遠い記憶、遠い未来。

haco.

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託された、記録ノート

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慣れない作業をすると、身体が応えていた。
山間に立ち並ぶ民家を巡って、山の麓まで来ていた。

大木が連なっている森の暗闇から


フォー!フォー!


梟の鳴き声が響きわたっていた。



薪を割る作業で手がヒリヒリとしていた。身体全体に疲労が広がっている。

「イテテ・・・」

腰に手を置きながら

テントに入るとリュックからタオルを手に取り、ペットボトルの水で濡らした。
手を拭きながら、また薪を割った。

焚き火に必要な火力を強めるためだ。
秋になると寒さも一層鳥肌が立つほどになっている。


焚き火をつけたまま、テントの中へと入った。

薄いテント生地から見える火の光が電球がわりになる。

「よし!」掛け声をかけるとリュックから「記録ノート」を手にした。

ずっとひかかっていた彼のノートを今日こそは読もうと決めていた。

目を瞑って深呼吸を繰り返した。
記憶の中で思い出しながら、ページをめくっていく。


             ※


「1985年11月5日」

突然のことだった。職に就いて1ヶ月は経とうとした頃、彼は姿を消した。
職場でなにかあったのだろうか。

職場に問い合わせてみるが、彼の上司にあたる部長が対応してくれた。
聞いてみたが、「知らない」というだけだった。

私自身、職場まで出向いたが、関わる人すべても知らないというだけだった。

彼は、いや「山内透吾」はいったいどこへ・・・


「1985年11月10日」

忽然と彼は戻ってきた。
それは夜中に彼のいる部屋からイビキが響いていた。
ドアを半ドアにしたまま、部屋を覗くと彼は普通にベットで寝ていたのだ。

見落とすわけがない、むしろ何度も入った部屋に彼がいたら気づくはずだ。
6日間もどこへ行ったのだろう。

夜、20時になったが、起きる気配はまったくない。


「1985年11月11日」

朝の7時に彼は1階へと降りてきた。
朝食をとりながら、質問をしてみた。

「6日間もどこにいたの?」「みんな心配してたんだよ」
気をかけて言ってみた。

仕事は、辞職を勝手にすませて旅へ行ってたと彼は言った。

「すみません」と答えた。

「1985年11月15日」

職を探すことはしなかったが、たびたび外へと出かけることが多かった。

私は、そんな彼を探偵することにした。

朝、8時。「行ってきます」の一声だけで外出をして、後ろからついていった。

ただ、その時にもう見失っていた。
「あれ?どこに?」

私は思い出した。彼は瞬間移動ができることを。

諦めて休日、テレビでも見てゆっくりしようとリビングへと向かった。
ソファに横になってリモコンを取った。
チャンネルをつけると「北海道の道のくふたり旅」と題した番組があっていた。

「私は、今北海道は、神居古潭へと来ております」と女性タレントが紹介している。

神居古潭は広い景勝地、山と山に掛かる橋が印象的だ。

私はあることに気づいた。掛かる橋に複数の人たちが観光している中、彼がいたのだ。

なぜ、こんなところへ・・

画面は切り替わると、彼の姿はもう消えていた。


「1985年11月16日」

久しぶりの山内透吾を含めての家族の晩ごはんとなった。
彼に聞いてみた。

言うべきか迷った顔をしていた。
山内透吾とはそういう感じの男だ。

出会った頃も、自分のことはあまり話さない。
だが問い詰めると、観念するように話始めるのが彼の性格のようだ。

深刻な顔で
「私は、ただ導かれる様に行っただけ・・・だった。」
「だった?」と私は言った。

聞いてみると彼の中に眠る「セイカ」は、長い眠りの中、「山内透吾」を
ずっと呼んでいた。「神居古潭」へと。

なぜに「神居古潭」なのだろうか。そこへ行けば「セイカ」へと繋がるルートがあるのだろうか。

夕方のリビング、彼に託された。

「私が眠る頃、時代は巡っていくと思う。これは未来への自分に伝えてくれ」

「答えは、「神居古潭」にあると・・・」

その意味は私では理解できなかった。ただこのノートを書くことに託そうと思った。



             ※

ページを閉じると、セイカはなぜ「神居古潭」へ行くのか、少しわかったような気がした。
私たち<セイカ・山内透吾>を知る手がかりは必ずそこへあることを。

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