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第6章 沢田くんと夏の恋花火
沢田くんと恋の砂
しおりを挟む「……これは?」
手のひらサイズの透明な瓶の中には、白っぽい砂が入っている。
「トルコを旅していた時に旅のジプシーからもらった『恋の砂』です。恋人の気持ちが分からなくなった時、これを自分の頭に少量振りかけると、相手の気持ちが分かるようになるっていうおまじないで……。あっすいません、急にベラベラしゃべって気持ち悪かったですよね。恋の砂なんてウサンくせーって思いましたよね。すみません」
「いえ……」
「でも、も、もし良かったら、どうぞ」
お父さんは私に瓶をくれた。
「案外、こういうものが効くかもしれないと思いまして。困ったときの神頼み的な」
「あ……ありがとうございます!」
街灯に透かして瓶の中身をよく見ると、砂の中にいくつかハート型の砂が混ざっているようだった。
何だか可愛いと喜んでいるうちに、沢田くんの家に到着した。
この中に沢田くんがいる……。
見覚えのある玄関のドアを見て、ドキンと心臓が跳ね上がった。
「た、た、た、ただいま帰りました」
沢田くんのお父さんが沢田家のドアを開けると、中から「はーい!」と声がして、息を呑むほど艶やかな女性が現れた。
落ち着いた柄の藍染の浴衣を着ているのに、大輪の花が咲いたように華やかで、まるで江戸時代の花魁が現代に蘇ったみたいに綺麗な人だ。
もしかして、この人が沢田くんの……?
驚いて言葉が出ない私の目の前で、
「お帰りなさい、お父さんっ」
と、その花魁が変質者そっくりのお父さんに抱きついた。
「もーバカバカバカバカ! ずっと連絡もよこさずに! 待たされるこっちの身にもなってよーっ!」
「す、す、す、すみません……あと、暑いです」
「だったら脱ぎなさいよそんなマスクとコート!」
スパーン! とおじさんの頭になぜかハリセンが飛んできて、おじさんの丸サングラスがパリーン! と割れた。
「ええええええっ⁉︎」
ハリセンの威力にも驚いたけど、もっと驚いたのはおじさんの素顔だ。
「す、す、す、す、すみません……」
そう言って割れたサングラスとマスクを外したおじさんは、沢田くんによく似た超イケメンだったのだ。
「変な女に言い寄られたりしなかった?」
「だ、大丈夫です。ずっと顔を隠していたので……」
美男美女の沢田くんのご両親は私の存在などまるで気にせずラブラブに抱き合っている。こっちが照れちゃうくらいのイチャイチャぶりだ。
あー、久々に自分がモブだってことを思い出したわ。
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