138 / 160
第6章 沢田くんと夏の恋花火
沢田くんとお父さん
しおりを挟む「す、す、すみません、家まで案内してもらっちゃって」
「いえ、いいんです。私も沢田くんと会えるなら、好都合だったので」
沢田くんが「行けない」って言っていた理由もわかり、私の心は少し軽くなっていた。
四年ぶりの家族の集合だもんね。沢田くんがそっちを選ぶのは当然のことだ。私は毎日学校で会っているんだし──。
お父さんの顔見たら、沢田くん喜ぶだろうな。
今夜は、その顔を見るだけでいいか。
群青の空に浮かんだ星を見上げて、私は必死で自分にそう言い聞かせていた。
「さ、佐藤さんは、空のお友達と言っていましたね……」
「あ、はい」
歩きながら、沢田くんのお父さんがモゴモゴと話しかける。
まだ恋人関係だとは言えないから、私はさっき駅でそう説明していた。
「驚いたなあ……。空に友達ができるなんて」
沢田くんのお父さんはしみじみとつぶやいた。
「小学校も中学校も、全然友達ができなくて、あの子はもうずっと一生ひとりだと思っていたんですが……」
「そんなことないですよ」
私はそっと微笑んだ。
「沢田くんのこと、本当はクラスのみんなも大好きなんです。超人気者なんですよ。でも、沢田くんだけがそれに気づいていないんです」
「そ、そうなんですか? でもあの子、無表情でしょう」
「表情に出てないけど、感情は豊かですよ、沢田くんは」
びびったり、浮かれたり、沈んだり。私の言葉ですぐに一喜一憂する。
沢田くんの心の声がもう一度聞きたいな……。
「……どうしましたか?」
「え?」
「なんだか、急に暗くなっちゃったので……あっ、ごめんなさい。詮索するようなこと聞いちゃってごめんなさい。空と何かあったんですか? あっ、立ち入りすぎましたよね、ごめんなさい」
沢田くんが心の声を解放したら将来お父さんみたいになるのかなと思うと、私はつい笑ってしまった。
沢田くんのことが心配なんだろうな。いいお父さん。
まるで沢田くんと話しているみたいで、気持ちがほぐれる。
「……実は私、以前は沢田くんが黙っていても、沢田くんが何を考えているのかすぐに分かっていたんです」
気づいたら、私はそんなことをお父さんに語っていた。
「でも最近、急に沢田くんが何を考えているのかが分からなくなっちゃって……」
「……なるほど。空も思春期になったってことなんでしょうかね……? だから素直になれなくなった、とか……」
そういうじゃなくて、前はリアルに考えが聞こえていたんですよ。
とは言えず、私は黙ってうつむく。
「あっ、そうだ。いいものがあります」
沢田くんのお父さんはコートにたくさんついているポケットをひとつひとつまさぐり、最終的に小さなガラス瓶を取り出した。
「こ、こ、これ……どうぞ」
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる
まるせい
青春
高校に入学して暫く経った頃、ナンパされている少女を助けた相川。相手は入学早々に学園のマドンナと呼ばれている渡辺美沙だった。
それ以来、彼女は学校内でも声を掛けてくるようになり、なぜか毎週「週末の御予定は?」と聞いてくるようになる。
ある趣味を持つ相川は週末の度に出掛けるのだが……。
焦れ焦れと距離を詰めようとするヒロインとの青春ラブコメディ。ここに開幕
矢倉さんは守りが固い
香澄 翔
青春
美人な矢倉さんは守りが固い。
いつもしっかり守り切ります。
僕はこの鉄壁の守りを崩して、いつか矢倉さんを攻略できるのでしょうか?
将棋部に所属する二人の、ふんわり将棋系日常らぶこめです。
将棋要素は少なめなので、将棋を知らなくても楽しめます。
幼馴染はファイターパイロット(アルファ版)
浅葱
恋愛
同じ日に同じ産院で生まれたお隣同士の、西條優香と柘植翔太。優香が幼い頃、翔太に言った「戦闘機パイロットになったらお嫁さんにして」の一言から始まった夢を叶えるため、医者を目指す彼女と戦闘機パイロットを目指す未来の航空自衛隊員の恋のお話です。
※小説家になろう、で更新中の作品をアルファ版に一部改変を加えています。
宜しければ、なろう版の作品もお読み頂ければ幸いです。(なろう版の方が先行していますのでネタバレについてはご自身で管理の程、お願い致します。)
当面、1話づつ定時にアップしていく予定です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる