遠い記憶、遠い未来。

継承を継ぐ者

鳥達のさえずりが静かに耳に聞こえてくる。

森林の景色は太陽からの日を浴びて、木漏れ日に降り注いでいた。
古びて倒れた木に苔がびっしり付着していた、木造の機体にも苔が生きていて自然の静かな流れがこの瞬間を輝かしていた。

この世界を潤すように。



一匹のリスが、苔に乗っているどんぐりを手に持って、ノアの中へと侵入していた。

「うっ・・・」

突然の声にリスは、びっくりしてどんぐりを持ったまま林の中へと逃げていった。

眩しさのあまりにファルファトは、目を覚ました。

木造のノアに戻っていた。光が照らし続けている木漏れ日の中を眩しさから手を仰げながら、目がつぶってしまった。

「戻ったのか。」

頭は、整理ついてなかった。
あの「セイカ」という少女の人生を目の当たりにした自分は、どう整理をしたら良いか、わからずにいた。

ただ、こみ上げていく感情はあった。

「こんなの見せられたら、たまったもんじゃないな」
腕を後ろに回して、仰向けになった。

差し込む光の場所で。

「分かってくれましたか？」

ファルファトは、声をかけられた方向を向いた。

羽角蓮が木箱に座っていた。

「いたのか、君は」

「ええ、私の過去はただのコピーでしか過ぎないが、それでもあなたには伝えたかった。ほんとうの真実を。」

「コピー？どういうことだ？」

「私は、ただの人に作られた造形物にすぎない。」
「私はクローン人間なんです。」

「どういうことだ。ほんとうのことを頼む。君はいったいなにがしたいのだ？」

体験してきたすべてを目にしてきて、もうなにもかも信じるしかないようだ、ファルファトは悟っていた。

「地球を創造して、最初の人間であることは変わりはありません。」
「私は、本体である山内透吾という身体の細胞から作られたクローン。記憶はそのまま引き継いでいます。」

「その山内透吾とやらはどこにいるのだね？」

「今はまだ寝ています。日本の東京という場所で。」

「いつ目覚めるかはまだわかりません。少なくともですが、私には寿命というモノがある。彼が目覚める時は、私は存在しなくなる」

「クローンと人間は共存できないということか」

「はい。父の誤算です。」

「父？羽角と言ったな。HASUMIグループか！」

「はい」

「なるほど、あれほどの技術を持ったグループだ。クローン技術も
作れるかもな」

「私は、あなたに託したいのです。あなたの中に眠るレンを」

「・・・・・。」ファルファトは半信半疑だった。


「何度も私は、見てきました。命の尊さを死にゆく命もあれば継承していく命づながある」

「私はずっと、レンと共に時代を渡り歩いてたのです」

「輪廻転生を繰り返しながらも、レンの存在は移り変わっていく」

「あるときは、その時代に生きてきたレンと共にしてきました」

あのときからわかっていた。日本で共に歩んできた。
生まれ変わっていくレンの魂を。

《初雨》

《山内聡子》

《中田廉》

《中田先生》

彼らの心には、レンがいた。

そして

《ファルファト・ミルロ》

「なぜ、わかっていた。」
ファルファトは言った。

「この世界は私が創造した世界です。無の時から抱いた世界を私は、彼らの逝く運命をしっていた。」

「私は、あなたが来ることを分かっていました。」

「導かれていくままにこのノアの方舟まで来たことを」

「あなたの心の中のレンがそうさせているから」

蓮は、ファルファトの心に話かけていた。

「あなたにはもうわかっているはずだ。ほんとうのノアがどこにあるか」

「記憶は、蘇るものなんだな。。」記憶を遡りはじめていた。

ファルファトの前世の記憶は確かに、古代の地球に降り立ったときから始まっていた。

あのノアの方舟に乗ってきた、マルデック人の一人だと言うことを。レンの魂はその祖先に注がれていた。

「そうか・・・」ファルファトは、思い出したように歩き始めた。

木造のノアの下に、小さな穴があるのに気付いた。

木の欠片を両手で持つと掘っていた、深く掘り続けていくと

「ガスッ・・・・」

「ガスッ・・・・」



「そうだ。ここだ・・・」

金属板が下からめくりでていた、ただの一部分にしかすぎない。
どれだけ巨大な宇宙船かを想像できる。

「あったよ。。蓮くん」
泥まみれの顔の下で泣いていた。

これ以上、掘り続けることはなかった、巨大な方舟はただの「タイムカプセル」でしかないのだから。

ようやく巡り会えたよ。



セイカとレンの運命を

「方舟が乗せてきた運命を」