遠い記憶、遠い未来。

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生きた証

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金庫の中にはビニール袋に15冊の記録ノートがきれいな状態で保管されていた。

古いノートは、1985年にも遡る。
彼はどのようにして中田家と出逢って今に至ったのか。
セイカの記憶を辿る限り、曖昧な過去でしかない。

植物人間になるまでどういった人だったのか。

このノートに書かれているのかも知れない。

精一杯の気持ちをノートに託して、ページを開いた。


「1985年8月6日」と記されていた。


         ※

山内悟という男性が私の事務所を訪ねてきた。

人探しの依頼だった。

名前は山内透吾という父親を探してほしいとのことだった。行方不明になった理由は本人も分からずにいた。

その理由を知りたいとの依頼だ。

私は普通に考えてもういないのではと思っていた。
山内悟の年齢が80だからだ。

父親はすでにいないに等しいはずなのに探してほしいと聞いてきた。なにかの原因が分かれば良いだけなのかもと思っていた。
手に持っていてた家族写真を見せてもらった。

白黒の古い写真に映る山内透吾は父親にしてはまだ若い顔つきをしていた。どこかの山奥の民家で撮った写真だった。

悟は、もう1枚の写真を差し出してきた。

その写真に映る日付を見ると1983年、ごく最近の日付であることには近い。
写真には千葉市内にある公園を撮影したものだった。

悟と他二人が映っていて、遊びの途中で撮影したとのことだった。

ただ注目するべきなのは後ろのベンチに座り混んでいる人だ。

白シャツに、パーカーを羽織っている青年だった。今どきの若い青年ではあるが、確かに父親に似ていた。瓜二つといってもいいほどの。

写真を比べてみるがほとんどのパーツがほぼ一緒だった。

私は調べてみる価値がありそうだと思い、依頼を引き受けたのだ。


「1985年8月7日」

早速、山内悟から聞いた公園とその行った時間帯を教えてもらい行くことに。

園内は、子供が遊べる遊具と周りにベンチがあるだけの狭い公園だった。
とりあえず、悟が示したベンチに行ってみた。1時間待っていたが来なかった。だが自販機でコーヒーを買っていると横に並び自販機で購入していた人物がいた。山内透吾本人だった。
信じられないとでも言うか。目を疑うほどだった。

声をかけてみると「山内透吾さんでいらっしゃいますか?」

はいと答えた。名刺を渡すと私は少し話できますか?と言うと素直に受け入れてくれた。

息子さんからの依頼で来たことを言うと、少しの合間沈黙が続いていた。

しばらくすると時間を気にしているのか、なにも言わずに別れを告げられた。

やはり、なにかを隠していることには間違いはなかった。


「1985年8月10日」

あれから渡した名刺からはなにも連絡はなかった。
とりあえず、山内悟から借りた写真を元に図書館に行くことにした。白黒の写真の時代背景に大正11年西暦で1922年ということが分かった。

1922年に起きた出来事について調べてみた。
時代背景に映る写真の中に気になる記事があった。

〈北陸本線勝山トンネルにて雪崩が発生。列車が巻き込まれ死者90人、負傷者40名〉と書かれた記事の写真にその当時の生なましい泣き崩れた人の中に、山内透吾らしき人物が映っていた。

また同じだと私は思った。

さらに過去を遡ってみると、第二次世界大戦にての戦時中に出向いた日本兵の中にも映っていた。

私は驚いた。彼は〈山内透吾〉は不老不死ではないのかと。

私は彼の生きた歴史をさらに調べた。

日本の歴史において彼が生きてきたのは平安時代にも記されていたのに驚いた。

「琴葉集」という古典の中に不老不死なる怪物と書かれた箇所がある。清原初雨という女性が書いた古典のようだ。

――――――――――――
私は彼を愛した。歳取ることのないあの方は、私を愛し私も愛した。奈落の底までにも誓った。
――――――――――――

隣の項目には水墨で書かれた似顔絵があった。

どことなく山内透吾本人に似てるような感じだった。

私は、もう一度彼に会おうと決めた。

これが事実なら、私は受け止めようと。

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