いにも見える笑顔で接してくれた。
リビングのソファに腰をかけて、母もその男性の横に座った。
「初めまして、中村徹といいます。岡田紀子さんと正式に付き合っています。」
緊張しているのは恵みにも伝わっていた。
二人のなり染めを聞きながらお茶を出した。
「母のどういうところに惹かれたんですか?」
恵美は父親がわりになったつもりになっていた。
「それはもう・・・可愛さとどんな人にも好かれる優しいところかな・・」
照れながら、徹は言った。
「でも、恵美さんも母親ゆずりで可愛らしい顔立ちしてますね。アイドルとか芸能人向きな」
「ちょっと・・・徹さん。それは私、ヤキモチ焼きますよ・・」
母の顔は少女に戻ったような顔でブスくれていた。
恵美は、二人の会話を聞きながら思わず「クス!」と笑っていた。
「母をよろしくお願いします。」恵美は頭を下げると
「いやいやああ・・頭下げなくても・・それはこっちだから」
徹は、謙遜していた。
とにかくよかったいい人で・・・と恵美は安堵していた。
1ヶ月後、徹さんを含めての家族の暮らしとなった。
お腹の張りが目立つようになり、新しい命がこの身体にいるんだと興味深々だった。
徹さんは仕事が忙しく、帰ってこれない時もあった。
お腹をさすることはあまりしない徹は、恵美は疑問をもち始めた。
「徹さんってあまり心配しないのかしら」と言うと。
母は「そういう人だから」と言うだけだった。
そして出産を迎えた早朝に病院に行くことなった。付き添いは恵美一人だけだった。
いくら電話をかけても繋がらない父親であるはずの徹に呆れていた。
その夜に、母は陣痛になり、分娩室にいくことなった。
恵美は、祈りながら無事に生まれくる命を願っていた。
深夜の2時をまわった頃。
「おぎゃああ・・・・・」分娩室から赤ちゃんの泣く声が聞こえてきた。
「よかったあ」ホッとついて。朝を迎えることになった。
それからもずっと、父親の徹から電話はなかった。
寧々が生まれて1ヶ月たった頃、突然の電話で母は出ると倒れ込んだ。
徹は別の女性と不倫していた。
苦しみながら産んだあの時期にはもう別の女性と共にしていたそうだ。
恵美は腹が煮えたぎっていた。
「許せない・・・」
母は、弁護士を通して離婚を成立させた。
女性二人で新しい家族と暮らすことにした。
生まれてきた「寧々」と一緒に。
駅内の椅子に足をぶらぶらとさせる寧々は、図鑑を広げて今日見る生き物たちの勉強をしていた。
「これが、マンボウ!!ねえねえ覚えた!」
指で差した先にマンボウの絵が大きく描かれている。
「今日は、なにを見るの?」恵美は質問をする。
「今日はこれ!!」開いたページには、「カリフォルニアアシカ」と書いてあった。
これまたかわいい赤いマジックで描かれている絵柄で説明がされていた。
「楽しみだね。お母さんからお金もらってるから、昼ごはんも水族館で食べようね」
「うん!」笑顔な寧々。
その合間に電車が到着する音が聞こえてきた。
手を繋いで、車内へ入ると、人通りも少ない満員電車でもない、がら空きの車内のチェアに
座った。
終点駅まで着くまで20分までかかる。
それでも恵美はその合間の景色を見るのが好きだった。
車内の窓を開けると、夏風が勢いよく入ってきた。
「気持ちいい・・・」
麦わら帽子を手で押さえながら海を眺めている
線路と砂浜が連なっている中を走行していく中、海猫の鳴き声が遠くから聞こえていた。
寧々はずっとチェアに図鑑を置いて見ていた。
寧々はまだ小学2年生。恵美と年が20も離れていた。
母と父は16年前に離婚をしていた。ずっと母一人で育てていくつもりだった。
スーパーのレジと、保険会社の事務作業と掛け持ちをしていたが、過労を重ねて倒れた時期があった。
まだ高校生だった恵美は「お母さん一人では、無理よ。せめて再婚して」とせがむと。
母は、涙しながらも「うん・・・」と言うだけだった。
母も自分の身体のことがわかっていたのかもしれない。
恵美もコンビニでバイトをしたりして手伝っていた。
ある日、バイト帰りに家に帰ると静けさだけが部屋を支配していることに気づいた。
「お母さん・・・」暗くなっていた室内を照らすと
母はソファでうずくまっていた。
「お母さん!!どうしたの?」
お腹が抑えながら、苦しそうにしていた。
「ごめんね・・・恵美。まだご飯できてなくて」
「そんなこと今はいいのよ。ほら横になって」母を心配すると
「う・・・」
洗面所に走り出して嗚咽を繰り返していた。
「お母さん?・・・」
「もしかして・・」
苦しながら頷いた。
「出来たかも・・・」
「そういうことなの?え?相手は?」
恵美は嬉しそうになる。
「保険会社の方なの・・」
「そっかあ・・・でもよかったあー。私に父親ができる」
感激な半面、どんな人なのか怖かった。
「今度、ちゃんと合わせるわね」
そのまままた嗚咽を繰り返した。
後日、家に父以外の男性が来たのは、初めてだった。
礼儀正しく、お辞儀をして室内へと招いた。
「良かったら、アイス買って来たから食べてね」苦笑いにも見える笑顔で接してくれた。
リビングのソファに腰をかけて、母もその男性の横に座った。
「初めまして、中村徹といいます。岡田紀子さんと正式に付き合っています。」
緊張しているのは恵みにも伝わっていた。
二人のなり染めを聞きながらお茶を出した。
「母のどういうところに惹かれたんですか?」
恵美は父親がわりになったつもりになっていた。
「それはもう・・・可愛さとどんな人にも好かれる優しいところかな・・」
照れながら、徹は言った。
「でも、恵美さんも母親ゆずりで可愛らしい顔立ちしてますね。アイドルとか芸能人向きな」
「ちょっと・・・徹さん。それは私、ヤキモチ焼きますよ・・」
母の顔は少女に戻ったような顔でブスくれていた。
恵美は、二人の会話を聞きながら思わず「クス!」と笑っていた。
「母をよろしくお願いします。」恵美は頭を下げると
「いやいやああ・・頭下げなくても・・それはこっちだから」
徹は、謙遜していた。
とにかくよかったいい人で・・・と恵美は安堵していた。
1ヶ月後、徹さんを含めての家族の暮らしとなった。
お腹の張りが目立つようになり、新しい命がこの身体にいるんだと興味深々だった。
徹さんは仕事が忙しく、帰ってこれない時もあった。
お腹をさすることはあまりしない徹は、恵美は疑問をもち始めた。
「徹さんってあまり心配しないのかしら」と言うと。
母は「そういう人だから」と言うだけだった。
そして出産を迎えた早朝に病院に行くことなった。付き添いは恵美一人だけだった。
いくら電話をかけても繋がらない父親であるはずの徹に呆れていた。
その夜に、母は陣痛になり、分娩室にいくことなった。
恵美は、祈りながら無事に生まれくる命を願っていた。
深夜の2時をまわった頃。
「おぎゃああ・・・・・」分娩室から赤ちゃんの泣く声が聞こえてきた。
「よかったあ」ホッとついて。朝を迎えることになった。
それからもずっと、父親の徹から電話はなかった。
寧々が生まれて1ヶ月たった頃、突然の電話で母は出ると倒れ込んだ。
徹は別の女性と不倫していた。
苦しみながら産んだあの時期にはもう別の女性と共にしていたそうだ。
恵美は腹が煮えたぎっていた。
「許せない・・・」
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