遠い記憶、遠い未来。

haco.

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悲しみの夜景

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その日の夜、不思議な夢を見た。

天空から人が暮らす夜中の街明かりが見えていた。

セイカはガラス張りの透明な床から下界を見下ろしている。

体を寝かせたまま夜景を眺めて、人々の生活の様子を天空から覗いていた。

手を繋いで笑いながら歩く親子が通り、サンタクロースの格好で看板をもって呼びかけをしている女性の姿が見えていた。

切り取った景色のように屋上で星空を眺めているカップルがいる、マンションの窓に映し出す人々の生活の情景が見えてくる。

窓の奥から子供にプレゼントを渡して、楽しみにあふれる家族が映っている。

どの景色にも溢れた幸せがここにあった。

ただひとつそこには、セイカは存在していなかった。

星空に近い天空で目線を自分の立たされた場所に向けてみると
ガラス張りの床は永遠に広がっていた。
空を一点にみつめていると遠い空の向こうに僅かな光が灯っていた。

この空の世界だけが孤独で支配していた。

だが、灯っている光を見つめているとそれは人の形に見えてきた。

同じように床に寝ていた。それは眠っている「彼」だった。

あの「山内透吾」。


「彼」は、遠い地でずっと寝ているままだ。

「起きて・・・」

手を伸ばしてみるが、届かない。


この手をあなたに届いてほしい・・・。


どれだけ離れていてもあなたに逢いたいの・・・。


夢の世界でも現実の世界でもセイカの思いは「彼」に向いていた。

果てしなく手を差し伸べながら「彼」のいる地に願いを込める。


下界の夜景に映し出される街の生きる灯火がセイカの孤独をさらに追い詰めていた。

お願い・・・。あなたに・・・届いて・・・

この思いを。


寝ていた「彼」のつぶらな瞳が開きはじめた。

こっちを向いて・・・と願うがゆっくりと開いてく

瞳はセイカを捉えた。

その一瞬。



「は!」


現実の世界に戻された。

「はあはあ・・・」

「夢か・・・」

テント内の天井を一点を見つめてる。

浮いている感覚がまだ少し残っている、そして汗をかいていた。
呼吸を整えながら、少し目を耳を休ませてみた。

外から渓流の心地よいせせらぎが聞こえてくる。
小鳥たちのさえずりも迎えた朝で挨拶しているように聞こえていた。


そうか、ここはまだ広島は白木町なのかと思い知らされる。

昨日は、天然温泉に使ってそのままこの場所でテントを
張ったんだとやっとはっきりしてきた。

テントから出ると、朝焼けが差していた。

まぶしさから手を伸ばして朝焼けを塞ぐ。

それでもこの世界を映し出していた。

この静けさだけが残るこの世界を。



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